DUELIST MEETIMG

「やあやあ!初めまして、比嘉昴君!遊勝塾へようこそ!おれがここで塾長をしている柊修造だ。よろしく頼むよ」

「はい、よろしくお願いします!」

「んー、いい返事だ!さあ、これからデュエルモンスターズをはじめる昴くんのために、デュエリストミーティングをはじめよう!さあ、みんな席に座った座った。昴くんは是非とも真ん前に座って聞いてほしいから、ここにおいで」

「は、はい、わかりました。よろしくお願いします!」


御指名を貰ってしまった比嘉は、緊張した様子で頷いた。おいでおいでと手招きされては、突っ立ってるわけにもいかない。塾長の真正面の椅子をひいた。筆記用具と鉛筆を出し始めた比嘉の近くの椅子を適当にひいた柚子と遊矢は席に着いた。


ペンデュラム召喚の開祖である遊矢の所属する遊勝塾だが、アクションデュエル、とりわけ観客を楽しませることに主眼を置いたプレイングを教えるデュエル塾である。ちなみに少し前まではアドバンス召喚を主軸とした、がついたため、塾生はアドバンスのギミックがあるテーマである共通点はあるものの、塾生たちのデッキの主軸とする特殊召喚やギミックは多種多様だ。そのため、塾長である修造もアクションデュエルやアドバンス召喚の造詣が深く、アクションデュエルやデュエルモンスターズをこれからはじめるデュエリスト向けの講義には定評がある。


しかし、特殊召喚や新しいテーマといった分野は専門外のため、目下研究中、塾生たちからはもっと新しい話題を取り上げてほしいと評判はあまりよろしくない。柚子は頬杖をついているし、遊矢もあんまりやる気がない座り方である。つまり、今ここでやる気十分なのは比嘉だけ。久しぶりにまじめに座学を聞いてくれる入塾生の登場は、塾長のやる気をみなぎらせるには十分だったようだ。


塾長の真ん前で準備万端の比嘉のための初心者デュエリストのためのルール講習会、通称デュエリストミーティングが始まった。


「まずは、デュエルモンスターズをはじめる前に、比嘉昴くんにはデュエルモンスターズの基本的な知識について学んでもらおう」


塾長はすぐ後ろのホワイトボードをぐるりと回す。そこにはすでに、これから説明する内容がすべて書かれていた。一瞬あっけにとられた比嘉だったが、我に返るとあわててノートに写し始める。そのあいだに塾長は遊矢たちが準備したデュエルマットたちを移動させ、比嘉の真ん前にセッティングした。やっとのことでノートに写し終わった比嘉をみて、塾長はわらった。


「おれは最低限のことしかホワイトボードには書かないから、大事そうだと思ったことはノートに取ってくれ」

「あ、はい、わかりました」

「いやあ、短くまとめるのが苦手でなあ、はっはっは。さて、デュエルモンスターズの基本的な用語を軽く説明していこう。くわしくは、そのあとにざっとやるからついてきてくれよ。まずはデュエルモンスターズのデュエルとはなにかっていうと、デュエルモンスターズで勝負することをいうんだ。決闘と呼ばれることもある。そして、デュエルを行なうプレーヤーのことをデュエリスト、もしくは決闘者というんだ。そして、そのデュエルに必要なのがデッキ。指定された枚数で構成されたカードの束のことなんだが……さて、遊矢。昴くんにデッキとはなにか、説明できるか?」

「塾長、いくらなんでも、それくらいできるって!おれのことバカにしてる?」

「いやー、わからないぞ。アクションデュエルとスタンディングデュエルは違うからな」

「なんだよ、それー。ああもう、わかったよ。えっとな、比嘉。デッキっていうのは、おおきくわけてメインデッキ、エクストラデッキ、サイドチェンジ用のデッキ、っていう3つに分けられるんだ。メインデッキは40枚から60枚まで。同じ名前のカードは3枚まで。そしてリミットレギュレーションで入れられる枚数が決まっているカードは、ちゃんと枚数を守ること。って決められてるんだけど、特に理由がないならメインデッキは40枚にした方がいいよ」

