PACK 1
「あーつかれた!」


思い切り伸びをした遊矢に、お疲れ、と塾長はやってきた。ありがとうございました、と比嘉は嬉しそうに笑う。どーいたしまして、と遊矢は笑った。ちょっと復習しなくちゃ。比嘉はそう言ってノートをパラパラめくっている。柚子はにやにやしている。


「やるじゃないか、遊矢!まさかここまでやっちゃうとは思わなかったぞ!一応助け船が出せるようにスタンばってたがいらなかったな!」

「ほんと、びっくりしちゃった。まさか遊矢がスタンダードデュエルのルール、ここまでわかってるなんて思わなかったわ。ねえ、なんでここまでわかってるのに、テストはあんなにできないの?」

「う、うるさいなあ!塾長がむちゃ振りするから、悪いんだろ!それならそう言ってくれなくちゃ困るって!一人で頑張らなくちゃいけないのかと思って、すっごくがんばったのに、なんだよそれ!」

「あっはっは、なるほど!たしかに昴君みたいな後輩がいたら、さすがに遊矢も頑張っちゃうわけだ!よかったな!」

「そっか。やっぱり素良と私をみて、羨ましくなっちゃったんでしょ、遊矢。弟子はいらないって言って友達になったけど、やっぱりあとから羨ましくなっちゃったんだ?せんぱい、先輩って言ってくれる子なんて、滅多にいないもんね。そんなにペンデュラムやってくれる後輩がほしかったなんて知らなかったわ」

「ま、またなんか勘違いしてるだろ、二人とも!だからそういう意味じゃないって!そりゃ、比嘉がペンデュラムやってくれたらうれしいなあとは思うけどさ」


チェーン処理のあたりで、うんうん唸っている比嘉をみて、塾長が休憩にしようかと笑った。頭に糖分を入れないと、覚えるものも覚えられない。適度な休息が必要だ。はーい、と元気を取り戻した比嘉は、塾長と一緒にテーブルを片づける。遊矢は柚子に呼ばれてお菓子とジュースを取りに戻った。きれいに片付いたテーブルにお菓子やジュースが並ぶ。塾長は今までのデッキケースをしまいに出かける。柚子は塾長に呼ばれて行ってしまった。どうやら準備があるようだ。



「なあ、比嘉。これで一通りの特殊召喚やってみたわけだけどさ、どれが一番面白かった?」

「そうですねー、どれも面白かったから、ひとつには決められないんですけど……」

「そこをなんとか」

「うーん。答えになってないですけど、榊先輩とミラーマッチをしたスクラップデッキが一番面白かったです。シンクロもエクシーズも融合も出来て、いろんなモンスターが並べられて楽しかったです。初めてデュエルをしたっていうのもあるんですけど、いろんなコンボを決めて、いろんな召喚につないでいくのがとっても印象に残ってて、楽しかったから」

「そっか。じゃあ、比嘉はスクラップみたいなモンスターが並べられるギミックが入ってるテーマを最初に買った方がいいかもな。できれば、いろんな特殊召喚のギミックが組み込めるような、拡張性があるテーマのカードをさ」

「デュエルモンスターズのカードって、5枚入りのパックで買うんですよね?コンビニで見たことありますけど。あとはショーケースで並べられてるカードを1枚ずつ買うとか?うーん、どっちもお金がかかりそうですね」

「そんな心配しなくても、比嘉みたいにこれからデュエルモンスターズを始める人向けに売られてる初めから構築されてるデッキを買えばいいんだよ」

「そんなのあるんですか?」

「もちろん。ストラクチャーデッキっていうんだ。俺たちはストラクって呼んでるよ。構築済のデッキはモンスターもテーマごと決められてるし、魔法や罠もちゃんと入ってるから、すぐにデュエルが始められるのが特徴だな。宣伝してくれって運営の人が置いていったんだけど、残念ながらこっちは箱だけなんだ。エースモンスターが看板を務めてるから、気に入ったモンスターがあったら、それを目当てに買ってみるのもいいと思う」

