約束(五年)











なぁ、また来ようぜ



うん。いつか、また



いつかって、いつだよ?



卒業して五年後とか!



いいぜ。乗った










約束だ─…























兵助はどこまでも青い空をぼんやりと眺めた。


「どうした久々知?帰るぞ」

「あ…はい」


就職した城でも確実に忍務をこなし、信頼も段々と得られている。
就職先での先輩と二人で帰路につくと、先輩が朗らかに口を開いた。


「最近戦も無いし、平和だな。いいこった」

「そうですね」

「まぁ俺は明日も西側の偵察に行かにゃならんが。お前は?」

「私は休みを頂いてます」

「休み?何かあるのか?」

「ええ…」


そよそよと穏やかな風が髪を揺らす。




「約束があるんです」













***












目の前にそびえ立つのは、大きな大きなケヤキの木。


「……………」


その幹に触れながら兵助は記憶を辿った。

あれからもう八年も経つのか。早いものだ。

忍術学園で忍術を学び始めて三回目の春。
五人でここにやって来た。


『なぁなぁ、見てみろよ!すげーいい景色!』

『わぁ…ほんとだ。気持ちいいね』


遠足(という名のサバイバル演習)に行った時、昼休みに登った丘の上。
眼前に広がる自然に、五人は目を細めた。

その時に交わした約束を、みんなは覚えているだろうか。

あんな口約束を今までずっと覚えていて、わざわざ仕事を休んでまでやって来た自分に苦笑する。


その時







「兵助?」









五年ぶりに聞くその声にゆっくりと振り向くと、そこには少し大人びた、あの笑顔があった。


「…久しぶり。勘」


そう言った瞬間、衝撃とともに目の前が暗くなった。


「兵助!久しぶりだなー!!元気してたか!?」

「お、おい勘…」


飛びついてきた勘右衛門の肩に顔をぶつけたものの、なんとか踏ん張って受け止める。

わぁわぁ騒ぐ勘右衛門とじゃれていると、またしても声がした。


「まったく、お前らは変わらねーな」

「二人とも元気そうだね」


振り返らなくても分かる。


「鉢屋!雷蔵!」


勘右衛門がパッと顔を上げて、二人の元へ向かっていった。


「なんだよ、みんな約束覚えてたのか」

「卒業した時も、誰も何も言わなかったのにね」

「時間さえ決めてなかったぞ。すごいな」


勘右衛門が雷蔵と三郎を見やる。


「二人の噂は聞いてるよ。顔が同じの凄腕忍者がいるって」

「あぁ俺も聞いたことある。一発でお前らだって分かった」


三郎はニヤニヤしているが雷蔵は苦笑気味だ。


「ほらもー、三郎がやりたい放題するから。忍者が有名になってどうするのさ」

「いいじゃないか。その方が依頼も来る」


まったく、三郎は相変わらずだ


「あと…あいつは来るかな」

「はちかぁ」

「あのモップ頭じゃ忘れてるんじゃね?」

「誰がモップ頭だって?」


三郎がぼやいた瞬間、黒い影が舞い降りてきた。


「はち!!」

「よぉ、久しぶり」


私服の四人と違って、竹谷は黒い忍装束だった。やけにボロボロである。


「ど、どうしたの。ケガしてる?」


雷蔵が心配そうに窺うが、竹谷はカラカラと笑った。


「違う違う。今日のは簡単な忍務で、すぐに終わらせたんだけどな。約束があるからって急いで来たら、滑って転んで、転んだ先が段差になってて」

「アホか」


ボソッと呟いた三郎を竹谷がジロッと睨み、勘右衛門が吹き出した。







あぁ やっぱり



みんな変わらないな






兵助が熱くなった目頭を隠すように顔を伏せた。

こんな時代だ。戦は起こる。

卒業してからも、皆の消息を自分から探る気には到底なれなかった。





なのに




あんな口約束





当たり前みたいに、みんな覚えていて





当たり前みたいに、また集まって








「まったく…馬鹿だな、お前ら」


ポツリと紡がれた言葉は風にさらわれて


「え?」

「なんでもない」


顔を上げた兵助の表情には微笑があった。


「はぁー、それにしても気持ちいいなぁ」


竹谷がごろんと横になる。
ならって皆も寝転ぶと、目の前に青い空が広がった。
遠くで鳥が鳴いている。






「…また、いつか」






思わず口をついて出た声が途切れた。








イツカッテ イツダ?












皆もう就職してしばらく経って

危険な忍務も舞い込んでくる

今回集まれたのも奇跡のようで

次は無いかもしれないことは、誰もが分かっていた。







誰も何も言わないまま、時間が経つ。


「なぁ!忍術学園に行ってみないか?」


ガバッと竹谷が起き上がり、四人を振り返る。


「いいなぁ」

「賛成!」


勘右衛門や雷蔵も顔を輝かせて起き上がった。
丘を駆け降りる四人の背を見ながら、兵助も後に続こうとすると、不意に先頭を走る竹谷が振り返った。









「なぁ!いつかまた来ようぜ!」









ニカッと笑って、言い切った。

四人のきょとんとした顔に、じわじわと笑みが広がっていく。


「ああ、いいぜ」

「乗った!」

「また八年後?」

「な!兵助!」


見上げてくる四つの顔。その表情はどれも明るかった。


「ああ…」







兵助が綺麗に笑う




















「約束だ」



























―――――――――――――――――――
リクエスト元「兵助と五年で、とにかく五年の絆ははんばない話」
ちゆき様のみお持ち帰り可。


2011.9.3







[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -