「ちょっと待ってください、榊先輩。どうしてどんなに詳しいんですか?それにこのカードは一体……?」
「もちろんサンプルとして頂いたものですよ。同じものが告知されるそうです」
「そんな大事なカード、使っちゃっていいんですかっ!?」
あわてて遊矢にフーコーの魔砲石を返した比嘉である。いよいよ楽しくなってきたのか、遊矢は肩を震わせて笑った。
「ご心配なく、これも含めてペンデュラムの実装化を手伝ったお礼としていただいたものですから。たしかに記念のカードとしてはコレクションとして最適でしょう。もっとも、わたくしはカードを飾る趣味は無いので、もらったものはこうして使わせていただくまでです」
「あ、そ、そうなんですか?よ、よかったあ」
「あははっ、さっきからおもしろすぎですよ、Mr.比嘉」
「だ、だって榊先輩も誰もそんな大事なこと教えてくれなかったじゃないですかあっ!」
「も、申し訳ありません、ついわたくしも出来心でっ……」
「笑わないでくださいよ、榊先輩っ!」
いよいよ羞恥心に耐えられなくなってしまった比嘉は、もうやだ、と不機嫌になってしまう。すっかり拗ねてしまった後輩のご機嫌をとるのに、30分ほどかかってしまったのはご愛嬌である。
「この◇2は、ペンデュラムスケールといいます。ペンデュラムモンスターだけがもつステータスですね。ちなみにスケールとは目盛という意味なんですが、ペンデュラム召喚を行なうとき、必ず参考にする数字なのでそう呼ぶんですよ」
「ペンデュラム召喚を行なうとき、目盛にする数字?うーん、いまいちペンデュラム召喚がイメージできないです」
「あはは、そうですね。今までの特殊召喚とは全く異なるギミックを持ちますから。イメージしにくいのも無理はありませんよ。それではここで実際にペンデュラム召喚をしてみましょうか。このカードたちも手札に加えてください。わたくしのあとに続いて、復唱してみてください」
「わかりました」
こくりとうなずいた比嘉は、遊矢からカードを受け取り、シャッフルした。
「ペンデュラム召喚に必要なのは、ペンデュラムスケールの数字が違うペンデュラムモンスターが2枚。そして、2つの数字に挟まれたレベルをもつモンスターカードです。もちろん、ペンデュラムスケールの数字は予め確認してくださいね。Mr.比嘉の手札には、なにがありますか?」
「えっと、僕の手札にはペンデュラムスケールが7の閃光の騎士と2のフーコーの魔砲石があります。あとはレベルが2から7のバニラカードです」
「わかりました。わたくしも同じカードを持っていますので、同じ動きをしてみてくださいね」
「はい」
「ペンデュラム召喚はメインフェイズ時に行います。まずは手札からペンデュラムモンスターをペンデュラムゾーンに置きます。わたくしはペンデュラムスケールがあるモンスターをそれぞれペンデュラムゾーンに置きますね。それでは続けてください」
「わかりました」
「わたくしはスケール2のフーコーの魔砲石とスケール7の閃光の騎士をペンデュラムゾーンにセッティング!」
「ぼくはスケール2のフーコーの魔砲石とスケール7の閃光の騎士をペンデュラムゾーンにセッティングします」
「いい調子ですよ、Mr.比嘉」
「えっと、ペンデュラムモンスターをペンデュラムゾーンに置くことをセッティングっていうんですよね?ってことは、セットすることができるんですか?」
「いえ、たしかに裏側で置くセットと言葉が似ていますが違います。セッティングとはペンデュラムモンスターを魔法カードとして効果を発動して、ペンデュラムゾーンに表側表示で設置するという意味でつかわれます。ルール上、ペンデュラムゾーンには、セットすること自体できませんので注意してくださいね」
「あ、そうなんですか?魔法カードの扱いなのに変わってるんですね。わかりました」
「あと注意する点としては、バウンスしたり破壊したりしない限り、ペンデュラムゾーンにカードが残り続けるということですね」
