比嘉が遊勝塾のチャイムを鳴らしたのは、約束の時間の15分ほど前だった。いらっしゃい、と出迎えた柚子に、あれ、と比嘉は首をかしげる。
「おはようございます、柊先輩。あの、今日は榊先輩は来られてないんですか?」
「ああ、うん、ごめんね比嘉君。遊矢、ちょっと用があって午後になるまで来れないみたいなの。比嘉君の講義にはちゃんと間に合うようにするからってメールあったし、待っててくれる?」
「あ、はい、わかりました。でも、榊先輩、お忙しいならシンクロ召喚とかの講義は無理なんじゃ……?ご迷惑じゃありませんか?」
「そんなことないわよ、全然!だって遊矢が遅れるのは、ちゃんと比嘉君に教えたいからだって言ってたしね」
「そ、そうなんですか!?」
「だからそんなこと言わないであげてよ、遊矢、すっごく張り切ってるんだから」
「わかりました。ありがとうございます」
「それは遊矢に言ってあげて。じゃあ、遊矢が来るまでに、融合召喚について、しっかり覚えちゃいましょうか」
「はい、わかりました!よろしくお願いします、柊先輩!」
あ、そうだ、と比嘉は柚子も知っている洋菓子店のロゴが入った紙袋を渡した。
「どうしたの?これ、最近できたケーキ屋さんじゃない!」
「お母さんが持って行きなさいって」
「いいの?!ありがとう、比嘉君!事務室の冷蔵庫で冷やしとくね。遊矢が来たら、みんなで食べましょうか」
「はい!」
こうして、比嘉のデュエリストミーティングは2日目を迎えた。
「それじゃあ、まずは融合モンスターについて説明するわね」
「はい」
柚子が差し出したのは紫色と緑色のカードだ。
幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ(光)
☆☆☆☆☆☆
【融合・効果】
「幻奏の音姫」+「幻奏」モンスター
@このカードは戦闘・効果では破壊されず、このカードの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。Aこのカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後に発動できる。そのモンスターとこのモンスターのもともとの攻撃力の差分のダメージを相手に与え、その相手モンスターを破壊する。
「かわいいモンスターですね」
「ありがとう、比嘉君。これは私のエースモンスターなの」
「そうなんですか?!あの、見せてもらってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。もちろん」
「やった!ありがとうございます!」
昨日は塾長のエースを見せてもらったばかりだ。それに、憧れのデュエリストのエースもみることができた。今回は柚子のエースを見せてもらえた。パステルカラーな色合いの華の妖精を見つめる比嘉はとてもうれしそうだ。きらきらしているところがとてもきれいだと比嘉はいう。
「融合モンスターは、デッキにいれることはできないの。エクストラデッキに入れて、エクストラゾーンにおいてね。融合モンスターを召喚するためには、魔法カードの融合と、カードに書かれているモンスターがいるの」
「なにも書いてないから、融合のカードは通常魔法なんですね」
「あ、さっそく昨日習ったことに気付いたのね?やるじゃない」
融合
@自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地に送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
「このテキストに書かれている通り、フィールドが手札に融合の素材になるモンスターがいる時、このカードを発動させると初めて融合モンスターを特殊召喚できるのよ」
「もしいなかったらどうなるんですか?」
「もちろん融合召喚は失敗しちゃうわ。だから注意してね」
「はーい」
「融合するには3つ方法があるわ。まずは手札のモンスターとフィールドにあるモンスターを墓地に送る。次に手札から2枚のモンスターを墓地に送る。あとはフィールドのモンスター2体を墓地に送る。こうやって融合素材モンスターはフィールドから、手札から、フィールドと手札の両方から選ぶことができるのよ」
「あの、柊先輩。フィールドのモンスターは表でも裏でもいいんですか?」
「ええ、いいわよ」
「わかりました」
「あとはね、融合カードを使わなくても、融合召喚できる方法はあるの。たとえば、龍の鏡とか、フュージョン・ゲートとか、ミラクル・フュージョンとか、ジェムナイト・フュージョンとか、インスタント・フュージョンとかね」
「へー、いろんなカードがあるんですね」
「そうね。融合召喚は決まったカードを3枚も使っちゃうから、専用のサポートカードを使ってあげる必要があるのね。専用のサポートカードには、魔法カードとかモンスターがあるのよ」
「サポートするモンスターもあるんですか?」
