02
「おい、イヅチ。そのクソ餓鬼はなんだ」
EMP本部に着くと、案の定真っ先に指摘された。
「拾ってきたんですよ」
EMPの三代目頭領であるリザ・アレックス・ヒューイットは眉間にシワを寄せ、全く悪びれる様子のないイヅチを睨みつける。
「はあ……お前はなんでこう、いろいろ拾ってくるんだ」
前髪をくしゃりと握りしめると、深い溜息をついてリザは困った顔をした。
「リザ、よく見てください。この目の色と痣、見覚えありませんか?」
イヅチに言われ、じっくりと少年を観察し始めるリザ。
右目が金色、左目が赤色のオッドアイに、右目の下には蔦(ツタ)を連想するような複雑な模様の痣がある。
見知らぬ人物にじろじろ見られることに嫌悪感を抱いたらしい少年は、イヅチの手をギュッと両手で握りしめてリザをじろりと見た。
その瞬間、リザは背筋が凍る感覚を覚え、反射的に少年から目を反らす。
「ほう……こいつ、異能か。『アレ』がオッドアイという情報は入っていないが、赤眼にこの痣、可能性は無きにしも非ず、か」
ニヤリと笑う。
「イヅチ、こいつがあの一族の可能性があると踏んで連れてきたのか?」
「半分はそう、もう半分は同情です。あとこの少年は記憶がない上に言葉も分からないらしく、詳細は全く不明です」
「ふははっ! ついにこの手にあの憎き一族の欠片を掴んだんだ! 手放すものか。いいだろう、お前が育てろよ、イヅチ」
「了解です」
リザは部屋を出ると鼻歌交じりに廊下の奥へと消えて行った。
EMP(イーエムピー)【異能殺人集団】(通称:エンプ)とは、頭領のリザを筆頭とした、文字通りの異能者の殺人集団を中心とした組織である。依頼を受け、前金を受け取り依頼を遂行、そして残金を集金する。引き受ける依頼は殺しのみならず、保護、拉致、護衛など様々である。
顧客も軍政府であったり企業であったり、はたまたマフィアであったり。
どの機関にも与(クミ)しない中立であるが、仕事柄恨みを買うことが多々あるため、以前の顧客から狙われることもある。だがそれを難なく片付ける集団だからこそ、その腕を評価され、信頼を得て依頼も絶えることはない。そしてリピート数も多いことがまさにそれの証明となる。
「よかったですね、ここで引き取ることになりましたよ。あなたもEMPの一員になるんです」
「え……ぷ?」
微笑むイヅチを見上げ、少年は首を傾げた。
「え、ん、ぷ。EMP(イーエムピー)でエンプです。私達の仕事場です」
「しおと……」
「そう、仕事。今日からここで生きていくんですよ。そうですね、まずは我が家に案内いたしましょう」
そう言うとイヅチは、未だに首を傾げている少年の手を引き本部をあとにした。
「これから行くところは私達が住んでいる家です。あなたもこれからそこに住むんですよ」
本部から車を出してもらい、EMPの上位能力者が住む家へと二人は向かった。
EMPには様々な能力者がいて、その中でも戦闘に秀でた能力者に『ナンバー』をつけている。
そして今向かっている家には、その上位5名と家主であるリザ、そして能力も何もないが、組織のアルバイトとして働いている男が暮らしている。
リザの手腕のおかげで組織の経済状況は潤っているため―控えめに言って―なかなか広い土地を手に入れることができ、そして―これまた控えめに言って―なかなか立派な日本家屋を建てることができた。和テイストを好むイヅチの要望で日本庭園まで造ってある。
「着きました。ここが我が家です。さあ、入りましょう」
車を降りると、見上げるほど大きな棟門とどこまでも続く築地塀。塀の外側には堀まであり、時代劇でよく見るような武家のお屋敷のよう。
「立派でしょう? ここにあなたも住むんです。ほら、行きますよ」
門の内側から覗く大きく成長した松の木をぼけーっと眺めていた少年の手を再び引いて門をくぐった。
二本の松に迎えられ、芝が広がる中に敷かれた石畳を歩いて進めばこれまた大きな立派な屋敷が見えてきた。屋敷の右側に視線を移せば奥には蔵があり、そこは重そうな扉で固く閉ざされている。
「さあ、EMPの上位5名とご対面ですよ。皆さん良い方々ですから安心してください。あ……もしかするとまだ帰って来ていないかもしれませんが」
言葉が理解できていないであろうことはお構いなしに少年に話し続けるイヅチは、彼を居間へと案内した。
少年はイヅチの手を強く握りしめ、隠れながら恐る恐る付いて行く。
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