「え、どうしてですか?」

「えーっと、比嘉ってさ、数学得意?」

「数学ですか?嫌いじゃないですけど……」

「なら、考えてみてくれよ。比嘉のデッキにはひきたいカード3枚だけあるとして、40枚と60枚のデッキだとどっちがひきやすいと思う?」

「え、え、えーっと、60分の3と40分の3だから、40枚のほうです」

「だろ?デッキは枚数を少ない方がひきたいカードをひける確率が上がるんだ。もし、どのカードを減らせばいいのか分からない時は、強欲で謙虚な壺みたいなデッキからカードをひけるカードを入れておくといいかもな」

「なるほど、もしカードをひけるカードが3枚入ってたら、37分の3だからもっと手札にもってきやすくなるってことですね。わかりました、ありがとうございます」

「それじゃ次はエクストラデッキか。ここには、融合モンスターとシンクロモンスター、エクシーズモンスターを入れるんだ。入れられるカードは、同名カードは3枚まで、枚数は15枚まで。これはデッキによってエクストラデッキが必要かどうか変わって来るから、最低枚数はないよ」


比嘉はうなずきながら、ノートをとっている。


「それで、最後はサイドデッキ。ここには、メインデッキが苦手なテーマやギミックの対策になったり、より有利にするためのカードをいれておくんだ。スポーツで言う控えの選手みたいなものだよ。いろんなデュエリストとひとつのデッキで何回も戦うような大会で必要になってくるんだ。ここからメインデッキのカードといれかえたりするよ」

「榊先輩、でも僕、どういうカードがいいとかわからないんですけど……」

「うん、そうだよな。サイドデッキは、メインデッキとエクストラデッキが決まって、比嘉がそのデッキに慣れてきたら考えたらいいと思う」

「よくできました!昴くんが初めて使うデッキは、よく考えてほしいからな。じっくり考えてみるといいぞ。ひとくちにデッキといっても、いろんなテーマやギミックを持つものがあるからな!メインデッキが安いテーマだと、エクストラデッキが高かったり、キーカードだけ高かったりする。逆にエクストラデッキがいらないテーマだと、メインデッキだけで結構高いから、そればかりは財布と相談するしかないな」

「そうよねー……私も遊矢もエクストラデッキ充実させるのが一番大変だったもんね。どうしてアクションデュエルとスタンディングデュエルは使えるカードが違うのかしら」

「まあ、ふたつのデュエルは全くルールが違うから、それに応じたデッキを組まないといけないのは仕方ないさ。それにスタンディングデュエルは、カードプールがアクションデュエルの比じゃない。汎用性があるカードはそれだけの価値があるってことだ」


はあ、とため息をつく柚子に、塾長がうなずいている。スタンダードなルールを採用しているアカデミアに通いながら、アクションデュエルを学ぶため、デッキが2つ必要だと柚子は比嘉に説明している。いつものデッキケースには見慣れたデッキしかなかったから気付かなかったが、どうやら遊矢も持っているようだ。これは家に帰ってから探さないとまずい。やることがどんどん増えてくる。遊矢は冷や汗をぬぐった。


「さて、デッキについては遊矢から説明してもらった通りだ。つぎはデュエルについてだな」


そういって塾長はプリントを比嘉に渡した。デュエルモンスターズの歴史がさらっと書いてある。


「これは時間があったら読んどいてくれ、昴くん。おれは歴史の先生じゃないから、詳しいことはアカデミアの先生にきいてくれよ」

「あ、はい、わかりました」

「それでだ。おれがこれから説明するデュエルっていうのは、さまざまなカードを使いながら、対戦相手と戦うことをいうぞ。ここ舞網市では、大きく分けて2つのデュエルのやり方が知られているんだ。1つめがスタンディング・デュエル。テーブル・デュエルと呼ばれることもあるぞ。デュエルモンスターズにおいては、もっともポピュラーでスタンダードなデュエルだな。対戦相手と自分がデュエルを行い、ジャッジと呼ばれる審判が勝敗を決めるルールで行われるデュエルなんだ。そのなかでも、バイクなどの乗り物を使用するものは、ライディングデュエルと呼ばれているぞ」