「へー、安いんですね」

「そーだな。だから、お金に余裕があったらいくつか買って、枚数を確保した方がいいって人もいるよ。でも、基本的に古いテーマが多いな。新しいカードは5枚組のパックで最初に売られるのが普通だから、そっちである程度テーマが揃ってからストラクが発売されることが多いんだ」

「なるほど、だから安いデッキを組んで売れちゃうんですね」

「そうそう。でもそのテーマデッキを使ってる人にとっては、新規のカードが入ることが多いから、注目度は高いんだ」

「へえ、そうなんですか」

「はーい、お待たせ。業者の人が持ってきたのはこれよ」

「結構かさばるな」

「あ、おかえり」


塾長と柚子はたくさんの箱を持ってきた。テーブルに箱が並べられていく。


「運営の人が置いてった箱は、これくらいかな。どのストラクも初心者向けだから、ルールブックやプレイマット、プレイングガイドが入ってるのよ」

「わー、たくさんありますね」



塾長が簡単に説明してくれた。

【マシンナーズ・コマンドー】
エクシーズが得意なガジェットとマシンナーズが収録の機械族デッキ

【ドラグニティ・ドライブ】
シンクロ得意なドラグニティ収録のドラゴンデッキだが、フィールド魔法が禁止

【ロスト・サンクチュアリ】
フィールド魔法の天空の聖域で強力な効果を持つ上級天使族を召喚するデッキ。

【デビルズ・ゲート】
墓地に捨てることで特殊召喚される暗黒界という悪魔族を中心にしたデッキ

【ドラゴニック・レギオン】
墓地にある光と闇のモンスターを利用してドラゴンを展開するデッキ

【海皇の咆哮】
水属性モンスターを中心としたデッキ。バウンス効果が強力な海皇龍がエース。

【炎王の急襲】
レベル3軸は爆発力があるシンクロ、レベル4軸は安定のエクシーズの炎族デッキ

【青眼龍轟臨】
復刻されたあの青眼の白龍を切り札としたシンクロデッキだが、売り切れ。

【機光竜襲雷】
サイバー流塾監修のサイバー・ドラゴン主軸の融合デッキだが、売り切れ。

【ヒーローズストライク】
M・HEROという戦士族モンスターの融合を連打するデッキだが、売り切れ。

【シンクロン・エクストリーム】
シンクロンを中心にしたシンクロを主軸とするデッキだが、売り切れ。


「もともと生産量が少ないからさ、人気のやつはすぐに売り切れちゃうんだけど、再生産ってあんまりしてくれないんだよな。だから、いま残ってるストラクは何年も前の売れ残りなんだ」

「そうなんですか」

「そうそう。売り切れはネットを捜せばどっかにあるだろうけど、プレミア扱いで高いよ。下手したら何倍もするし」

「なるほど。便利ですけど、古いっていうデメリットもあるんですね。じゃあ、売り切れのはやめときます」

「あとひとつ問題があってさ、ここまでのストラクって去年までに発売されたやつなんだ。だからプレイマットが旧式のでペンデュラム召喚を実装してないから、公式大会だと使えないよ」

「あ、そっか。今年からペンデュラム召喚は実装されるんでしたっけ。まだ新しい召喚方法だから、ストラク出てないんですね」

「そうなんだ。たぶん来年の今頃にはペンデュラム召喚のストラクが出るとは思うんだけどさ。もし比嘉がペンデュラム召喚のギミックを入れたいって思ったら、パックで買うしかないと思う。あとはシングルとか?」

「了解です。そのパックってどんなのが出る予定なんですか?」

「運営の人が持ってきてくれたのはこいつらだな」


遊矢が見せてくれたのは、いくつものパックが入ったボックスだ。


「えーっと、たしか90種類のうちランダムで5枚入りのカードが30パック入ってるんだ。ウルトラレアが6種類、スーパーレアが10種類、レアが20種類、ノーマルが54種類だったかな。でもひとつのボックスで90種類全部は揃わないんだよ、だからお金があるデュエリストはいくつもボックス買いするんだ。大人って凄いよなー」

