冷たい手(伊食)
カラリと部屋の戸を開けると、外は一面の銀世界だった。
どおりで寒いわけだ。
はー…と白い息を吐いて、伊作はポツリと呟いた。
「この寒いのに何やってんだか…」
部屋に戻り首巻きを二枚取ると、一つは自分の首に巻いて、白い地面に降り立った。
用具倉庫の冷たい扉をソッと開けると、やはりそこには寒そうに背を丸めている友人の姿。
「…とーめ」
「うぉっ!?」
気配を消して背後からソッと声をかけると、食満が面白いくらいビクリと振り返る。
「もー、やっぱりそんなカッコで…風邪ひくよ?」
「あ、あぁ…わりぃ」
食満の首に首巻きを巻いてやると、食満が決まり悪そうに視線を泳がせた。
「何も一人でやらなくてもいいじゃない。何のための委員会なのさ」
「…あいつらにこんな寒い所で作業させるなんて…」
わなわなと震える食満に、呆れたように伊作が溜め息をついた。
「まぁ、君の気持ちも分からないでもないけどね…」
確かにここで下級生に作業させるのは伊作でも気が引ける。
それほどまでにこの倉庫は寒い。
そんなことを考えながら、何となく食満の手に触れてみて驚いた。
「冷たっ!なにこれ…体温あるの?」
「お、おい…」
両の手で食満の手を覆い、そこに息を吐きかける。
「まったく、我慢大会じゃないんだからさぁ」
「…………!」
やれやれとぼやきながら、伊作が食満の手を自分の頬に触れさせた。
その柔らかい感触と温かい体温におののいて手を引こうとするが、伊作がジロリと睨んで許さない。
頬が冷えてきたのか、そのまま首筋へと移動させ、肩に触れさせようと服の中に手が入りそうになった瞬間─…
食満が伊作の手を振り払った。
「…留?」
ポカンとした伊作に背を向けて、食満がフラフラと出口に向かう。
「伊作…俺、今夜文次郎たちの部屋で寝るわ…」
「え、なんで?ちょっ…待ってよ留!」
(…この天然タラシが…!)
2011.1.14
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