比嘉のプリントを指差しながら、塾長が言う。へー、といいながら比嘉は鉛筆で〇をした。


「塾長、そのプリントおれももらっていい?」

「お、やるきになってくれたか、遊矢!いいぞー、ほら」


塾長からプリントを受け取った遊矢は、ざっと目を通した。やっぱり知らない歴史をこの世界は歩んでいる。このプリントに書いてある有名人だけでも覚えとかないとヤバそうだ。はあ、と小さくため息をついて、遊矢は塾長の言葉に耳を傾ける。ライディングデュエルとか聞こえた気がするが、気のせいだろう、たぶん。


「そして、2つめが観客の存在を意識してプレイングすることを大切にするデュエルだ。スタンディング・デュエルと違って、デュエルをもりあげる独自のルールやカードが採用されているのが特徴のこのデュエルこそ、わが遊勝塾が教えているアクションデュエルなんだ。こちらはショーのような振る舞いが求められるから、ミュージカルデュエルやデュエルバンドも含むから要チェックだ。ちなみに、これから昴くんが通うデュエルアカデミアは、スタンディング・デュエルのルールを採用しているから、これから学んでもらうのは、主にスタンディング・デュエルのルールになるぞ。しっかりと身に付いたら、アクション・デュエルを勉強していこうか」

「わかりました、塾長。ありがとうございます。アクション・デュエルのデュエル塾なのに、スタンディング・デュエルのルール講習会開いてもらっちゃって、ごめんなさい」

「いーや、気にすることなんてないぞ、昴君。なんたってデュエルモンスターズは、スタンディング・デュエルと共に発展してきたからな。アクション・デュエルがあるのも基礎となるスタンディング・デュエルがあってこそ。それを忘れちゃ、一人前のデュエリストにはなれないからな!な、遊矢?」

「……っ!?なんでおれを見るんだよ、塾長!」

「あっはっは、俺は見逃さなかったぞ、遊矢!スタンディング・デュエルと聞いて、うっげーって顔したなー?そんなんだから補修受けなきゃいけなくなるんだぞ!このさい、復習ってことで遊矢も昴君と一緒にトライだ!」

「えーっ!?」

「あ、ちょうどいいじゃない、遊矢。今度の小テスト、赤点だったら補修なんでしょ?それを回避するためにも勉強したら?」

「なにいっ!?それはほんとうか、柚子!遊矢、ペンデュラム召喚の開祖がそんなんじゃあ、示しがつかないって前もいっただろ!こうなったら、遊矢も昴くんと一緒に熱血指導だー!」

「なんだよ、それーっ!?おれ、なにがなんだか!」

「やっぱり先生の話聞いてなかったのね……?居眠りしてるからそうなるのよ、遊矢」

「なんでだよ、おれはそんなつもりじゃ……っ!」

「はいはい、それ、比嘉くんの前でもいえるの?遊矢?」

「えーっと、その、あはは……」

「………あーもう、わかったよ!」

「そうこなくっちゃ」


はーあ、と疲れた顔をした遊矢は、いつも遊勝塾に置きっぱなしにしている私物を突っ込んであるロッカーに向かった。スタンディング・デュエルってなんだよ、という疑問が遊矢のなかでぐるぐるとまわっている。レオ・コーポレーションが実体を伴う立体幻影(ソリッド・ビジョン)を実現させてから、舞網市はアクション・デュエル一色となった。デュエルディスクもデュエル用の機械もすべてレオ・コーポレーションの傘下となり、本来のスタンダードなデュエルをする施設はもちろん、デュエリストはいなくなった。そのため、塾長の世代はともかく、遊矢たちの世代になるとスタンダードなデュエルのルールなんて、だれも知らないのだ。


それなのに、どうやらこの世界では、アクションデュエルとスタンダードなデュエル(スタンディング・デュエル)が、舞網市の環境を二分しているらしい。LDSはおそらくアクション・デュエルの名門、もしくは筆頭の存在で、遊矢の通うアカデミア舞網第二中はスタンディング・デュエルを推進している存在。スタンディング・デュエルの学校に通いながら、アクション・デュエルのデュエル塾に通っているというかなり歪なことになっている。しかも、遊矢はこっちでもペンデュラムの開祖みたいだから、アクション・デュエルで名が知られたデュエリストとなる。月曜日からの学校が怖くなってきた遊矢だった。


