好きになった理由(わけ)(兵+食)




※兵助→一年
 食満→二年













「…………あ?」


午前の実技の授業の後片付けを命じられ、たまたま出会った学園長の使い走りをして、ついでに便所に寄ったら紙が無かったので仕方なしに違う便所まで行ってきた。

やはりあいつの不運は伝染するという噂は本当なのだろうか。

やっとのことで食堂に辿り着いた頃には、既に昼休みも終わりかけで、食堂の中には一人しかいなかった。

一人ぽつんと席についているのは、食満より二回りほども小さな体で、井桁模様の制服を身に纏った…男の、子…?


(いやいや、どう見たってありゃ男子の制服だろ)


自分に突っ込みながらも、あまりに可愛らしいその少年に近づいていく。


「何やってんの」


言いながら無造作に少年の目元に触れる。
ビクッとして、少年が濡れた大きな目を食満に向けた。

そのあまりに長い睫毛や色の白さ、華奢な身体に、目の前の少年が本当に少年なのか自信が無くなってくる。


「…ぅっ…ひっ…だ、誰…?」


食満の指を濡らした涙は、未だ少年の目から止めどなく溢れ続けている。


「二年は組の食満留三郎。お前は?」

「…ぐすっ…くくち…へいすけ…」


へいすけ、ね

名前的にも男で間違いないようだ。


「で、へーすけは何で豆腐を前に泣いてんだ?」


兵助の前には、小皿に盛られた白い冷や奴がちょこんと置いてある。


「う…うぅ…うぁあああ…」


途端に兵助が顔をくしゃくしゃにさせ、収まりかけていた嗚咽が大きくなった。
食満は軽く溜め息をつくと、制服の袖で兵助の涙をぐいっと拭った。

まぁ、だいたいの見当はつく。


「豆腐食えねーの?」


尋ねると兵助の小さな頭が、ゆっくり、小さく縦に動いた。


「た…食べたことない…」

「お前ほんとに日本人か」


おっと、と口を手で塞ぐがもう遅い。
兵助の体がぷるぷると震え、涙腺が決壊したようだった。


「うわぁあああああん!!」


ぴーぴー泣く兵助の頭にやれやれと手を置いて、食満はスッと息を吸った。


「いいかへーすけ。たんぱく質、糖質(炭水化物)、脂質は人体の三大栄養素と言われていて、豆腐はたんぱく質と脂質に富んでるんだ。たんぱく質は皮膚、内臓、筋肉、骨、血液などの細胞や組織を作っているほか、酵素やホルモンなどの材料になるものだ。豆腐のたんぱく質は、含まれる量が多い上に栄養価が高く良質であるという特質がある。たんぱく質は体内でアミノ酸に分解、吸収され、各組織に行き渡ることとなるが、その際、食物からしか取れない必須アミノ酸をバランス良く含んでいるか否かで栄養価が決まる。植物性タンパク質は一般に必須アミノ酸が低く、動物性タンパク質は必須アミノ酸構成が良いとされている。大豆(=豆腐夕ンパク質)は動物性タンパク質に近い構成のため、良質とされている。あと、肉類は栄養価が高い反面、コレステロールの原因になりやすいのに対し、豆腐たんぱくにはそれを下げる作用があるなど、機能性食品としての機能もあるんだぜ。(豆腐と栄養・健康より引用)」


一気に解説しきった食満をポカーンと見つめる兵助の涙は、いつの間にか止まっていて


「…豆腐食べたら、つよくなれるの?」


なぜその結論に行き着いたのかはもはや問うまい。


「んー…まぁ強い肉体であるためには健康でいることは必須だからな。強い人間に不健康なやつはいねーだろ」

「……………」

「ま、好き嫌いする奴は弱っちいのが多いのは確かだがな。お前が食わねーなら俺が食ってやるよ」

「!!」


そう言いながら豆腐の皿にに手を伸ばすと、兵助がパッと皿を取り上げた。


「ぼ…僕が食べる!」

「へぇ」


食満がスッと手を引っ込めると、兵助がキッと豆腐を見つめてパクリと口に入れた。
そのままもぐもぐと口を動かすこと数秒。


「どうだ?」

「あんまり…味がしない…」

「醤油かけてみれば?ほれ」


醤油を一垂らししてやったのをもう一度食べると、兵助の顔にうっすらと笑みが浮かんだ。


「よく分かんないけど…この食感はすき」

「そりゃ良かった。もう豆腐食えるだろ」


食満がニカッと笑った瞬間、鐘が鳴り響いた。


「あーあ。結局昼飯食い損ねた」

「え…」

「じゃぁな、へーすけ。他のもんもしっかり食べるんだぞ」

「あっ、待って…!」


しかし食満は振り返ることなく食堂から出て行ってしまった。


「…食満…先輩…」




















***




四年後






「はち、豆腐よこせよ。約束だろ」

「あーもー分かってるよ!次の勝負は俺が勝つからな!!」

「やってみろ」


そんな会話をしながら今日も賑やかな五年生が食堂にやってくる。


「兵助は相変わらず豆腐が好きだなぁ」

「勘だって、好きなもんの一つや二つ、あるだろ?」


言いながら席についた時、左近が兵助に声をかけてきた。


「久々知先輩。良かったら俺の豆腐もあげますよ」

「…なんで?」

「俺そんなに豆腐好きじゃなくて…」


すると兵助は、にっこりと笑って左近を仰いだ。


「いいか左近、よーく聞け。豆腐はな…」


始まった兵助のマシンガンのような豆腐講座に、左近は目を白黒、五年生は苦笑を浮かべるしかない。


「まったく…昔は豆腐食べれなくて泣いてばっかだったのに」

「いつからだっけ?兵助が豆腐好きになったの」

「さぁ」

















そんな騒がしい五年生の席のすぐ後ろの席では



「留?なに笑ってるの?」

「…いや…別に…」























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リクエスト元「兵助+留三郎で、兵助が一年の時に泣いていたら慰める留三郎」
凪様のみお持ち帰り可。

シリーズ「小さなしあわせ、夢うつつ」に同作品掲載




2011.8.17




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