青天の霹靂(ウィルフロ):支援会話B
キアラン城に仕官してから早1ヶ月。
ケントからリンに仕える身分としての礼儀作法を日々学びつつ、城の弓兵達との訓練に精を出していると、不意にリンに呼び止められた。
「ねぇウィル」
「リンディス様」
ウィルの“リンディス様”呼びに未だに慣れない…というか、嫌そうな様子のリンが眉をひそめる。
そんな顔をされたって、今のリンはこのキアラン城の侯爵の孫娘かつ自分の主君なのだから、そこは我慢してほしいところだ。
いくらリンが嫌がったとしても、以前のように気軽に喋ってしまっては自分の首が跳びかねない。
それが分かっているから、リンも特に口には出さなかった。
「あのね、稽古をつけてほしいんだけど」
「…?おれが、ですか?」
剣が得意武器のリンに、どうやって自分が稽古をつけるというのか。
サカ育ちのリンは一応弓も扱えるらしいから、いつかの時のために弓の稽古をつけろということだろうか?
怪訝そうな表情のウィルに、リンはフフッと笑った。
「私にじゃないわ。…この子によ」
リンに背を押されて姿を現したのは
「フロリーナ?」
「あ、あああああ、あの、その…えっと…」
どもりまくるフロリーナに、リンは苦笑しながらウィルを見やった。
その目が『言葉になるまで待ってくれ』と言っている気がする。
「ウィ…ウィルさん…、わ、私…その…、」
「うん?」
「わ…私…や、矢を避ける、練習が…したくて…」
「……」
「て、敵に…あ、アーチャーがいても…皆に、守って貰うだけじゃ…だ、駄目だって…思って……その…」
一生懸命伝えようとするフロリーナを見つめながら、ふとウィルはキアラン城に辿り着く直前の戦闘を思い出していた。
***
『おいウィル!!あまり前に出るな、その位置だとお前まで狙われるぞ!前線は俺らに任せ…!』
『えぇ、あの弓兵を倒したら後はお願いしますよ!!』
ヒュンッ
瓦礫に足をかけ、ウィルの放った矢が敵の弓兵を正確に倒した。
これでこの場の敵アーチャーは全員倒したはずだ。
後は近距離戦闘部隊に託すことにして、早々にセーラやエルク、ルセアたちのいる後衛に下がることにする。
『あ、あの、ウィルさん…!』
『これでちょっとは動きやすくなっただろ。おれも援護するから、前線は頼むな』
今の自分は“アーチャー”だ。
弓を強く握りしめながら、すれ違いがてらに必要最低限の会話だけを交わす。
と、不意にカクンと服の裾を引かれ、驚いて振り返った。
『ウィルさん…あ、ありがとう…ございます…』
『え』
思わず目を見開いた。
まさかこのフロリーナが、自分から男に、しかも“アーチャー”に触れてくるなんて
間抜けヅラを晒しながらポカンとしていると、そのウィルの反応に顔を赤らめたフロリーナがパッと背を向け、ヒューイにフワリと跨る。
『い、行ってきますね…!』
『あっ、フロリーナ!!』
思わず呼び止めると、フロリーナの肩がピクリと震えた。
『無理するなよ、もし増援で弓兵が出てきたらすぐに下がるんだぞ!』
皆が決まってフロリーナに言う言葉を、ウィルもまた彼女に投げかけた。
やはり、この部隊で最も心配なのはフロリーナだ。
『…はい…!』
***
なるほど、フロリーナはフロリーナなりに自らの弱点を克服しようと必死らしい。
男性恐怖症の方も少しマシになってきたようだし…
感心しながらフロリーナに笑いかける。
「もちろん、おれで良ければいくらでも練習台になってやるよ!」
「良かったじゃない、フロリーナ」
「あ、あう……う、うん…じゃない、はい」
こうして、フロリーナと“アーチャー”としてのウィルの特訓が始まったのだった。
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