夏音1

 
ちりーん、と音が響いた気がした。




「女将さーん。……もう限界ですよぉ」

「情けない声出さないでよ」

「笥朗ちゃんは体力がないのね」

そう言われている笥朗の両手には買い物袋がぶら下がっている。
ふらふらと先行く女将さんの後ろをついて歩いているのだが、普段からギターしか弾いていない笥朗にとって荷物運びは酷のようで。
いつもお世話になっている女将さんの手伝いをしているが、全然使えないのは自分でもわかっている。

初夏にはまだ早いのに少しちりちりと太陽の光が首の後ろをさしてくる。
もう少ししたら暑くなる、生きていけるかな……。





なんとか雨降り亭に戻った笥朗。もうへとへとだ。

「体力つけるかな」

「少しぐらい筋トレでもしたらどう?」

てるるに言われ本気で筋トレを考える笥朗の耳に、微かに響く音が聞こえてきた。
笥朗が窓を開けると、外には誰もいないがおとが近づいてくるのがわかる。

だんだんと近づいてくる音と供に、現れたのは空を泳いでくる金魚だった。
金魚は笥朗の姿を見つけると窓際へと泳いできた。

「笥朗さん、こんにちは」

「こんにちは。今年は来たんだね」

「はい!」

そう答えた金魚の後ろにすとんと大きな猫が着地をした。
猫が手にしているのは肩に担いだ長い竿にぶらさがる、これまた大きいな風鈴。

「風鈴屋さんもこんにちは」

「どうも〜、笥朗はん。お久しゅうございます。今年はこの町に寄りましたんで来ましたんです」


 

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