01
「あなたはこんなところに座って何をしているのですか」
深い深い森の中、イヅチは大きな樹木にもたれかかり座り込んでいる少年に声をかけた。
「…………」
少年はゆっくりとイヅチを見上げる。
その目には生気など一切なく、何も映していないようだ。
「もう一度問います。あなたはここで何をしているのですか」
「…………?」
少年は首を傾げるだけで口を開こうとしない。
「もしかしてあなた、声が出せないのですか? それとも、言葉がわからない?」
それでも反応を見せない少年から一度目を離し、イヅチは遠くに広がる村を見やる。
「はあ……。意思が通じないのなら無意味な時間です。私は帰路を急いでいるのでこれで失礼します」
小さくため息をつくと踵を返した。
すると、ぐいっと後ろに引っ張られる感覚。
「なんです?」
振り向くと、イヅチの着物の裾を掴みこちらを見上げる少年の姿。
何も反応を示さなかった少年が初めて行動を起こした瞬間だった。
「あ……あ……」
何か喋ろうとしているのか口をパクパクと動かす少年だが、声は出てもどうやら言葉は話せないよう。
「喋れないほうでしたか」
呟くと、イヅチは少年の目の前にしゃがみ込んだ。
「その目、綺麗ですね」
「……?」
少年の真っ白の頭を撫でたイヅチは、彼の赤色と金色の目を覗き込み微笑んだ。
「あなた、行く当てがないのでしょう?」
そして再び立ち上がるとイヅチは少年に手を差し出す。
「どうです? 私と一緒に来ますか?」
少年は、差し出されたイヅチの手を握った。
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