Pendulum Summon 1

「さあ、長らくお待たせいたしました!これよりみなさまにお目にかけますのは、本家本元のペンデュラム召喚!わたくし榊遊矢が創り上げました新たなる次元、ペンデュラム召喚をご覧いただきます!みなさん、準備はよろしいですか?」

「はい!………って、え?ちょ、ちょっと待ってください、榊先輩!」

「おや、どうかしましたか?Mr.比嘉。そんな驚いた顔をして」

「ど、どうしたって、えっ……榊先輩が創ったって、え!?ペンデュラム召喚って、ま、まさか榊先輩が創造した召喚方法なんですかっ!?」

「おや、塾長や柚子から聞いていませんでしたか?ペンデュラム召喚はわたくししか教えられないと」

「そ、それは聞いてました。聞いてましたけど、この塾だとペンデュラム召喚ができるのは榊先輩だけだって……」

「おやおや、おふたりとも意地が悪い。それではまるでわたくししかペンデュラムを主軸にしたデッキの使い手がいない、つまり詳しい人間がいない、としか取れないではありませんか。たしかに間違ってはいませんね。わたくしともうひとり、そしてわたくしと同じEMの使い手、あわせて3名しかペンデュラム召喚の使い手はいませんから間違ってはいませんね。その意味するところは全く違いますけれども」

「ほ、ほんとは榊先輩がペンデュラム召喚の開祖ってことですよね……?」

「ええ、そうですね。この塾ではわたくし以上にペンデュラム召喚を教えられるデュエリストはいないでしょうね」

「………えっと、えっと」


比嘉は困惑しきっている。縋るような眼差しに柚子と塾長は、目を逸らした。ただしくは目を合わせることができなかったのだ。比嘉が予想どおり、というか想像以上のリアクションをしてくれた。その親子そろってツボにはまってしまい、目があうだけで笑いの無限ループに陥りそうだから本能が全力で避けている。肩を震わせている二人に遊矢の言葉が事実だと悟った比嘉は涙目で二人の名前を叫んだ。今までの遊矢とのやりとりが走馬灯のようにかけめぐる比嘉の表情は、おもしろいくらいにコミカルにくるくるとかわるものだから、見ていて飽きないのは事実だった。今まで、遊勝塾の先輩と後輩のつもりでやりとりしていた相手が、じつは雲の上の存在だったと本人の口からカミングアウトされたのである。比嘉からすればたまったもんじゃなかった。もちろん、それは遊矢の世間での評価であり、本人は全くそういうことを気にしない普通の中学2年生である。ついでにいえばペンデュラム召喚を披露した舞網市チャンピオンとの一戦も、実は記憶がぬけている。VTRで確認してようやくペンデュラム召喚の方法等を把握、幼馴染たちの協力でようやく会得した経緯がある。もちろんそんなこと比嘉は知らないし、遊矢は教えるつもりもないのだ。なにせ遊矢だって初心者デュエリストには尊敬の眼差しとか受けたいし、榊先輩と慕う後輩相手ならかっこつけたいお年頃の中学校2年生である。

ぶっちゃけるなら今日の寝不足は、この時のために用意したものだ。想像を超える狼狽っぷりをいつまでもニヤニヤしながら観察したい遊矢。しかし、比嘉をペンデュラム召喚の道に一気に引きずり込むには、掴みは上々だろうと切り上げることにする。


「Mr.比嘉」

「は、はいっ!」

「ペンデュラム召喚をお見せするにあたりまして、ひとつアナウンスがございます。これよりデュエルは新たなる進化の道を進みます、ですからそれに相応しい舞台というものがつきものですよね?そこで、わたくしはご用意いたしました。今まで使用してきたデュエルマットを、今回から新しいデュエルマットに変更いたします!」

「えっ、ペンデュラム召喚ってデュエルマットまで変えちゃうような召喚方法なんですか!?」


今まで使ってきたデュエルマットの横に、真新しいデュエルマットがひかれる。比嘉は開いた口がふさがらない。新しいデュエルマットには、公認大会のグッズだというロゴが入っている。ちなみにこのプレイマットは、世界でたった1枚しかない。遊矢のエースモンスターのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンがデザインされた特別なものだ。スタンディングデュエルにペンデュラム召喚が実装されるにあたって、公認大会の運営からペンデュラム召喚についての講義を依頼されたお礼としてもらったものだ。公式で使用されるフィールドは、遊矢の説明によってフィールドが今のものに変更された経緯がある。公認大会のスタッフ一覧には、スペシャルサンクスとして、榊遊矢の名前を見ることができるだろう。つまりは、そういうことだ。自慢したかったのだ、遊矢は。


