プロローグ


 人間が、落ちてきた。

 高い塀の上から虚ろな目をした人たちが無機物のようにボトボトと落ちてくる。

 逃げ惑う人。
 呆然と佇む人。
 助けようと布を広げて受け止めようとする人。

 そんな中、一人の女が男と向かい合うと片手を上げた。その手には、ギラリと光る大きな刃物。その刃に陽の光が反射してそちらを凝視していた人々の目を眩ませた瞬間、目を見開いた男の首が地面に転がった。

 その光景を目の当たりにした人々が叫び出すのと、頭の無くなった男の切断面から血が噴き出すのと同時だった。

 しかし人々の叫び声が突如途切れ、『彼』へと視線が注がれた。

 その視線の先には、少年が一人。
 
 少年の姿を確認した人々の目からは一瞬にして生気が消え失せ、近くにいる者と向かい合うと、互いに首を絞め始めた。

 泡を吹き、目を剥いて人々はバタバタと倒れていく。死にきれなかった者は死に損ない同士でまた首を絞め合う。

 そして街は静かになった。



 少年は、ニヤリと笑う。


 

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