「ええ、あるわよ。こういうのとかね」
柚子はカードを差し出した。
沼地の魔神王
☆☆☆(水)
【水族】
@このカードは、融合モンスターカードにカード名が記された融合素材モンスター1体の代わりにできる。その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。A自分メインフェイズにこのカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。デッキから融合1枚を手札に加える。
「融合召喚は、手札をたくさん使っちゃうから、カードをデッキからひけるカードも心強い味方ね」
「なるほど、そうやっていろんなカードでデッキを作っていくんですね」
「ええ、その通りよ。私の使ってる幻奏のデッキも、いろんなサポートをしながら融合召喚をしていくデッキだしね。それじゃあ、融合召喚の順番を説明するわね。融合召喚はメインフェイズにしかできないから注意よ。まずは、手札かフィールドに融合惣菜のモンスターと融合のカードを準備するの。つぎに、融合のカードを発動させて、魔法&罠ゾーンにおいてね。そのあとで融合素材のモンスターを墓地に送るの。逆にしちゃったらダメだからね。そうそう、裏側になってたり、手札のモンスターを墓地に送るときは、なんのモンスターを墓地に送るのか相手にちゃんとみせること。ちゃんと融合素材として正しいモンスターを墓地に送ったか、相手に確認してもらうことは、マナーとして当然だからね」
「はい、わかりました」
「最後にエクストラデッキから融合モンスターをモンスターゾーンにおいて特殊召喚するの。表側攻撃表示でも表側守備表示でも構わないけど、裏側にしちゃダメだからね」
「了解です」
「あ、そうそう。融合するときは、融合を発動しますってだけでいいからね。どんな融合モンスターを召喚するのかは言わなくてもいいの。それはモンスターゾーンに置くときに言えば大丈夫」
「はい」
「ここで注意しないといけないのは、墓地に行った融合モンスターをフィールドに特殊召喚する時ね」
「え?なにかあるんですか?」
「そうなの。実はね、カードの中にはエクストラデッキからモンスターをフィールドに連れてこれる効果があるの。そんなふうに、ちゃんと融合召喚しないで墓地にいっちゃった融合モンスターは、墓地から特殊召喚することができないっていうルールがあるの。融合召喚を1度でもしていれば、墓地から何度でも特殊召喚できるんだけどね。これを【召喚制限】っていうわ」
「召喚制限ですか」
「そうよ。ちなみに手札のモンスター2枚で融合することを【手札融合】、フィールドのモンスター2枚で融合することを【フィールド融合】っていう人もいるんだけど、公式の用語じゃないから注意してね」
「なんだかかっこいいですね」
「でしょ?カードによって、手札やフィールドだけじゃなく、墓地やデッキから融合召喚する場合もあるから、テキストをよく読むこと。これはどのカードでも大事なことだけどね」
「わかりました」
「そうやって出来るのが、私のやってる融合召喚ってわけ」
「ありがとうございます、柊先輩!とってもわかりやすかったです!」
「ほんと?よかった、ありがとう。私も融合召喚を始めたのは最近だから、比嘉君に教えられるかなってちょっと心配だったんだけど、よかったわ」
「え?そうなんですか?」
「ええ、そうよ。だから素良にちょっと融合のことを聞きに行ったりしてね」
「素良さん?えっと、その人も遊勝塾の先輩でしょうか?」
「ええ、そうよ。比嘉君より前に入ったうちの塾生でね、融合召喚がとっても得意なの。私に融合を教えてくれたのも素良なの」
「そうなんですか!えっと、その、素良先輩は……?」
「ごめんね、今日は遊勝塾休みの日なの。だから来てないんだ。比嘉君が転校してきたら、もしかしたら同じクラスになるかもしれないわね」
「同じクラス……あ、素良先輩って、僕とおなじ1年生なんですね」
「そうね。だから、もし、融合を使ってみたいって思ったら、素良か私に気軽に相談してね。いろいろ教えてあげるから」
「はい、わかりました。ありがとうございます!」
「同じ1年生なんだし、先輩は付けなくてもいいんじゃない?」
「え?でも、遊勝塾の先輩ですよね?」
「あはは、それだと小学生の子にも先輩付けないといけなくなるわよ、比嘉君」
「あ、そっか。そういえばそうですね。うーん、でも、柊先輩に融合を教えたってことは、柊先輩にとっての先生なんですよね?」
「そうね、師匠と弟子ってやつね」
「うーん。なら素良先輩です」
「そっか、それなら仕方ないわね。でも学校で先輩って呼んじゃうと変な感じがするから、遊勝塾だけにした方がいいかもね」
「あ、はい。わかりました、そうします。素良先輩に先輩って呼んでいいか聞いてみます」
「うん、そうした方がいいかも」
比嘉はまだ見ぬ塾生に思いをはせながら、遊矢の到着を待った。