Joker





悟らせはしない。

バレるわけには....
今、殺されるわけにはいなかいのだから。
















レオリオ達より先を走ってもう何時間経ったかも分からなくなった頃、果てしなく上に伸びる階段に差し掛かった。
私はゴンとキルアと共に走り、今は何故ハンター試験を受けたのか、という話題で盛り上がっている。

「素敵ね、父の背中を追い掛けるって」

「へへ、ありがとう。素敵かどうかは分からないけど、でも、ジンが魅了された世界ってどんなだろうって。見てみたいんだ、ジンと同じ世界を」

そう語るゴンの目は真っ直ぐで。
隣で目を細めてゴンを見るキルアに私は小さく微笑むと、

「眩しいわね」

そう小さく呟いた。
キルアはハッと私を見た後、その眼光を僅かに鋭くさせ、目を逸らす。

「キルアは?」

ゴンに問われ、しばしの間の後。
はっと鼻で笑い、

「目的とかねーよ。ただの暇つぶし」

明るい口調であっけらかんとそう言った。

「超難関って聞いたから興味沸いてさ。でもこれ見る限り余裕そうだな」

「まだ一次試験よ?」

「一次試験でこれなら知れてるだろ」

「そんなこと言ってる人ほど、何てことない所でドジって落ちちゃうのよ?」

「お前みたいに鈍臭かねーよ!」

「…………」

嫌味を言うキルアに私は目をパチクリさせ、そしてふふっと笑った。

「なんだよ」

ギッと睨むキルアに私は嬉しそうに笑い、

「ううん、年相応な表情も見せるんだなって思っただけ」

「―なっ!?」

キルアは顔を真っ赤にし、だぁ、うぜぇ!と叫んで先を走って行ってしまった。

「あらあら、とても速いわ」

「キルアって照れ屋なんだねぇ」

「ふふ、そうね」


―…そんな子供らしいところを見れて安心した。


「フレイヤは?」

「私?私は人探し」

「人探し?」

「そう、とても大切な人達を探しているの」

「へぇ。その人達もハンターなの?」

「いいえ、彼等はハンターじゃない。でも、とても強いのよ。
だから彼等の隣に並ぶために、ハンター試験を合格してから会いに行くの」

「そうなんだ!ね、どんな人達?」

ゴンの問いに私はしばし考え、ただ一言。



「私に“世界”を見せてくれた人達」



そう言った。



「おい、おめーら遅いぞ!もうすぐ出口だ!」

前の方からキルアの呼ぶ声。
私達は顔を見合わせ笑うと、スピードを上げた。


果てない階段の先にある光を目指して。









* *








「ヌメーレ湿原。通称詐欺師の塒(ねぐら)。
二次試験会場へ行くにはここを通らねばなりません」

光を越えた先。
そこは薄暗くジメっと嫌な空気が肌に纏わりつく場所だった。

後ろでシャッターの閉まる音と共に受験生の「ま、待ってくれ…」という苦し気な声が聞こえる。
振り向いて見れば、シャッターが地面に着いたと同時にその声は消えた。

その様子に、レオリオ達は…と周りを見渡せば、斜め後ろに二人の姿。
私はホッと顔を綻ばせると、サトツさんに視線を戻した。

「この湿原にはここにしか居ない珍奇な動物たちが生息しています。
その多くが狡猾で、ここを訪れる人間をも欺いて食糧にしようとする貪欲な生き物ばかりです」

相変わらずどこから声が出ているんだろう、と不思議に思う。
サトツさんの口元をじっと見ていると、そのトーンが僅かに下がった。

「充分注意して下さい。騙されると――死にますよ」

その言葉に、受験生達が息を飲む。

「この湿原で生きるもの達はあらゆる方法で欺いた獲物を捕食します。
標的を騙し、それを喰い物にする生物達の生態系こそが詐欺師の塒と呼ばれる所以(ゆえん)です」

「騙されると分かっていて騙される馬鹿はいねーぜ」

ハッと鼻で笑いながら言うレオリオ。
私はそんなレオリオを一瞥し、苦笑した。


(それが騙されるのよ。特にレオリオみたいな素直な人は、ね)


「騙されるな!」

突然聞こえて来た声に目を向ければ、シャッターの向こう側からボロボロになった男がよろめきながら姿を現した。

「そいつは偽者だ!本物の試験官はオレだからな!」

その男の言葉にざわつく受験生達。
隣を見ると、ゴンは不思議そうな顔、キルアはつまらなさそうな顔をしている。
次にレオリオとクラピカ。
クラピカは冷静に分析をしているみたいだけど、レオリオは明らかな動揺を見せていた。

その姿に、やっぱり、と密かに笑う。

「これを見ろ!ヌメーレ湿原に生息する人面猿だ!」

男が掲げたのは一匹の猿。その顔は確かに人間に近い。
受験生の中には“確かにアイツに似ている”とか言っている人も。

(目、悪いのかしら。サトツさんの方が数億倍紳士的で格好良いわ)

未だにざわつき、サトツさんを疑い始めている受験生達にムッとする。
同時に、あの猿と男にも腹が立ってきた。

(なんか、魔族を侮辱された気分…)

サトツさんは間違いなく魔族だと思っている私。

あんな猿と男が魔族よりも上だって?
本当にやめてほしい。

「人面猿は新鮮な人肉を好むが、手足が細長いため非常に力が弱い。
だからこそ自らを人に扮装させ、巧みな言葉で人間を湿原へと誘い込み、他の生き物と協力して獲物を生け捕りにするんだ!」

よくもまぁ、それらしい事を次から次へと言えたものだ。
半ば呆れながら男を見ていると、ザワッと嫌な殺気が肌を掠めた。

「そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!」

その一言を発した瞬間、男の顔面に数枚のトランプが刺さる。
男は声もなくその場に崩れ落ちた。


「くっく……。なるほどなるほど◆」


少し離れた所から、ねっとりとした特徴のある声が響く。
私は声の方へは顔を向けず男を、正確にはその場に倒れている猿を見た。

猿はゆっくりと起き上がると、サッとその場から逃げるように駆け出す。
しかし、再び放たれたトランプにより地に伏した。

死んだフリをしていた猿に受験生達は驚いてるようだったが、次に受験生達を驚かせたのはサトツさん。

「これで決定★そっちが本物だ◇」

ヒソカの視線がまっすぐとサトツさんを捉える。
不意打ちとも言える攻撃をいとも簡単に捕らえた彼は、トランプを無言で指で弾いた。
視線が一斉にサトツさんに集まる。
そんな中、私はチラッと自分の足元を盗み見た。

そこには、一枚のトランプ。


(……ジョーカー。)


「試験官は審査委員会から依頼されたハンターが無償でつく任務◆
ボクらが目指しているハンターの端くれともあろう者が、あの程度の攻撃を防げないわけがない☆」

「……褒め言葉と受け取っておきましょう」


あの一瞬。
投げられたトランプが向かった先は、男とサトツさん、そして私だった。

私に触れる手前、私を守るように吹いた風により、ふわりと舞い落ちたトランプ。
私は気付いてないフリをして男を見続けた。

(使ったのは念じゃない。あのピエロがどういう意図で私にまで投げたのかは分からないけど……今は、何にも気付いてないフリをしておこう)

きっともう悪足掻きでしかないと思うけど。
あのエレベーターに乗った時点で私が念を使える事はバレていただろうし、何より私の姿を見たのなら思うはず。


―…4年前のあの子ではないか、と。


4年も経つし身長も容姿も成長はした。
今はもうあの日に付けていた眼鏡も掛けてはいない。
それでも、やはり同一人物ではないかと疑うだろう。

―…まぁ、ピエロの記憶に私が残ってたら、の話だけど。

私はふっと一息吐くと、視線をサトツさんに戻した。

「しかし、次からはどのような理由があろうとも私への攻撃は、試験官への謀反行為とみなし即失格とします。よろしいですね」

「はいはい◆」

楽しそうに笑みを浮かべたピエロに、私はスッと肩の力を抜く。

(私が念を使えるから挑発しただけかもしれないしね)

あの顔を見ていたらそう思えてきた。


そんな事を考えていると、近くでバサバサと複数の羽音が。
見ると、大きな鳥が先程の男と猿を食い荒らしている。

「あれが敗者の姿です」

受験生達が顔を青くする。口を抑えて目を逸らしている者も。

「私を偽者と称し、混乱させた受験生を連れ去ろうとしたのでしょう。
こうした命懸けの騙し合いがここでは昼、夜と絶えず行われているわけです。
何人かは騙されかけ、私を疑った者も居るでしょう」

レオリオがハハ…と目を逸らしたのを私は見逃さない。
隣のクラピカが呆れ顔で溜め息を吐いていた。



「では参りましょうか。二次試験会場へ」





霧の出始めた湿原。
ぬかるんだ地面に、私達は足を踏み入れた―。






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