青天の霹靂(ウィルフロ):支援会話C







ウィルはフロリーナの前に姿を現す時には、極力弓は持たないようにしている。

初めてフロリーナと出会った時、自身の持つ弓に酷く怯えられて握手一つ出来やしなかったからだ。


(…まぁ、ペガサスナイトにアーチャーと仲良くしろってのがそもそも無理な話なんだろうけど)


一人苦笑しながら弓の手入れをしていると、背後から人の気配がした。


「ウィル」

「おはよーございます。ケントさん」

「弓の手入れか。精が出るな」

「はは、フロリーナが来たら教えてください」


その言葉にケントも苦笑気味だ。


その理由は、ウィルが「リンディス傭兵団」に所属することになったその日にまで遡る。























新しくフロリーナとウィルという仲間を迎え、「リンディス傭兵団」として動き出したリン一行。
キアランへ向かう途中、小休止を兼ねてこれからの道程を騎士二人とリンが相談していると


『きゃぁっ!』

『わー!待って待って!!ほら、弓持ってないから!!』


水を飲みに出かけたウィルと丁度戻ってきたフロリーナが出くわし、フロリーナが驚いて悲鳴を上げたのだ。

ウィルにしてみれば、出会い頭に悲鳴を上げられて多少なりともショックを受けている。
必死に両手を広げて手ぶらであることをアピールすると、フロリーナは近場の木の後ろに隠れはしたものの、とりあえず逃げ出しはしなかった。

そんな新入り二人を、ケントは経過観察、セインはニヤニヤしながら、リンは少し心配そうに見守っている。


男アーチャーと、男性恐怖症ペガサスナイトの2回目の接触である。


『あ、えーと…フロリーナ、だよな?』

『は…はい……ご、ごめんなさい……私…』


悲鳴を上げてしまったことや、木の影から出てこれないことを申し訳ないと思っているらしい。

フロリーナは、生来人から疎まれたことのない陽気な性格のウィルにとって初めて出会う人種だった。
まさか自分の存在だけで、ここまで怯えられるとは…

そんなことを頭の隅で考えながら、ウィルはフロリーナを怯えさせないように笑みを浮かべ、慎重に一歩歩み寄った。


『…ね、弓持ってないおれは、“アーチャー”じゃないよな?』

『え…?』

『君の中のおれは、多分“ウィル”じゃなくて“アーチャー”なんだろ?』


その言葉にフロリーナの顔がギクリと強張った。図星だったらしい。
そんな素直な反応は、可愛いげがあって好感が持てる。


『おれが弓持ってるときはそれでいい。でも…弓持ってない時は、おれのこと“アーチャー”じゃなくて、“ウィル”として見てくれないかな』


困ったように笑いかけると、フロリーナはしばしオロオロとリンを見やったりしていたが、少ししてから小さく頷いた。











***











「まぁ、そう気を落とすな青年!」


いつの間にやって来たのか、セインがウィルの肩に手を回す。


「何なんですか、セインさん…!おれは別に気落ちしてなんか」

「あんなに可憐な花にフラれてショックなのはよーく分かる。俺もフロリーナさんにアプローチしにいく度に、リンディス様の凍てつくような視線を浴びてだな…」

「人の話を聞いて下さいよ!!」


相変わらずのセインに、溜め息をついたケントが容赦ない拳骨を食らわせてウィルから引き剥がした。


「すまん、ウィル。…ん、リンディス様が来たようだ。フロリーナもいるな」


その言葉に弓を手入れしていた手を止める。
すぐに手が届くようにケントの馬に弓矢を括りつけながら、リンと共にこちらへやってくるフロリーナをチラリと見やった。

いつ敵襲が来るかもしれない旅の途中で、自身の武器から手を離すなど、褒められた行為ではないことぐらい承知している。

愛用の武器を持たない手が落ち着かないのも、慣れないものだ。





でも、それでも





「よ、フロリーナ」

「は…はい、ウィルさん…」






君がこちらにその目を向けてくれるなら



















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