また会う日まで(成長団蔵)





は組卒業二年後
















「土井先生!」


懐かしい声に振り返ると、思ったとおり団蔵の姿があった。
また一回り大きくなった姿を見て笑みがこぼれる。


「久しぶりだな。今日はどうした?仕事は?」


一緒に来ていた清八から山田先生の奥方からの大荷物を苦笑いで受け取りながら尋ねた。

確か団蔵は得意の馬術を活かして騎馬隊が有名な城に就職したはずだ。


「へへ、ちょっと休暇を頂きました。先日、清八が正式に親方になった祝いがあったんで」


その答えにほぉ、と清八を見やると、清八は照れくさそうに頭をかいた。


「それはおめでとうございます、清八さん。いつかは親方を継ぎたくないと村を飛び出したあなたが…」


我が家の屋根に馬借組合の看板がでかでかと掛かっていた光景など忘れられるはずもない。

その節はどうも…と清八が顔を赤くしてうなだれる。


「あの時は私も若かったですから…。親方に拾っていただいて十余年、そろそろご恩を返す時が来たかと」


若旦那の就職も無事に決まりましたしね

そう言って清八が昔と変わらない笑顔を団蔵に向けると、団蔵はニヤニヤして清八を肘でつついた。


「俺はもう若旦那じゃありません。敬語を使う必要は無いと申し上げましたよ、親方?」


いやに馬鹿丁寧な物言いは完全に清八をからかっている。
うっと言葉に詰まると、清八はもそもそと言い直した。


「だ…団蔵の就職も決まったしな…」


あはははと笑う団蔵に、あまり年上をからかうんじゃないと頭を叩くと半助は思い出したように口を開いた。


「そうだ、今日は乱太郎も来てるぞ」

「乱太郎が?」

「ああ、今は医学を本格的に勉強してるみたいでな。新野先生が指導してるから最近ちょくちょく来てる」


昔を思い出したのか、団蔵が僅かに眉を潜める。心配気な雰囲気を含みながら、真剣な目で問いかけてきた。


「忍は」

「辞めるらしい」

「………そうですか」


ふうっと息を吐き出して力を抜くと、団蔵はにっこりと晴れやかな笑顔を見せた。


「良かった」


乱太郎は…ほとんど意地で卒業したようなものだった。
優しすぎて、人を殺した日はずっと部屋から出てこないことも度々あった。

誰よりも乱太郎のことを心配し、学園を辞めろと怒鳴ったきり丸と殴り合いの大喧嘩をしたことは、まだ鮮明に覚えている。


「乱太郎も乱太郎で頑固だからなぁ…」


団蔵が呆れたように溜め息をつきながら苦笑すると、半助も笑った。

一度は決まった就職先の内定を取り消されるという不運に見舞われながらも、それでも忍者として地方の城に就職した。

実際に仕えてみて何か思うことがあったのか

学園の医務室にやって来た乱太郎は少し寂しそうに、医学を教えてくれと新野先生に頼んだという。


「どうだ、会ってくるか?」


忍者よりもよっぽど向いていたのだろう。乱太郎の成長は目覚ましく、二年前にはほとんど見せなかった笑顔もまた見せるようになってきた。

団蔵はぼんやりと医務室の方を眺めていたが、やがてポツリと口を開いた。


「…いえ、またの機会にします。邪魔しちゃ悪いですしね」


そう言ってひらりと馬に跨った団蔵が振り返ると、そこには変わらぬ晴れやかな笑顔があって。


「また来ます!山田先生にもよろしくお伝え下さい!…親方、行きましょう」


随分しっかりとした口のきき方をするようになった。
教え子の成長を素直に喜んでいると、団蔵が「あ、」と再び半助を見やった。


「土井先生、早く嫁さんもらっ…」

「やかましい!!」


もはや反射のようにチョークを投げると、笑いながら楽々と避けた団蔵がそのまま馬を走らせる。

清八も苦笑いで一礼すると団蔵の後を追っていった。


「…ったく、一言多いところは変わらないんだから…」


やれやれと二人の背中を見送っていると、背後に人の気配がした。


「土井先生、誰か来てたんですか?」

「ああ…団蔵がな」

「えっ…もう帰っちゃったんですか?なんだ、顔くらい見せてくれればいいのに」

「お前の邪魔はしたくないそうだ」


邪魔だなんて、と乱太郎は残念そうな表情を隠す素振りも見せない。


「あ…そうだ、新野先生がお饅頭くれたんです。土井先生も医務室で食べましょうよ」

「お、私もいいのか?じゃぁお邪魔させてもらうかな」

「お茶入れますね」


乱太郎はにっこり笑うと医務室へと向かった。

団蔵ほどがっしりした背中ではないけれど、乱太郎も大きく成長した。
もうあの頃のように教師の手を煩わせることもない。


「…年とったかな…」











それが少し寂しいだなんて





















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リクエスト元「成長若旦那」

シリーズの「砕ケ散ル」最終話となったお話です。「砕ケ散ル」はここから派生したものでした。


2011.1.15





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