「なるほど、ペンデュラムモンスターは永続魔法みたいなものなんですね」
「そうですね、そうイメージするとわかりやすいと思いますよ。さて、続きましては、この状態で自分のメインフェイズ時にペンデュラム召喚をすると宣言してください。左右のペンデュラムモンスターのスケールの間のレベルのモンスターを、1ターンに1度だけ好きなだけ特殊召喚することができます」
「えっ、それってすごくないですか?」
「ええ、すごいでしょう?今の状態ならば、わたくしは手札のレベル3から6のバニラモンスターを一気に特殊召喚できるというわけです。スタンディングデュエルでは、モンスターを並べながらどれだけ召喚するか宣言してくださいね。それではせっかくですから、ご一緒に」
「はい!」
「揺れろ魂のペンデュラム!」
「ゆれろたましいのペンデュラム」
「天空に描け光のアーク!」
「てんくうへえがけひかりのアーク」
「ペンデュラム召喚!」
「ペンデュラムしょうかん」
「現れろ!オレのモンスターたち!」
「あらわれろ、ぼくのモンスターたち!」
「はい、レベル3から6のモンスターを好きなだけ並べてみてください。最後に、相手にペンデュラム召喚の発動を無効にするカードを発動するか確認してください。なにもなければ、これでペンデュラム召喚は完了ですね。そのあとは奈落の落とし穴や激流葬といったスペルスピード1のカードを発動するか確認するのを忘れずに」
「はい、わかりました!それにしてもすごいですね!上級モンスターも好きなだけ並べられるって。普通なら何体リリースしないといけないんだろ」
「このようにペンデュラム召喚とは、大量のモンスターを一気に特殊召喚することができるのです。ただしペンデュラム召喚はあくまでもスケールの間のレベルのモンスターを特殊召喚する方法ですから、スケールが同じだったり、1つ違いのペンデュラムモンスターをセットしてしまうと、ペンデュラム召喚できませんから注意してくださいね」
「はい、気を付けます。うっかりやっちゃったら、大変ですね」
「そうですね。さあ、次はこっちを使ってみましょうか」
「えっと、うわ、今度は全部ペンデュラムモンスターですね」
「ええ、ペンデュラムモンスターは、他にも特徴的な性質があるんですよ。モンスターゾーンのバニラをこちらのペンデュラムモンスターと入れ替えてください」
「わかりました。はい、準備完了です」
「それでは早速ですが、わたくしは手札を1枚捨て、ライトニング・ボルテックスを発動しましょう。Mr.比嘉のすべてのモンスターが破壊されますね。普通はどこに行きますか?」
「え?墓地じゃないんですか?」
「ペンデュラムモンスターは違うんですよ。実はエクストラデッキゾーンに表側表示で置かれるのです」
「えっ!?エクストラデッキですか?わ、わかりました……こんな感じでしょうか」
「ええ、ありがとうございます。それだけではありません。わたくしのターンが終わり、Mr.比嘉のターンが回ってきたとしましょう。Mr.比嘉はメインフェイズにペンデュラム召喚を行なうことができるのです」
「え?でも僕の手札にはなにもな……まさかエクストラデッキのモンスターも特殊召喚できるんですか?!」
「そうなのです。いつだったか、わたくしはペンデュラムモンスターはバウンスに強い、と説明しましたよね?その理由はこれなのです。ペンデュラムモンスターは、墓地を経由しないモンスター、そして返しに強い性質があるのです」
「うわー、ほんとに新しい召喚方法なんですね」
「おもしろいでしょう?」
「はい、とっても!」
「それはよかったです。しかし、残念ながらペンデュラム召喚にも弱点はあるんですね。それは1度に特殊召喚される性質上、その特殊召喚自体を無効にされるとそのモンスターはペンデュラムモンスターであってもすべて墓地に送られてしまうということです」
「墓地から蘇生させたらどうなるんですか?」
