EFFECT MONSTERS
「ただいま!」


ユートと出掛けてくると言ってからまだ半日しか経っていない。お昼は、と聞いたら、食べてきた、という言葉が帰ってくる。洋子がリビングから顔を出すころには、バタバタとスリッパも履かずに階段を駆け上がっていく遊矢が見えた。あたりまえのように投げ出された靴にああもうと言いながら、洋子は靴をそろえていると、なーごと愛猫がすり寄ってきた。ごろごろ鳴らす猫を抱き上げ、洋子は二階を見上げる。よほどあわてていたのだろう、わずかに開いた隙間から口上を練習する遊矢の声が聞こえてくる。肩を震わせた洋子は、リビングに戻り電話を掛ける。


「もしもし?榊洋子ですけど。ええ、塾長にちょっと伝えてくれる?遊矢は15時ごろまで行くのが遅くなるって。そうそう、ちょうど今帰ってきたとこなの、あれじゃだいぶんかかると思うわ。そういうこと、だからよろしくね」


馴染みの事務員の笑い声を最後にワイヤレスの子機を置き、不思議そうに見上げている猫に洋子は笑いかける。さあさ、あっちで遊んでなさい、とリビングに戻して扉を閉める。反対側にあるキッチンに行く前に着替えをしなくては。3時間も遅れて始まる講義のお詫びとして、遊矢にお土産を持たせてやるのが今の洋子にできることである。


数時間もすれば、時計にやっと気付いたのか悲鳴が上がる。転がるように降りてきた遊矢のどんどんという音が玄関に響き渡る。うるさい、と言いながら洋子は靴の爪先を叩いている遊矢に紙袋を突き付ける。


「ほら、遊矢、持って行きなさい」

「え?なんで」

「どうせこれから遊勝塾に行くんでしょ、遊矢。ちょっと作りすぎたのよ。だからついでに持ってって」

「わかった」

「というわけで持たされたんだ、これ」


遊矢はそう言ってアップルパイを差し出した。簡易なアップルティーも入っている。


「ちょうどいい時間にきたわね、遊矢。比嘉君のお母さんがケーキ買ってくれたんですって。だから一緒に食べましょ」

「ほんとに?ありがとう、比嘉」

「こちらこそ、今日はよろしくおねがいします、榊先輩!」

「ああ、よろしくな!すごい、いろんなのあるなあ。もうとってもいい塾長?」

「あー、だめ!さっきまで融合の講義頑張ってた私から先に取らせてよ、遊矢!」

「えー、これから他の特殊召喚全部やるオレの方が先だろ?」

「じゃあ、食器とってきなさいよ」

「ちえー」


こうしてティータイムを楽しんだのち、みんなで片づけをした教室はきれいさっぱりになる。




塾長から渡されたデッキとプレイマットを前に遊矢は比嘉に向き直る。


「レディースエーンドジェントルメン!これよりお目にかけますのは、わたくし榊遊矢による講義でございます!さあさあ、Mr.比嘉。まずはこのプリントをご覧ください」

「は、はい」

「ルールを守ってこそ楽しいデュエルモンスターズができるというものです。明るく楽しいエンターテイメントをお届けするためにも、遊勝塾のひとりとして、しっかりと学んでくださいね」

「わかりました!」

「はい、ありがとうございます。それではまず、効果モンスターから始めていきましょうか」

「えっ、効果モンスターですか?榊先輩」

「そうですが、どうしました?」

「いえ、あの、儀式融合と来たのに、どうしていきなり効果モンスターなのかなって」

「ああ、なるほど。それはですね、魔法や罠を教わった後すぐに効果モンスターについて勉強すると、間違いなくMr.比嘉の頭の中が混乱してしまうからです。それなら儀式や融合といった特殊召喚を少し学んでからの方がわかりやすいという塾長の判断ですよ。それでは、始めていきましょうか。このオレンジ色のカードのことですね」

「塾長のエースですね」

「ええ、そうでしたね。効果モンスターはわかりやすくいえば、モンスターなのに魔法カードのような効果が使えるモンスターのことです。ですから融合モンスター、儀式モンスター、シンクロモンスター、エクシーズモンスター、ペンデュラムモンスターでありながら効果モンスターなカードもあるわけですね。ですから効果モンスターは融合や儀式のように特殊な召喚方法があるわけではありません。一番分かりやすいのは、種族の横に【効果】と書いてあるかどうかですね」

「えーっと、それじゃあ、塾長や柊先輩のエースもそうなんですか?」

「ええ、そうですよ。塾長のエースも、柚子のエースも、どちらも【効果】と書かれていますから、高レベルの効果モンスター、融合の効果モンスターなわけです。モンスターの効果は基本的に裏側表示では発動することができません。そして、フィールドによって効果を発動できるモンスターの他にも、さまざまな場所で効果を発揮するモンスターがいます。たとえば墓地や手札、除外ゾーン、デッキやエクストラみたいな特定のゾーンに戻った時発動する効果もありますよ」