「ボックスって5000円くらいしませんか?」

「するする、だから普通は適当に選んだパックを開けるんだ。お目当てのカードが入ってたらラッキー、って感じかな。遊勝塾のみんなはお目当てのカードが結構ばらけてるから、欲しがってたカード同士で交換することがよくあるんだ。でも注意しなきゃいけないのは、パックを買うお店だな」

「榊先輩はいつも同じお店で買ってるんですよね?」

「おう。元プロデュエリストの店長がやってるお店なんだけど、ちゃんとパックは店員さんが管理してくれてるから安心して買えるんだ。適当なところだと買に来た人にパックを全部見せて、選ばせるところもあるから、そこは止めといた方がいいよ」

「なんでですか?」

「カードってさ、ウルトラレアとか、ノーマルできらきら光る所が違うんだ。そのせいでカードの薄さが微妙に違うから、パック越しにそれを予め調べて、レアの入ってるパックだけ買ってくやつがいるんだよ。サーチっていうんだけどさ。オレ、そういう店でノーマルしか出たことないから買うのやめたんだ。どうしても欲しい時はお年玉でボックスで買ってる」

「悪いことする人もいるんですね」

「デュエルモンスターズは大人も子供もやってるからなあ。いろんな人がいるんだよ。コンビニとかだと、たまにサーチが悪いことだって知らない人が売ってるから、パックをそのまま並べてたり、全部見せたりするんだ。そんなのサーチされたら後から買う人はノーマルカードしか出てこないだろ。ランダムの意味がないって誰も買わなくなって、置かなくなっちゃうんだよな」

「そっか、難しいですね。ちゃんとカードを売ってくれるところの方が安心して買えるってことか」

「そういうこと。それじゃ、見てみるか」


遊矢はブースターパックのボックスを並べ始めた。


「今年から融合とエクシーズ、シンクロ、ペンデュラム、バニラのモンスターが全部収録されるようになったんだ」


はあ、と遊矢はため息である。


「こんな売り方、アクションデュエルだとありえないんだよなあ」

「え?そうなんですか?」

「そうなんだよ。アクションデュエルはやってる人が少ないからさ、パックを発売してる会社も少ないんだ。だから一番大手のレオコーポレーションが、ほとんど値段や普及率を決めてるようなものなんだよ。他の会社はレオコーポレーションの真似するから。しかも直営のLDSに真っ先に支給して、おれ達が使えるようになるのは、ずっと後だから特殊召喚の普及が遅れてるんだよな。スタンディングデュエルだと、デュエリスト人口が多いからカードを販売してるのは海外も合わせたらとんでもない数になるんだぜ。こっちじゃレオコーポレーションは大手のひとつにすぎないからこんな売り方が出来るんだ。もたもたしてたら他の会社に人気テーマが取られちまうから、みんなこぞって出すだろ。供給が多いと値段も下がる。おかげで新規テーマの方が安いんだよな。特殊召喚はとっくに広まってるし、ペンデュラム召喚だって今度実装されるだろ。多分みんながペンデュラムを使えるようになるくらい普及するのはスタンディングデュエルの方が早いっていう……」

「あはは……なんだか社会の勉強になってきましたね」

「おれだって知りたくなかったよ!でもユートがしつこくてさ」

「ユートさん?誰ですか?」

「え?あ、ああ、俺がよくタッグデュエル組んでる仲間なんだ。エクシーズが得意なんだよ。学校に行ったら紹介するな」

「ほんとですか、ありがとうございます。榊先輩はタッグデュエルもするんですね、すごいなあ」

「ちょっと前までマスコミの人がしつこかったらしいんだ。俺のせいだっていうけど、仕方ないだろ。(覚えてないけど)ペンデュラム召喚教えてくれっていうから教えたのに、ペンデュラム召喚のイメージキャラやってくれっていうんだぜ?CMとか雑誌とかポスターとか、いろいろ出てくれって言われて逃げ回ってるうちに覚えちゃったんだ。おれは有名人になりたくてデュエルやってるわけじゃないっての!」

