Valentine Panic(くく竹くく)












「…はち」



生物の世話を終え、後輩たちを帰すと背後から聞き慣れた声がした


「よう兵助。そっちも委員会終わったのか?」

「……………」


お疲れ、といつものように笑って労いの言葉を口にするも兵助は応えない。

竹谷の足元をじっと見つめながら表情を強ばらせている。


「??…おーい」


顔の前で手を振るが反応は無い。

…いや、よく見たら口が小さく動いている。

あ…だの、う…だの、余程耳をすまさないと聞こえないくらいの声を発しているが意味を成していない。


「…兵助?…どした……んっ…!?」


顔を覗き込むとビクッと兵助の肩が跳ねてギュッと目を瞑ったかと思うと、口の中に何かを押し込まれた。


「甘っ…なんだこれ……?」

「……………っ」

「あっ、おい!兵助!?」


一瞬で顔を真っ赤に染め上げた兵助が脱兎のごとく身を翻して竹谷の前から走り去る。

あまりにもいつもと違う兵助の様子と口に広がる甘い味に、ぽつんと残された竹谷には困惑が広まるばかりだ。


「な…何だったんだ…?今の…」

「モテモテだな竹谷くん」


頭上からの声に顔を向けると屋根の上で三郎がニヤニヤしながらこちらを見下ろしている。


「…なんだよ三郎」

「はち。今日は何日だ?」

「はぁ?」


意味が分からない


「…二月十四日」

「そう、バレンタインデーだ」

「ば、ばれんたいんでー…?」


なんだその怪しげな呪文のような言葉は


「ま、簡単に言うと好きな人にチョコレートを贈る日だな」

「ふーん…」


竹谷の反応に三郎が深く溜め息をついた。


「はち、バレンタインデーとは?」

「…好きな人にチョコをあげる日だって今お前が言ったじゃねぇか」

「じゃぁお前の口ん中に入ってるものは?」

「……これ………チョ、コ…?」

「そのチョコは誰にもらった?」

「…兵助……」

「そして今日はバレンタインだ。バレンタインとは?」

「好きな人に……チョコを…………え?…えぇえええええええええええっ!!??」

「そういうことだ」


ようやく理解した竹谷の顔がみるみる赤く染まる。


「なっ…なんっ…へ、すけ……え、嘘…」


いっそ清々しいほどうろたえる竹谷の肩にポン、と手を置くと三郎が囁いた。


「三月十四日がホワイトデーだ。三倍返し忘れんなよ」


そう言ってふっと姿を消した三郎のことなど忘却の彼方へ押しやってしまいそうな勢いで既に頭は真っ白だ。

右手で顔を覆ってしゃがみこむ。


「……あー…………」


緩む口元を抑えきれない。

三月十四日だと?
一ヶ月も待てるものか

竹谷はガバッと立ち上がると駆け出した。









今ごろ勘右衛門にでもすがりついているのだろう兵助の元へ






































おまけ







「…勘〜……」


「あーよしよし。よく頑張ったなー。偉いぞ兵助ー」


「兵助ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「ぎゃぁあああああああ!!!なっ…は…はち…!?」


「勘!兵助借りてくぞ!」


「は!?ちょっ、待っ…」


「おー、夕飯までには返せよ」


「勘んんんん!!??え、うわっ…降ろせぇぇえええええええええええ!!!」














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