巡り、巡る(金+喜)









年齢操作
金吾、喜三太→六年














晴れ渡る空の下

金吾は屋根の上で金鎚を振り上げていた。
カンカンカンと小気味よい音が、休日の学園に響き渡る。

五月の日差しの中、額から落ちる汗を拭って、ふぅっと息をついた時

バレーボールが飛んできた。


「………」





スパッ





ボールの方を見向きもせずに、懐の忍び刀で切り裂くと、下の方で抗議の声が聞こえる。


「もー金吾ー。飛んできたもの何でも切るなって言ってるでしょー?」

「あ、悪い…つい」


何だかこの前、兵太夫にも同じことを言われた気がする。

そんなことを考えながら下を見ると、ほっと掛け声をかけて、喜三太が屋根に登ってきた。
そしてニパッと笑顔を見せる。


「屋根修理、お疲れさま」

「お前がしろよ…用具委員だろ」


呆れ顔で見やると、喜三太はとぼけたように首を傾げた。


「えー、だって金吾の部屋の屋根じゃない」

「俺の部屋ってことは、お前の部屋だろ!」


思わず突っ込むが、喜三太はくふふと笑うばかりだ。


「金吾は七松先輩みたいに壊しまくらないから助かるよ」

「お前は食満先輩を見習ってちょっとは仕事してくれ」


そのまま作業に戻る金吾の隣で、喜三太がごろんと横になる。


「食満先輩、懐かしいね」

「あぁ…七松先輩も」


思えば、一年の頃が一番賑やかだったかもしれない。

学年が上がっても騒がしい日常には変わりはなかったが

暴君や犬猿コンビがいなくなった学園は少し…寂しくもあった。


「やっぱり、迷惑だったか?」

「え?」


ぽつりと尋ねられ、喜三太が不思議そうに顔を向ける。


「七松先輩。色んな物壊して…俺らも止められなくて」


七松先輩が問題児だったのは周知の事実。

自分たちが知らなかっただけで、実は周りから煙たがられてたのではないか

そんな思いが成長するにつれて芽生え始めた。


(でも、七松先輩は)


あの大きな背中が蘇る。

深緑色の後ろだけを追いかけた一年間。
泣きたくなる日も沢山あった。










それでもあの時の自分たちは…




確かに彼の後ろで、笑っていたんだ。














喜三太の方を見ずに話す金吾に、喜三太は苦笑した。


「別にー。僕らは食満先輩について行けば間違い無いって思ってたし。たくさん駆り出されたけど、あれはあれで楽しかったよ」


みんなで補修に走り回ったあの頃。
大好きな先輩や友だちとの作業は、面倒よりもわくわくの方が大きかった。






『ほら、しんべヱ!また鼻水垂らして!』


『ははっ 作兵衛、鼻にススついてんぞ』


『平太…日陰ぼっこ楽しいか?こっちおいで、おばちゃんが差し入れくれたから』


『なに、ナメクジがいない?よーし、今日の委員会は喜三太のナメクジ捜しだ!』









優しくて大きかった食満先輩。
彼の手の感触は未だに頭に残っている。


「僕らがあの時の先輩たちと同い年だなんて、信じられないよ」

「先輩たちのこと考えたら、俺たちだってまだまだ一年坊主だよな」


今の自分たちが、あの頃の彼らに追いつけたかと言われたら…

答えは、ノーだ


「ま、先輩なんてそんなもんだろ。そう易々と抜けるもんじゃねぇよ」


金吾が言った時、下の方から高い声が響いた。


「山村先ぱーい!ボールありましたー!?」


その声を聞いて喜三太がガバッと飛び起きる。


「いっけない、バレーボールしてた途中だった!」

「用具委員会か」

「そ。今日は委員長がいないから、委員会よろしくねって」

「だからバレーとはな。平太が泣くぞ」

「バレーしようって言ったのはしんべヱだようー」


そう言いながら、喜三太が下に降りようとする。


「あ、そういえばボールって俺が…」

「大丈夫。予備がある!」


満面の笑みで懐からボールを取り出す喜三太に、金吾がおののいた。


「どこに持ってたんだ…」

「いーじゃない細かいことは!それより、金吾も一緒にしようよ!」


ぐいっと腕を引っ張られる。


「お、おい、まだ補修が」

「そんなの後!今日は雨なんか降らないよ。せっかくいい天気なんだしさぁ」

(まったく…ほんとに平太泣かせな奴だな)


真面目な用具委員長のことを思いながら、やれやれと立ち上がる。


「しょうがないな。行くか」

「そうこなくちゃ!お待たせー!今行くねー!」


下級生に叫びながら、元気良く飛び降りる喜三太の後に続くと、用具委員会から歓声が上がった。


「皆本先輩もですかー?」

「先輩!こっちのチームに入って下さい!」

「分かった分かった」


暖かな陽気の下、今日も忍術学園からは、賑やかな笑い声が絶えなかった。








































─五年後









「なぁ…皆本先輩って、すごかったよな」


「懐かしいね。僕らが一年の頃の六年生か」


「山村先輩、どうしてるかなぁ」


「今の俺たちって、あの頃の先輩たちと同い年なんだぜ。信じられるか?」


「無理無理。今、目の前に五年前の先輩たちが現れても、絶対勝てないよ」


「この学園にあの人たち以上の先輩っていたのかな」


「あの先輩たちが押されてる様子が、想像出来ないんだけど」


「あははっ 確かに」
























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リクエスト元「体育or金吾+喜三太でほのぼの」
想愛様のみお持ち帰り可。


2012.2.21





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