桜と雪の、舞う下で(竹くく前提、くく←ろじ)




三郎次→五年












「よ、三郎次」



寒い寒い冬の日


授業が早めに終わったので下級生より先に煙硝蔵に来て作業をしていると、懐かしい声がした。


「久々知先輩…」


二年前に卒業した火薬委員長。この学園に入学して五年が経つが、今まで出会った人々の中で最もまともな人だと信じている。



文武両道という肩書きに憧れていた

その人柄を尊敬していた

久々知兵助という人間を…想っていた



「…久しぶりですね。今日はどうされたんですか?」


予想していなかった再会に高ぶる感情を何とか抑えこんで穏やかな笑みを浮かべる。


「ん、仕事の帰りに近くまで来たもんだからちょっと寄ってみたんだ。はは…何にも変わってないなぁ」


兵助が懐かしそうに煙硝蔵を覗き込む。


「先輩が卒業してまだ二年でしょう。変わりませんよ…金に余裕が無いのは学園も委員会の予算も一緒ですから」


苦笑して肩をすくめると兵助が白い息を吐きながら嬉しそうに振り向いた。


「いや、やっぱり一つだけあった。すごい変わったとこ」

「?」


怪訝に思って眉を寄せると、兵助の手がふわりと頭に乗った。


「お前だよ」


兵助がニコッと笑う。


「随分立派になったじゃないか。二年前はあんなに小さかったのに…もう、大人な顔してる」

「………!」


頭に乗っている手の感触に、目の前にある優しい笑顔に、変わらない想いが、感情が、一気に溢れ出した。


「久々知先輩っ…!」

「おーい、兵助ー」


口を開いた瞬間、三郎次の背後で兵助を呼ぶ声がした。
振り向いた先にいたのは、やはり二年前の生物委員長。


「はち」


頭から兵助の手の感触が消える。


「もう済んだか?そろそろ行かないと帰るの夜中になっちまうぞ」

「あぁ…うん、そうだな」


兵助が名残惜しげな表情になるが、ほんの少しだけ…頬が上気しているのを見逃しはしなかった。

知っていた。

学生の頃からこの二人が想い合っていたことなんて

分かっていた。

竹谷先輩がいるかぎり、久々知先輩の隣が自分のものになるなど有り得ないことなんて

でも

ずっとずっと変わらず想い続けていたらいつかは…と淡い希望を抱いていたのも確かなのだ、が

今の竹谷先輩の言葉からして…一緒に、住んでいるのだろうか

全身から力が抜けそうになるのを、ぐっとこらえる。


「…じゃぁな、三郎次。」


兵助が眉を下げつつも笑って手を振った。


「久々知先輩!!」




















『俺は、久々知先輩が好きです…!』



二年前の卒業式。

卒業証書を片手に校門を出ようとしていた兵助に告白した時の記憶が蘇る。桜の舞い散る空の下で兵助の驚いた表情がだんだん笑顔に変わっていった。


『俺も三郎次のこと好きだよ。ありがとな』


自分の好きと、久々知先輩の好きは違う

それでもそう言ってもらえたことが嬉しくて、真意は通じなかったが自分の気持ちを言えたことに満足だった。



何故か、あの時の兵助と今目の前にいる兵助が重なって





「…俺は、」



深呼吸を一つする。



「久々知先輩が、好きです」



あの時と同じように



笑って言った。






「……うん、ありがとな。俺も三郎次のこと、好きだよ」


だから好きの意味が違う

やはりあの時と同じように綺麗な笑顔で答えた兵助に苦笑した。


「…またいつでも来て下さい」






校門に向かう兵助と竹谷を見送ると、鼻の頭に何か冷たいものが触れた。









「…あ」












雪だ


































「なぁ…さっきの三郎次の…先輩としてお前のこと好きって意味じゃないような気がするんだけど」

「……………」

「お前、ほんとは気付いてたんじゃねぇの。あいつの気持ち」

「……さぁ、な」
















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