「お疲れ様です」

「あのときはすごかったわよね、ちょっとした有名人だったじゃない、遊矢。いろんなカード会社の人とか雑誌記者の人が校門の前で待ってたり、家の前で待ってたり、通学路を張ってたり」

「やめてくれよ、柚子。思い出したくない」

「なによ、カメラ目線で取材に応じちゃったりしてたじゃない」

「たしかに雑誌の遊矢はいい笑顔だったな」

「あーもう、塾長まで!みんながペンデュラム召喚について知りたいっていうから答えてたんだよ(たぶん)!Dステップはおれもよく読んでる雑誌だから、ペンデュラム召喚の特集記事でも書くのかと思って!でもまさかペンデュラムのルール説明のページに取材の内容が全部使われるなんて思わないだろ、普通!」

「それだけ遊矢の説明がわかりやすかったってことだ、よかったじゃないか」

「よくない!いろんな会社の人にお願いされるたびに話してるうちに慣れただけだって!それなのに運営の人までその記事よんで、ルール講習会はともかく宣伝のイメージキャラお願いされるなんて思わないだろ!」

「わー、やっぱり榊先輩はすごいんですね。そんなに有名人なんだ。でもどうして断っちゃうんですか?榊先輩がペンデュラム召喚をつくったんですよね?それなら榊先輩=ペンデュラム召喚なので、広告塔としてはぴったりなんじゃないですか?」

「うぐっ、わ、わかってるよそれくらい。でもまさかこんな大騒ぎになるとは思わなかったんだよ。比嘉までそんなこというなよー」

「よくいうわよ。遊勝さんのリベンジマッチである舞網市チャンピオンに挑戦っていう一大イベントでペンデュラム召喚披露したくせに」

「えっ、そうなんですか!?」

「そうよ。それでペンデュラム召喚は一気に有名になったの」

「お、やっぱり比嘉くんも興味あるかい?よかったら後でビデオ見せようか」

「はい、ぜひ!」

「ペンデュラム召喚のやりかたはそのビデオって手もあるぞ、遊矢」

「あ、いいねそれ」

「あーもーやめてくれよ、ふたりとも!今はスタンディングデュエルの講義だろ!アクションデュエル見てどうすんだよ、比嘉がルール違いすぎて混乱するだろ!比嘉もブースターパックに入るペンデュラムテーマを回すの手伝ってくれるって言ったじゃないか」

「あ、そうでした。ごめんなさい、榊先輩」

「ったくもー」


遊矢は近日発売を控えているブースターボックスと、新規テーマのカードを並べた。


【メタファジック・リバース】
アクションデュエル界の伝説がペンデュラム召喚のテーマとして再誕、と煽り文が書かれている。看板モンスターはシンクロモンスターのメタファイズ・ホルス・ドラゴン。スタンディングデュエル向けのパックで初めて発売されるペンデュラムテーマのブースター。収録されているのは、昔のテーマをペンデュラム召喚のテーマとして再収録されたものが中心。メタファジックは高次元の、リバースは明るい意味での生まれ変わる、という意味があり、文字通りの内容である。主なペンデュラムテーマはEM。ペンデュラムテーマではないが、新規モンスターがペンデュラムモンスターである音響戦士、ブンボーグ等が再録されている。

【アカシック・ストーム】
ブースター名はこの会社オリジナルのペンデュラムテーマであるクリフォートをプッシュしたものとなっている。看板モンスターはクリフォート・カーネル。主なペンデュラムテーマはクリフォート。新規はインフェルノイド、シンクロテーマの竜星、エクシーズテーマの星因子、融合テーマのシャドール。いずれもレオコーポレーション傘下の会社が運営するデュエルターミナルというデュエルモンスターズを元にしたアーケードゲームの第2期で登場する予定のテーマである。この会社のカードデザイナーが手掛けたデッキのため、レオコーポレーションと共同名義で販売する予定のようだ。


「いろいろありますねー」

「まあおれが頼まれてるのは、ペンデュラムテーマだけだし、ペンデュラムカードがあるテーマだけさわってみよう」

「はーい!」


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