魔族というもの




「魔獣注意…?」

お婆さんに教えてもらった道を進むこと2時間。
木々が鬱蒼として薄暗いこの道の脇には至るところに“魔獣注意”の看板が立て掛けてあった。



魔獣と言えば―。

私は魔族だけど、魔獣と何か関係があるのかしら?
同じ“魔”という字がつくのだから関係ありそうだけど…

















そんな事を考えていると一件の家が見えた。
中から、僅かにだが何かの気配を感じる。

「人…じゃないわね。魔獣かしら」

私は警戒しながらその家に近付いた。
ゆっくりと扉を開ける。

そこには―


「お待ちしておりました」

「え…?」


4体の二本足で立つキツネの様な姿をした魔獣。
私の姿を見るなり、全員恭しく跪きながら頭を垂れる。
その光景に戸惑っていると、体格の大きな1体が僅かに顔を上げ、私を見た。

「魔族の方でいらっしゃいますね」

その言葉に、私は目を見開く。

「なんで…」

―分かったんですか。

という疑問は、(恐らくオスであろう)彼により消化された。

「ワタシ達魔獣は、魔族の配下に当たるもの。
魔族の方の気配、その絶対的な存在感は本能により分かるのです」

「そうなんですか。
やっぱり魔族と魔獣は関わりがあったんですね」

「はい、古からの繋がりで御座います。
今は魔族が減った為、私達魔獣は魔族の元から自立し、こうしてひっそりと生きているのですが…」

そこで魔獣はスッと目を細め、嬉しそうに笑んだ。

「こうして直接に魔族の方にお会い出来るなんて夢の様に御座います」


その言葉と表情に、私の祖先はすごい人達だったんだなぁ、なんて思った。







* *







「へい、いらっしぇーい!」

「…ここ、ですか?」
「ここなんです」

あの後、私は魔獣、キリコさんに素敵な空の旅に連れていってもらい、試験会場へと向かった。

そして現在。
私達はお客さんで賑わう小さな定食屋の中にいる。

(こんな所で試験をするのかしら?)

なんて辺りをキョロキョロ見回していると、キリコさんが店主に声を掛けた。

「注文は?」
「ステーキ定食。」

その言葉に店主の表情が僅かに変わる。

「焼き方は?」
「弱火でじっくり。」

ニヤリと笑ったキリコさんに、店主は素っ気なく奥に進みな、と言った。
可愛らしい女の店員さんが奥の席へと案内してくれる。

「今のやり取りは?」

「合言葉です。この地下がハンター試験の会場になっています」

「へぇ。想像の斜め上を行ってるわねぇ」

「それでは、私はここで…」

スッとキリコさんが一歩引く。
案内された部屋の鉄板にはジュージューと音を立て焼かれるステーキ。

私はキリコさんに向き合い感謝を述べた。

「ここまで、ありがとうございました。色んなお話が聞けて楽しかったです」

「いえ、私こそここまでご一緒させて頂けて光栄でした。ありがとうございます。」

「ご家族の皆さんにも宜しくお伝え下さい」

「はい。ご武運を、お祈り致します」

手を胸に添え敬礼するキリコさんに手を振り、部屋の扉は静かに閉まった。





「さて…ステーキ、美味しそう」

椅子に座りフォークとナイフを手にすると、ガクンと部屋が揺れ浮遊感に襲われた。
体感から、エレベーターになってたんだ、と理解する。


―浮遊感にも慣れたし、ステーキ、食べようかな。




 *




長い時間を経て、エレベーターは到着の合図を知らせた。


私はグッと気合いを入れてナプキンで口元を拭う。

椅子から立ち上がり、一つ深呼吸。
開く扉を見据え、ゆっくりと足を運んだ。

後ろには、しっかりと完食された定食。









美味しく、頂きました。








1 end

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