柚子が持ってきてくれたお菓子とジュースを囲みながら、遊矢と比嘉は柚子と共に塾長のデュエリストミーティング2限目の準備を待ちわびていた。舞網第二中学校の設備や授業内容、デュエルの授業、比嘉が知りたがる話題について、とりとめなく話は続く。そのうち話題は遊勝塾にうつってきて、他の塾生についてや使用するデッキ、そしていつもどんなことをやっているのか、なんて話になってくる。何気ない話題ながら、この世界のことがまだなにもわからない遊矢からすれば、貴重な情報の宝庫だった。へたをすれば比嘉よりも真剣に聞いていたかもしれない。比嘉が普通の中学校からの転校生とあって、柚子は懇切丁寧に説明したし、どんな小さな質問にも答えたから、不幸中のさいわいだった。比嘉は、はやくデッキとデュエルディスクを買ってもらって、みんなとデュエルしてみたいとこぼしている。そのうち、塾長がよぶ声がしたから、みんな座学の教室に戻った。塾長の足元には、たくさんのカードが入っているカバンが置かれている。
「よし、それじゃあデュエリストミーティングの第2回を始めるぞ!今回はデュエルの流れについて、みんなで勉強していこう。ホワイトボードを見てくれ」
そこには、デュエルの進め方が大まかに書かれている。
ターン開始
@ドローフェイズ
Aスタンバイフェイズ
Bメインフェイズ
Cバトルフェイズ
Dメインフェイズ2
Eエンドフェイズ
ターン終了
「塾長、ターンってなんですか?」
「お、いい質問だ、昴くん。ターンというのは、それぞれのプレイヤーが行動することができる順番のことなんだ。この順番はデュエルの準備が出来て、先行か後攻かを決めた後、先行のプレイヤーから1ターン目が始まるんだ。そのあとは後攻のプレイヤーの1ターン目、先行のプレイヤーの2ターン目という順番で交互に行うぞ。でも、注意しないといけないのは、ターンの数え方なんだ。ターンを数える時は、それぞれのターンを1ターンとして数えるんだ。だから、先行プレイヤーの1ターン目と後攻プレイヤーの1ターン目が終わったら、2ターン過ぎたってことになるんだ。ややこしいけど、頑張って覚えよう」
「わ、わかりました。そっか、順番の数とプレイヤーに回ってきたターンの数は、どっちもターンって使うからややこしいんですね。気を付けなくちゃ」
「そうだな。だからカードのテキストに相手のターンで数えて2ターン、って書いてあったら、相手のプレイヤーに回ってきたターンの数のことを言ってるんだ。順番の合計の方じゃないから注意しよう」
「自分のターンは数えちゃダメってことですね」
「そうそう、そういうことだ。そしてターン、つまり自分の番が回って来た時にできることは6つにわかれているんだ。それをフェイズというぞ」
「フェイズ?」
「フェイズっていうのは、プレイヤーがそのターン中にできること、そしてその順番を区切ったものなんだ。そして、それは6つに分かれている。それがホワイトボードのフェイズなんだ。それじゃあ、実際にデュエルの流れを見ながら説明していこう」
「はい、わかりました!」
比嘉は生まれて初めてみるデッキに興味津々である。なにかフィルムに入ってることに気付いて、カードスリーブを知ったり、デュエルモンスターのカードのデザインを初めてみたり、わくわくが止まらないようだ。デッキをシャッフルするだけで緊張気味な初々しさにはつい視線を向けてしまう遊矢と柚子である。
「まずはプレイヤー同士で先行か後攻かを決めるんだ。デュエルディスクが普及する前は、じゃんけんやコイントスで決めたもんだ。今はデュエルディスクがランダムにどちらが先行か後攻かを決めてくれるぞ。それじゃあ、昴くん、おれが用意したデッキを使って一度やってみようか」
「はい、わかりました」
「よし、それじゃ今回はコイントスと行こう。これが表で、こっちが裏だ。どっちにする?」
「えーっと、じゃあ、裏で」
「よし、おれは表だな」
ぴん、と弾かれたコインが垂直にあがり、塾長の手の甲におちる。隠された手をどかせば、裏になっていた。
「裏か、昴くんはどっちがいい?」
「デュエルだと先行と後攻ってどっちが有利なんですか?」
「デッキにもよるけど、一般的には先行が有利だって言われてるな」
「そうなんですか?それなら、先行いただきます」
「よし、それじゃ昴くんは先行、おれは後攻でやってみよう」
「はい、わかりました!」
「いい返事だ!よろしくお願いします、昴君!」
「あ、はい、よろしくお願いします!」
塾長につられてぺこりと比嘉はお辞儀した。
「デュエルは相手がいてこそだからな、元気のいい挨拶と笑顔は基本中の基本!忘れないようにしよう!これはデュエルじゃなくても大切なことだな!さて、先行と後攻を決めたら、まずは自分のデッキからカードを5枚ひくんだ。これが最初の手札になるぞ」
「結構大事なんだよ、これ。なんにもできない時は、手札事故っていったりするな。事故ったー、とか」
「あはは、そうなんですか?僕も事故らないように気を付けなくちゃ」
「そうだな、デュエルディスクがあれば自動的にやってくれるが、テーブルデュエルだと相手のデッキをシャッフルすることになるぞ。よーく混ぜよう、カードが固まると大変だからな!そしてデュエルで使うカードは、主にこの手札から選ぶことが出来るんだ。強力なカードやコンボが出来る手札が揃った時がチャンス!それを逃さないようにするには、自分が使うデッキをよーく知っておくことが大事だ。なにができるか、どういったコンボができるか、それは昴くんが今までやってきたデュエルが教えてくれるはずだ」
「はい!」
「よし、その意気だ!その調子でまずはドローフェイズといこう。ドローフェイズは自分のターンの一番最初に行われるフェイズで、プレイヤーは自分のデッキの一番上のカードを1枚ひいて、手札に加えるんだ。そしてこのカードを1枚ひくことをドローというんだ。でも、先行の人が1ターン目でドローすることはできないぞ」
「え、そうなんですか?なのにどうして有利なんです?」
「そうだな、先行はたしかにドローが出来ないが、相手はなにもカードをおいていないだろ?だから、基本的に先行の人はじぶんがやりたいことを邪魔されずに行うことができるんだ。準備ができるってわけだ。もちろん、デッキによっては後攻の方が有利な場合もある。でも、準備ができるのと、ドロー出来るが相手に妨害されるかもしれない中デュエルを始めるのでは、段違いだからな。基本的には先行が有利といわれているよ」
「なるほど、わかりました。今は1ターン目なので、ドローはできませんね」
「そうだな!そして注意しないといけないのが、ドローするとき、デッキにカードが1枚もないとカードがひけない時点で負けになることだ!デッキの中には相手のデッキを0枚にして、相手のターンにデッキがひけなくなって負ける、という敗北条件を達成しようとするものもあるんだ」
「デッキ破壊か……怖いデッキだよなー」
「今のデュエルモンスターズって、いかにカードを減らして好きなカードをひくかにかかってるところがあるから、そこにデッキを減らすデッキと当たっちゃうと、対策しないと負けちゃうのよね」
「なんだか怖いデッキもあるんですね」
「まあ、デッキの作り方は個人の自由だからな。それにしてもおれがプロだったころと比べても、凄まじい程の高速環境だとおもうぞ、スタンディングデュエルは。ひとつのプレイングミスが致命的な欠点になってしまう。ライフとデッキは投げ捨てるものだという環境の中でも勝利を重ねていけるデュエリストは、きっとなにかちがうんだろうな」
「うわ、すごいんですね」
「そうだな。でも、昴くんもいつかその高みにいけると信じて頑張ってほしいとおれは思うぞ!さて続いてはスタンバイフェイズといこう。スタンバイフェイズは特殊なフェイズなんだ。テキストにスタンバイフェイズにすると書かれているカードがある場合は、そのカードの効果を処理するんだが、基本的には何もしないで飛ばされることが多い。スタンバイフェイズに処理するカードは、コストを払うものと効果を発動するものがあるんだ」
「コスト?」
「コストを払うカード、たとえば効果を発動する時に手札を1枚捨てるとか、500のライフポイントを払わなければならないとか、いうデメリットのことだな」
「わかりました」
「まあ、普段は何も行えないフェイズなんだ。とりあえず、あることだけ覚えておいてくれ。続いてはメインフェイズ。スタンバイフェイズの次にあるのがメインフェイズ1、バトルフェイズの後にあるのがメインフェイズ2。2つにわけられているが、やることは変わらない。このフェイズでできることはたくさんあるぞ。まずはモンスターの召喚。そして、モンスターの表示形式を決めること。あとは魔法や罠、モンスターの効果を発動すること。最後は魔法や罠を魔法&罠ゾーンンに置くことだ」
「4つもあるんですか?」
「そう、メインフェイはプレイヤーが1番自由にカードを扱えるフェイズなんだ!さあ、まずはモンスターの召喚から説明しよう。手札や墓地、除外ゾーン、エクストラデッキからフィールドにカードを出すことを召喚というんだ。モンスターの召喚には大きく分けて2種類あるぞ。1つめは1ターンに1度と決められている通常召喚だ。これは基本的にモンスターを表側攻撃表示、もしくは裏側守備表示でモンスターゾーンに出すことのみをいうんだ」