「それがフィールド上で破壊されれば、エクストラデッキに行ってくれますよ。ただ、奈落の落とし穴のような除外カードの場合は、すべて除外されてしまうので要注意です。あとはそうですね、ペンデュラムモンスターのペンデュラム効果は永続魔法のような性質を持っているのですが、スペルスピードは1です。ですからチェーンして破壊されてしまうことも多いので注意してください。魔法の使用を制限するカードにも弱いです。そしてペンデュラムはチューナーと同じく属性というくくりということでしょうか」
「ってことは、このペンデュラムモンスターは、ぜんぶバニラモンスターってことですか?」
「はい、そうなりますね。ですからバニラモンスターを手札に加える効果対象になりますから、覚えておくと便利ですよ」
「なるほど……わかりました。ところで榊先輩、ペンデュラム召喚のペンデュラムってどういう意味なんですか?」
「ペンデュラムは振り子という意味がありますね、これのことです」
「そのペンダントですか」
「はい、これは父がくれたお守りです。父がわたくしに教えてくれたことをもとに、名付けたんですよ。フィールドを振り子に見立てて、左右のスケールの間のモンスターを召喚できるというギミックだから、というのもありますが」
「なるほど、了解です。やっぱりチェーンは積まないですよね?」
「もちろんそうですよ。ペンデュラム召喚もエクシーズやシンクロと同じく、チェーンを積まない召喚方法になります。というかできたら大変なことになりますからダメですよ」
「ですよね。えっと、スケールの間のモンスターが出せるんですよね?出せないモンスターはあるんですか?」
「はい、ありますよ。シンクロ、エクシーズ、融合、儀式、罠(トラップ)モンスター、トークン……。簡単にいえば、特殊召喚でモンスターゾーンにおかれるモンスターは、すべてダメです」
「えーっと、つまり、通常召喚できるモンスターはOKってことですか?」
「ええ、そういうことですね」
「なんだかアドバンス召喚みたいですね」
「そうですね、リリース要員がいらないアドバンス召喚、ってところでしょうか。手札をたくさん使ったり、裁定が共通していたりするので、あながち間違ってはいませんよ。でもちがうところもあります。ペンデュラム召喚の最大の魅力は、呼びだしたモンスターたちで他の特殊召喚やアドバンス召喚につなげられるということですね」
「あ、そっか。大量にモンスターを並べられるから……」
「塾長たちが最後にペンデュラム召喚を教えるよう言っていたのは、こういうわけですね。ペンデュラム召喚は、ペンデュラムモンスターによってモンスターを並べる召喚方法です。これまで使いづらかった上級モンスターを使いやすくしたり、他の特殊召喚の展開を補助したりする特殊召喚でもあるのです。今のMr.比嘉ならペンデュラム召喚がどれだけの可能性を持った特殊召喚かわかっていただけると思います」
「はい、とてもよくわかりました、榊先輩!とってもおもしろそうな特殊召喚なんですね!でも残念だなあ、スタンディングデュエル用のペンデュラムモンスターってまだ発売されてないんですよね?これはバニラのサンプルだし、さっきみたいに回してみるのは無理ですよね?」
「あはは、ご心配にはおよびませんよ、Mr.比嘉。運営からいただいたサンプルカードはまだあるのです。遊勝塾は小さな塾ですし、塾生は主軸の特殊召喚がバラバラなのです。アクションデュエルの塾ですからね。おかげでペンデュラム召喚を体験していただく環境がないのです。スタンディングデュエルにペンデュラム召喚が実装されるにあたって、それを運営に相談したところ、体験希望者に配ってほしい、と大量に送られてきたものがあります。わたくししかそのテーマを回せるデュエリストはいなかったので、まだ箱積みなんですよ。よろしければ一緒に回してみませんか?」
「ほんとですか!?はい、ぜひお願いします!