「ああ、なるほど。たしかに、今の僕なら柊先輩と塾長のエースと、儀式モンスターを見たから、なんとなくですけど効果モンスターがわかります。いろいろあるんですね」

「そうだなあ。デュエルモンスターズが始まったばかりのころは、普通のモンスターが多かったんだぞ、昴君。今となっては効果モンスターの方が多いけどな」

「ちなみに普通のモンスターは通常モンスター、もしくはバニラっていわれてるのよ」

「へー、そうなんですか。わかりました」

「そんな効果モンスターは、大きく分けて4つあります。タイプの名前を覚える必要はありませんが、それぞれ代表的なカードを紹介していきますね。さて、ここまで何か質問はありますか?Mr.比嘉?」

「あ、は、はい。魔法カードみたいなってことは、えーっと、永続とかがあるってことですか?」

「ええ、そうです、その通り。よく覚えてましたね。ですから塾長は先に魔法カードについて講義したんだと思いますよ。Mr.比嘉も覚えるのが早くて助かります」

「ありがとうございます!ボクも学校が始まっちゃうので、少しでも覚えようと思ってるんです。間違ってたら教えてください」

「もちろんですよ。わからないことがあったら、また質問してくださいね。さて、それでは説明に戻りましょうか。まずは永続効果があるモンスターからいきましょう。永続効果はモンスターがフィールド上で表側表示になっている限り、効果がずっと発動し続けるのが特徴です。そしてポイントなのは、発動するタイミングがないことですね」

「えっと、永続魔法は発動を宣言しないといけなかったんですよね?」

「ええ、そうです。ですから、それが永続効果を持つモンスターと永続魔法の違いですね。モンスターが表側表示になった瞬間から、効果はすぐに発動することになります。そして、破壊されたり、除外されたりしてしてフィールドから離れた瞬間、効果がなくなります。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、とテキストに書かれていれば永続効果ですよ。ですから、モンスターの効果を上手に使うには、モンスターを相手の攻撃や魔法罠から守ってあげることが大切になりますね」

「ってことは、プロのデュエリストさんが時々、モンスターの効果を説明してるのはなんでですか?ほんとはいらないですよね?発動するって言ったから効果が発動したわけじゃないのに、なんでだろ?」

「あれは観客や視聴者向けにわかりやすく説明しているんですね。発言した後で効果が発動したわけではないので、効果を無効にする魔法や罠は使わないようにしましょう」

「あ、はい、わかりました。えっと、じゃあ永続魔法と永続効果のモンスターが発動しちゃったら、どうなるんですか?」

「それはですね、あとからゆっくり説明するので、今は置いておきましょうか」

「了解です」

「人造人間サイコショッカーのようにお互いの罠が一切使えなくなったり、コマンドナイトのようにおなじ種族のモンスターの攻撃力を上昇させたりすることもできます。逆に相手の攻撃を下げる効果なんてのもありますよ。よくフィールドを見て、召喚するモンスターを決めましょうね」

「はい、わかりました」

「二つ目は起動効果があるモンスターです。この効果は発動する時に、宣言をする必要がある効果ですね」

「ってことは、通常魔法とか、速攻魔法みたいなものですか?」

「そうですね。自分でいつどこで効果を発動させるのか、タイミングが選べる効果でもあります。ただし、基本的には自分のメインフェイズでしか発動することができませんから注意が必要ですね。効果を発動する時に、手札を捨てる、モンスターをリリースすると言ったデメリット、つまりコストがあるカードもあるので、よくテキストを読んでおきましょう」

「えっと、通常魔法みたいなものですよね?」

「ええ、そうですね。ちなみに【この効果は1ターンに1度】とテキストに書いてある場合ですが、それは効果を使ったモンスターにだけ適応されます。ですからフィールドに同じ名前のカードがもう1枚あれば、もう1枚のモンスターの効果を使うことはできますよ。そして、効果を使ってしまったモンスターは、一度フィールドを離れたり、裏側表示になったりしたら、リセットされることになります。もう1度フィールドに呼び戻したり、表側にすれば効果が使えるというわけですね。ただし、【(モンスターの名前)の効果は1ターンに1度だけ】とあった場合は、他に同名モンスターがいても、1ターンにたった1度しかほんとうに効果を使うことができません。ですから要注意です」

「うわ、テキストがちょっとしか違わないのに、そんなに違うんですね」

「そうですね。ですからデッキに入れるカードはよく読みましょうね、Mr.比嘉」

「はい」

「これは魔法や罠にも言えることなのですが、モンスターの効果は1度発動に成功してしまえば、発動したモンスターを破壊したり、除外したり、裏側表示にしても無効にはなりません。効果を無効にする魔法や罠、モンスター効果を使わないといけないので、それも注意が必要ですよ」

「あ、そうなんですか」

「分かりやすく言えば、拳銃と弾丸って話が有名だな。拳銃がカード、弾丸が効果だとするだろ。拳銃を撃ってしまえば、いくら拳銃を破壊しても発射された弾丸はなかったことにはできない。弾丸を防弾ジョッキでとめたり、吹き飛ばしたり、真っ二つにするしか止める方法は無いわけだな」

「あー、なるほど。なんとなくわかりました」

「ありがとうございます、塾長。代表的なカードと言えば、ならず者傭兵部隊のように自分をリリースすることで効果を発揮するモンスターがありますね。この効果を使えば、相手フィールドに強力なモンスターがいて攻撃できない時でも、そのモンスターを破壊することができます。こうやってうまくやってください」

「はい」

「3つ目は誘発効果があるモンスターですね。モンスターが召喚された時やエンドフェイズ時など、あるタイミングでしか効果を発動できないモンスターのことです。相手がそのカードを知っていたら、事前に何がしたいのか分かってしまいますし、対策されてしまう効果でもあります。でも、他のカードの効果とコンボを決めたり、プレイング次第で狙ったタイミングで発動を狙える効果でもあるんですよ。さきほどの起動効果との違いは、条件さえ満たせば相手のターンでも発動することが可能なのです」

「どんなカードがあるんですか?」

「そうですね、有名どころではサイバー・ドラゴンでしょうか。相手フィールドにモンスターがいて自分のフィールドにモンスターがいない時、手札から特殊召喚することができます。これは自身の効果が起動効果となっていますね。さてMr.比嘉、1ターンに何度も行える召喚はなんといいましたか?」

「えっとたしか、特殊召喚、でしたっけ」

「そのとおり。通常召喚以外の方法でフィールドにモンスターが召喚されれば、それはすべて特殊召喚となります。それは効果モンスターでも同じことが言えます。モンスターの起動効果には2種類あります。まずはモンスター自体が条件を満たせば何度でも特殊召喚ができるサイバー・ドラゴンのようか効果。そして他のカードの効果で特殊召喚できる効果。これはブリキンギョのように手札のモンスターを特殊召喚できる効果のことです。つまり、特殊召喚によって複数のモンスターをフィールドに出せれば、それだけ有利になりますね。レベルやステータスが低いモンスターを特殊召喚して、リリースすることもできます」

「なるほど、モンスターの召喚も順番考えないといけないんですね」

「そうですね。あとは、リバース効果も有名どころの起動効果でしょうか」

「リバース効果?」

「裏側守備表示のカードを表側攻撃表示にすることをリバースといいます。そのときに効果を発動するモンスターの効果のことですね。反転召喚の時、裏側守備表示のモンスターが攻撃された時、に発動するカードです。裏側なので相手は何のカードかわからないので、うかつに攻撃すると何が起こるか分かりませんよね?だからリバースモンスターかもしれない、とセットしたモンスターは警戒させることができる。どうして警戒しなければならないのかというと、リバース効果の特徴として、リバースした時に必ず効果が発動するというものがあるんです。これはとても厄介な効果です。モンスターの効果によっては、こちら側の魔法や罠、モンスターの効果で失敗させることができるのですが、リバース効果はそれができないのです」

「え、じゃあ、どうやってどけたらいいんですか?」

「リバースさせなければいいんですよ。裏側表示のまま除外したり、墓地に送ったり、こちらに移動させてリリースしたり。あるいは効果を無効にする魔法や罠を予め発動しておくという手もありますね。方法は様々なので、じっくり考えてみてください」

「なるほど、結構あるんですね。わかりました」

「さあいよいよ最後の効果になりましたね。4つめは誘発即自効果があるモンスターです。使えるタイミングは固定されていますが、相手のターンでも発動させることが可能というとても特別な効果なんですよ。ですから相手に気付かれにくいという特徴があるのです。具体的には3つの種類に分けられますね。まずは特定のタイミングで発動できる効果。つぎは自分が好きなタイミングで発動できる効果。さいごは特定のタイミングで発動する強制的な効果。これらの効果は速攻魔法によく似ています」

「速攻魔法ですか、そっか、相手のターンでも使えるっていってましたよね」

「よしよし、いいぞ。その調子だ、昴君」

「ありがとうございます、ボク、がんばります!」

「これで、効果モンスターの種類についての説明を終わるといたしましょう。次回からは、ちょっと難しくなりますが、ついてきてくださいね」

「え?」


prev next

bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -