僕を見て(火薬委員会)











突然行われることになった混合ダブルスオリエンテーリング

学園長の思いつきなどいつものことすぎて、もはや抗議をする気も起きやしない。

しかしこれも訓練の一つかもしれない。
なにしろ授業では滅多に無い、上級生と組んで行動することが出来るのだ。

ならばやはり自分の最も尊敬する先輩と組みたいと思うのは、下級生として当然の望みだろう。

三郎次は長い黒髪の後ろ姿を思い浮かべながら、煙硝蔵へと向かっていた。

自室にはいなかった。
ならば恐らくあそこにいるはずだ。


「あ…」


いた。

やはり煙硝蔵の前でやたら派手な髪型の四年生と談笑している。


(マズい、タカ丸さんに先を越される―…!)


「「久々知先輩!」」


三郎次が声を張り上げた瞬間、誰かの高い声が重なった。
兵助が笑って手を振る。


「よぉ三郎次、伊助」


驚いて声のした方に目を向けると、左手から現れた一つ下の後輩の姿を捉え、三郎次の胸がザワつき内心で舌打ちした。


(やっぱり考えることは同じか)


煙硝蔵に勢揃いした火薬委員たちを兵助がゆっくり見回す。


「その様子だと…みんなまだペアが決まってないみたいだな」

「…久々知先輩もですか?」

「ああ」


とりあえずは安心する。
タカ丸にはペアを申し込まれていないようだ。


「じゃぁせっかく偶数なんだし、火薬委員会でペア組んだら?」


タカ丸が朗らかに笑って言う。
その言葉に三郎次の心臓がドキンと跳ねた。


久々知先輩と組みたい。組みたい。

けど、やっぱりこいつがいたら…

左に大人しく立っている伊助の姿を視界の端に捉えながら不安はどんどん膨らんでいく。


「そうだなー…まぁ、順当にいけば…」


やめて下さい


貴方の口からその言葉を聴きたくない










「伊助と俺、三郎次とタカ丸さんだよな」










頭の中で何かが崩れる音がした。
隣で伊助の肩がピクリと動き、無言ながらも喜びが滲み出ているのを敏感に感じとる。

スッと頭が冷えていく


「伊助、三郎次、それでいいか?」

「はい!」

「…はい」



























ナンデオレハワラッテルンダロウ































* * *








「三郎次先輩、三年生の火薬使用量なんですけど…」





パンッ





言葉より先に手が出た。
伊助が差し出してきた出庫表が地面にはたき落とされる。


「さ…三郎次先輩…?」

「いいよなお前は」


ドロドロした感情が溢れ出して止まらない。


「一年だからってちやほやされて。アホのは組ならなおさらだ」


目を丸くしていた伊助の表情がだんだんと歪んでくる。
三郎次は地面を睨みつけながら拳を強く握った。


「いつもいつも俺の邪魔しやがって…!お前がいるから俺は…」


言葉を切って深く息を吸う。





「お前なんか、いなきゃ良かったんだ」





ポロッと伊助の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
後輩のかみ殺しきれない嗚咽が三郎次の耳朶を打つ。


「はーい、そこまで」


不意に聞こえてきた気の抜けるような声に顔を上げると、タカ丸と兵助がいた。


「あ…」


見られた。久々知先輩に。
三郎次が僅かに息を呑む。


「タカ丸さん。伊助を頼みます」


兵助が三郎次の肩に手を置いて穏やかに言う。
タカ丸が頷いて伊助を促しながら席を外した。


「さて」


兵助がうつむく三郎次の顔を覗き込む。


「ごめんな…三郎次」

「…なんで、久々知先輩が謝るんですか」


兵助が眉を下げて頭を掻いた。


「いや…俺のせいだよ。今回のことは、全部俺が悪かった」

「………………」

「三郎次はしっかりしてるから…ついお前の気持ちも考えずにタカ丸さんや伊助ばっかり構ってた」


今までのことを思い出しているのだろうか。
兵助が人差し指でこめかみを抑えながら眉間にシワを寄せる。


「…あー……」

「く、久々知先輩?」


珍しい
兵助が溜め息をつき、その場にしゃがみ込んで腕に顔をうずめた。


「…先輩失格だな。無自覚に後輩を傷つけてたなんて」

「いやっ!傷ついてません!俺は大丈夫ですから…えっと…」


いつも凛としている兵助の萎えきった姿を見て、三郎次が慌てふためく。
こんな兵助を見るのは初めてだった。


「…………ぷっ」


一年ろ組もびっくりなほど顔に縦線を引いてドヨーンと小さくなっている兵助に、思わず苦笑が漏れた。

いつも完璧で、かっこよくて、尊敬できる先輩に…こんな一面があったなんて

多分、この久々知先輩は伊助もタカ丸さんも見たことないんだろうな

そう思うと、自然と笑みが浮かんだ。
さっきまでの暗い感情がサッと晴れていく。


「…いいんですよ、久々知先輩。俺は伊助の先輩ですから」


三郎次の言葉に、兵助が顔を上げてきょとんとする。


「俺が大人気なかった。…伊助に謝ってきます」


そう言って走り出すと、後ろから兵助の声が聞こえた。


「三郎次!俺、お前のこともちゃんと見てるからな!」



三郎次がくるりと振り返る。



その顔には満面の笑みが広がっていた。














―――――――――――
リクエスト元「火薬委員会でちょっとシリアス」

blue様のみお持ち帰り可






[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -