ピエロとの再会

side:ルーエル
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思えば、私は外の世界に出てこれだけ多くの人と時間を共にするのは初めてだった。

実際に自分の目で見る色んな人達。




その中に、新しい出会いを期待しながら――。










2










エレベーターから一歩足を踏み出せば、サッと鋭い視線が一斉に向けられる。
しかし、次第にその視線は困惑と好奇に変わった。

「すげー美人が来たぞ」
「あんな奴まで受けるのか?」
「いや何かの間違いだろ」
「ドレスなんて着てるし間違いなくどっかの令嬢じゃねーか」
「くっくっ、試験中どっかで犯すか」
「金は持ってそうだな」

様々な囁き声が聞こえるのを無視して、私は辺りを見回した。


――すごい数の人だ。こんなに人が集まる場所、初めて…

感心していると、下の方から声を掛けられる。

「こちらハンター試験会場になります。はい、番号札です」

私はその人の姿を捉えた瞬間、目をぱちくりさせた。

「わぁ、お豆さん。あなた、魔族?」

この姿は間違いない。
人間な訳がないんだから、魔族だ。

私は確信をもってそのお豆さんに尋ねた。
なのに、お豆さんは困った顔で“違います”って。

その返答に私は肩を落とした。


―外の世界に出たら、魔族に会えるんじゃないか。

種族としての仲間に会ってみたいってのは、ずっと私が抱いてた気持ちだ。
ビスケの元を離れ、一人で旅をすることを決めた時、旅団を探すと同時に魔族にも会えたらな、なんて実は考えていた。

(減ったって言ってたし、やっぱり簡単には見つからないのね…)

貰った番号札は369番。
3の倍数だわ。なんて発見しても、今はとても喜ぶ気分にはなれなかった。




「やあ、君、試験初めてだろ?」

不意に横から声を掛けられ私は顔を上げた。
そこにいたのは小柄で太った不細工な男。
テンションの下がっていた私は、特に愛想を良くするわけでもなく答える。

「分かるんですか?」

「まあね、何しろ十歳のころからもう三十五回も受けちゃってるベテランだから!」

「わぁ、自分の才能の無さを自覚出来てないなんて可哀想ですね…」

素直な感想を述べたのに、男は機嫌を悪くしたいみたいで私は首を傾げた。

「(綺麗な顔してひでぇ事を言うもんだぜ…)
ま、まぁ、半分趣味みたいなものだからな。
オレはトンパって言うんだ。
分からない事があったら何でも聞いてくれ」

「ありがとうございます」

頼ることはないだろうけど、社交辞令としてお礼は言っておく。

「それより緊張してるだろ?良かったら、これ。
ちょっとは緊張も解れるだろうよ」

人のいい笑みを浮かべ差し出されたのは缶ジュース。
私はトンパさんの顔を見て、それからニッコリと笑った。

「ありがとうございます。
―で、何が入ってるんですか、それ」

「べ、別に何にも入っちゃいねぇよ!た、ただのジュースさ」

明らかに動揺を見せたトンパさんに、私はふふっと可笑しげに笑う。

「何を慌ててるんです?何のジュースか聞いただけなのに」

「ぇ、あ…?」

「アナタ、嘘吐きの顔してる。でも、とても下手ですね」

「――なっ!?」

僅かに怒りを滲ませたトンパさんに私は微笑み、

「私、とても上手な嘘吐きさんの傍にずっといましたから」


――まぁ、人を貶める嘘を付く人じゃありませんでしたけどね。


そう言い残し、それでは、とその場を離れた。
壁際に移動して腰を下ろす。

(やっぱりこの格好はハンター試験には不向なんじゃないかしら…)

出発の日のビスケを思い出し、私はふっと息を吐いた。





――・・・



「試験にはこの服を着ていきなさい。」

そう言って目の前に出されたのは、紺と蒼を基調とした民族衣装のようなドレス。
私は思いっきり顔を顰め抗議したが、

「ドレスじゃ動きにくいー?私はそんな柔に育てた覚えはないわさ!
ドレスで戦えるくらいじゃないとハンターとして生きていけないわよっ!!」

なんてすごい勢いで迫ってくるから思わず了承してしまったのだ。



・・・――




(まぁ、持ち物なんて携帯とカードぐらいだしドレスでも問題は無いけど…さ)

――周りの目が、ね。

ヒールではなくブーツだったのがせめてもの救いだ。
とりあえず私は携帯を取り出し、



To:ビスケ
Sub:会場に着きました。
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この服のお陰で好奇の目に晒されて
いるわ。
まぁ、ザッとみた感じ弱い奴ばかり
だし殺される事は無さそうよ。

試験、合格してくるわ。

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と嫌味を込めた到着メールを送っておいた。






* *






目を閉じて、初めて見た世界を思い浮かべていた。

初めて見たみんなの顔。
大好きな人達。

みんなに近付く為の小さな一歩。

強くなった姿を見て欲しい。
胸を張ってみんなの隣にいれるように。



―絶対にハンターになるの。






そっと、目を開けた。

「ぎぃやぁぁああああ」

突如響いたけたたましい叫び声。
声の方に目を向けた瞬間、私は全身から血の気が引いた。


「なんで…。」


ポツリと溢れた言葉は騒がしさに掻き消される。


「あーら、不思議☆腕が消えちゃった◆」


「なんで、…っ。」



―忘れるはずもない。



「気をつけなきゃ。人にぶつかったらきちんと謝ろうね★」



「なんでアイツがいるの…っ」




私とみんなを離ればなれにした元凶。

私を殺そうとしたピエロが、そこにいた―。






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