ぜんぶぜんぶ、ユートから教えてもらった情報なのだが、この世界ではとりあえず遊矢はとってもすごい人なのは間違いない。どれくらいすごいのか、記憶喪失ということになっている、この世界に迷い込んで数日の遊矢はわからない。だから、比嘉の反応はこの世界の一般的な反応ということになる。様子見の意味もあったのだが、どっきりは想像以上のものを返してくれた。


遊矢がすごい人だということがよくわかった比嘉である。もうどうしていいんだかわからない。すっかり涙目の比嘉は委縮しっぱなしだ。それをみて、そんな顔しないでください、スマイルですよ、と遊矢はわらう。怒られないと分かって比嘉はすこしほっとした顔をした。正直、まだ実感がわかない遊矢である。遊矢のいた世界でも、この世界でも、ペンデュラムの開祖になったのは同じだ。でも、何も知らない人が聞いたら恐縮するくらいのことを成し遂げたという評価なのは、とっても新鮮だった。遊矢がいた世界では、たしかに注目の的になったことは事実だが、ここまで大々的な反響はなかった気がする。でも、ユートの力も借りて、この世界のことをほんの少し学んだ遊矢は、その差がどこから来るのか説明することができる。

気分が高揚した遊矢の演説は止まらない。遊矢が興奮しきっているのは、この世界の歴史を一夜漬けで勉強したときに思ったことをそのまま伝えたいと思ったからだ。


「はい、そのとおりです!今までMr.比嘉が学んできたのは、すべて先駆であるスタンディングデュエルによって開拓されてきた召喚方法ですが、ペンデュラム召喚は違います。デュエルモンスターズ史上初めて、アクションデュエルから生まれた唯一の召喚方法なのです。このペンデュラム召喚はアクションデュエルから逆輸入という形でスタンディングデュエルに導入されました。これがどれだけ画期的なことか、その感動があなたに伝わるでしょうか、Mr.比嘉」


意気揚々とした表情で語られる遊矢の語り口にひき込まれ始めたのか、次第に比嘉の目が輝きだす。前のめりになり始めた後輩に、いいぞいいぞと遊矢は語りに力が入る。


「デュエルモンスターズの始まりはスタンディングデュエルであり、アクションデュエルはその派生にすぎないとされています。ですからデュエリスト人口もはるかに少なく、すべてがスタンディングデュエルの後追いでしかありませんでした。しかし、このペンデュラム召喚がアクションデュエルから誕生しました。その画期的な召喚方法は評判を呼び、スタンディングデュエルにもそのギミックが導入されるまでにいたり、なんとフィールドの仕様が変更されるという史上初の展開、新たなルール策定、そしてデュエルモンスターズは新たな環境を迎えて現在に至ります。一連の出来事をデュエリストたちは、ペンデュラム召喚が巻き起こしたまさしく決闘革命(デュエリスト・アドベント)、そうたたえたのです。さあ、その全貌をご覧にいれましょう!」

「はい、お願いしますっ!」


今までになくきらきらとした比嘉の表情に、遊矢は大きく頷いた。旧式のプレイマットは片づけられ、新しいプレイマットが長テーブルに広げられた。


「これが今回からお世話になるデュエルのプレイマットとなります。さっそく見てみましょうか」

「やっぱりなんだか今までと違いますね」

「はい、新設されたカードゾーンの関係でそれぞれの位置が微妙に違っていますね。フィールドの左右に1つずつ追加されたカードゾーンがあるのがわかりますでしょうか?」


比嘉からみてフィールドの左側を指差した遊矢は、フィールドゾーンとエクストラデッキゾーンの間に追加された1枚分のカードゾーンをぐるりとなぞる。青色のカードゾーンである。そして、今度は左側のカードゾーンをなぞる。こちらは墓地とデッキゾーンの間にあり、赤色のカードゾーンである。比嘉は新しいページを開いて、新しいフィールドのカードゾーンの位置を確認しながら四角をならべている。遊矢は新しいフィールドの配置を口頭で説明しながら、それが終わるのをまった。ようやく鉛筆がとまったのを確認して、説明を再開する。


「このフィールドの左右に1つずつあるカードゾーンをペンデュラムゾーンといいます。ペンデュラム召喚は、ペンデュラムモンスターという新たなモンスター群をこのペンデュラムゾーンに設置して行う特殊召喚なのです」

「えっ、モンスターなのに、専用のカードゾーンがあるんですか?」

「はい、その理由はペンデュラムモンスターが持つ性質にあります。これがペンデュラムモンスターとなります。どうぞ、ごらんください」


遊矢はカードを差し出した。


フーコーの魔砲石(まほうせき)(闇)
          ☆☆☆☆☆
◇ このカードを発動したターンのエンドフェイズに、フィールド  ◇
2 の表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。その 2
  カードを破壊する。
【魔法使い族/ペンデュラム】
夢幻の空間を彷徨う機械仕掛けの生命体、だったはずである。
一番の謎は、過去の記録が殆ど残ってい・・事だ。
その理由・・・なのか、・・・・・干渉・・・て眠・・・ている・・?
・・・消去・・・
ATK2200  DEF1200


「気になるところはありますか?」

「そうですね。あ、カードがオレンジ色から下に行くにつれて緑色のグラデーションになってます。それに両端に◇2っていうのがありますね。あとは、そーだなあ、テキストが2つに分かれてます。ひとつは効果なのに、もうひとつはバニラのテキストですよね、これ」

「なるほど、それではMr.比嘉。オレンジ色と緑色はなんのカードか覚えていますか?」

「え?えーっと、そうですね、オレンジ色は効果モンスターで、緑色は魔法カードです」

「はい、よくできました。この色の変化はまさにペンデュラムモンスターを表しているのです。ペンデュラムモンスターとは、モンスターと魔法それぞれの特性を持った画期的なモンスターなのです。ペンデュラムモンスターをモンスターとして召喚すると、他のモンスターのようにモンスターゾーンに置かれます。しかし、魔法として発動すると、魔法罠ゾーンではなく、ペンデュラムゾーンに置かれるのです。ペンデュラムゾーンは魔法として発動したペンデュラムモンスターを置く専用のカードゾーンというわけですね」

「へえー、罠(トラップ)モンスターの魔法版みたいなカードなんですね」

「ええ、わかりやすくいえばそうなりますね。もっとも、あちらはモンスターとしても扱う永続罠です。一方こちらは魔法としても扱うモンスターなので、大分使い勝手がいいですよ」

「でも似てるからあれだけプッシュしてたんですね、榊先輩」

「あはは、そうですね。親近感はありますよ」

「やっぱり。あ、そうだ、榊先輩。ペンデュラムゾーンは2つありますけど、どっちにおいてもいいんですか?」

「ええ、左右どちらに置いても大丈夫ですよ。ただし、すでに置いてあるゾーンにはおけないので注意してくださいね」

「あ、フィールド魔法みたいに、新しく張り替えることはできないんですね」

「はい、そうですよ。間違えないようにご注意を」

「わかりました」

「どうしても張り替えたいときは、破壊するか、バウンスしてくださいね。一度置いたペンデュラムカードを空いているもう一方に移すことはもちろんできませんし、入れ替えることもできませんよ。それと、ペンデュラムゾーンは魔法罠ゾーンとは別のゾーンという扱いなので、魔法罠ゾーンのみが対象の効果は受け付けませんから間違えないでくださいね」

「へえー、フィールドゾーンみたいですね」

「ええ、その通りです。それでは、先ほどMr.#h比嘉#が説明してくれた2つに分かれたテキストについて説明いたしましょう。お察しとは思いますが、ペンデュラムモンスターには、モンスターとしての効果と魔法としての効果、2つのテキストが書かれています。下の方に書いてあるテキストはモンスターとしての効果。上の方に書いてあるテキストは、魔法として発動したときの効果、通称ペンデュラム効果です。さて、それでは、両端の縦フレームの中央に書かれた赤と青の◇2にご注目ください!これはペンデュラムスケールといいます。これがペンデュラム召喚する時に、とっても重要になります!」

「なんだかここまで来て、新しい単語がいっぱいでてきましたね……ちょっと待ってください」

「はい、わかりました。ゆっくりノートにまとめてくださいね。フィールドすら書き換えるルールを新たに創造するということは、それだけ大きなことなのですよ、Mr,比嘉。スタンディングデュエルにおいて、ペンデュラム召喚は実装されてからまだ日が浅いので、スタートはほかのデュエリストとあまりかわらないはずです。がんばれば、Mr比嘉にもチャンスはあるはずですよ。なにせ、ペンデュラム召喚の使い手はまだ指折りしかいませんからね。しかもアクションデュエリストで、ですから」

「スタンディングデュエル専門のデュエリストはまだいないってことですか?」

「そうですね。というか、ペンデュラムを使えるスタンディングデュエリストは、プロでもまだいないんじゃないでしょうか。なにせペンデュラム召喚を主軸にしたスタンディングデュエル対応のテーマは、まだ発売されていないんですよ。アクションデュエル用の効果をスタンディングデュエル用に調整している途中だそうです。最終段階に入っているそうですから、正式に販売が告知されるのは今年の舞網チャンピオンシップだそうですよ。Mr.比嘉も考えてみてはいかがでしょうか」



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