どのみち、スタンディング・デュエルのルールは、まるでわからない遊矢である。不本意な形で勉強するはめになってしまったが、かえってよかったのかもしれない。デュエルディスクが処理してくれることをわざわざ覚える必要もないとは思うのだが、比嘉は初心者である。デュエルディスクもデッキももっていないときた。そんな右も左もわからないデュエリストのたまごに、デュエルディスクだけ渡すことだけはしたくないのだろう、塾長らしい判断である。先輩らしいところみせないと、と気合を入れ直して、遊矢は教室に戻った。


「おかえり、遊矢。おお、やるき十分じゃないか!よーし、昴君も負けずに頑張れ!」

「いつもこうだったらいいのに、もー。素直じゃないんだから」

「なんの話だよ、柚子……」


知らないあいだに、柚子たちにお気に入りの後輩にカッコいい所を見せたい遊矢、と認定されてしまっている。今回も似たような感じで判断された気配がするが、否定すればするほど、柚子たちは確信してしまう。とうとう遊矢は否定する言葉が行方不明になってしまった。今日は悪夢にはじまり、平行世界に迷い込み、未だに状況を把握できずにいる事実が、遊矢の精神を確実にえぐりにきている。今は、少しでもそれをこらえるために、目の前のことを全力ですることにした。そっちの方が長い時間気がまぎれるからだ。遊矢の泥沼の思考をしるはずもない柚子たちは、遊矢がノートをとる準備ができたのを確認した。


「さて、次はデュエルフィールドの見方について説明しよう。かんたんに言えば、デュエルを行なうとき、どこにカードを置けばいいか、覚えていこうか」

「はい、お願いします!」

「今はわかりやすいようにデュエルマットをひいているんだが、カードをおく位置さえ覚えてしまえば、デュエルマットを使わなくてもデュエルすることができるぞ。これを覚えておかないと、カードを置くところで効果を発動するモンスターを使った時、相手と自分の考え方が違ってしまうとデュエルが止まっちゃうから要注意だ。いつでもカードがどこにあるのか、意識してプレイするようにしよう。それが早く覚えるコツだ、昴くん。とりあえず、このプリントをみてくれ」

「ありがとうございます」


比嘉がわたされたプリントには、たくさんの□が並び、番号がふってある。


「それじゃ、カードをおく場所のルールを覚えよう。基本的にカードは最初においた場所から動かすことはできないんだ。動かしたいときは、他のカードやおいたカードの効果が必要だってこと、忘れないようにしよう。カードを重ねるときはもちろん、デッキやエクストラデッキは、その順番を勝手に入れ替えることはできないから注意だ。デュエルディスクを使うときはカードを挿入するから今はあんまりないけど、テーブルデュエルをするときは注意しような」

「了解です、塾長」


プリントの隅に塾長の言葉を書きこんでいる比嘉である。


「じゃあ、それぞれのカードをおく場所について説明していくぞ。プリントを見てくれ」


比嘉はプリントを前に置いた。遊矢は隣から覗き込む。みます?と差し出されて、ありがとな、と笑った。ペンデュラム召喚を実装する前のデュエルフィールドがそこには書いてある。どうやら塾長は基本的なことから比嘉に教えていくつもりのようだ。



「E」「@」「@」「@」「@」「@」「D」
「F」「A」「A」「A」「A」「A」「B」
                  「C」


「カードをおく場所全体のことをフィールドというんだ。このプリントには、昴くんが使うフィールドしか書いてないが、相手のフィールドはこれを鏡写しにした場所がカードをおく場所になるぞ」

「フィールドですか……同じ名前なら、相手のフィールドはなんていうんですか?」

「そうだな、自分フィールド、相手フィールドってカードのテキストには書かれていることが多いぞ」

「わかりました。手前が自分フィールドで、奥の方が相手フィールドですね」



比嘉のプリントが文字で埋まっていく。


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