私が選ぶもの




(――!たくさんの人の気配がする。)

一本杉を目指して、私はひたすら山道を登っていた。
山を抜けたと思ったらそこは古びた建物が並んでいる場所で。
円を広げてみると、建物の影にたくさんの人がいるのが分かった。

「すみませーん、少しお尋ねしたいのてすがー。出てきて頂けませんかぁ?」

大きな声で呼び掛けると、わらわらと変なお面を付けた子供?ぐらいの身長の人達が出てくる。
その中心には杖をついたお婆さん。

「いきなりで申し訳ありません。道を尋ねたいのですが…」

物知りそうなお婆さんに近寄り少し屈んで尋ねれば、周りの人達がドキドキ・ドキドキ、と小さな声で呟き始めた。

「ぇ、ドキドキ?」

不気味ですらある光景に私が困惑していると―。



「ドキドキ2択クイィィイーズ!!!」



急にお婆さんが目をカッと見開き、物凄い音量で叫んだのだった。

















そのお婆さんの凄まじい顔を間近で見てしまった私は、その迫力に思わず、

「わぁ、すごく目が開くんですね。もしかして魔族ですか?」

なんて聞いちゃった。
お婆さんは目を見開いたまま“人間じゃ”と答えてくれたけど、あれは人間技じゃないなって思った。

「あそこの一本杉へ向かってるんだろう?」

「ぇ、どうして分かったんですか?」

疑問というよりは確信に近い言い方に私は目をぱちくりさせる。

「見れば分かる。ハンター試験を受ける顔をしてるからね」

「へぇ、やっぱり試験管さんは見る目が違いますねぇ」

「―!気付いていたのかい」

「念使えるみたいですし、ただのお婆さんではないなぁって思ってたんですけど、さっきの言葉で、あぁ、なるほどって」

「ふむ、ただの小娘じゃあないようだね。
この町を抜けなければ一本杉へは行けないよ。
他のルートは迷路のように道が複雑で、凶暴な魔獣があちこちに屯(たむろ)しているからね――そこで、」

ピッと鋭く立てられた人差し指。

「これからクイズを一問だけ出す。
考えられる時間を与えるのは五秒間のみ。
――もしも不正解だった場合、今年のハンター資格取得は諦めて帰んな」

その言葉に私は眉を下げた。

「クイズですか?私、不得意なんですけど…」

不安を露にした私に、お婆さんは鼻を鳴らして笑い、簡単な問題だよ、と言う。

「クイズには一か二で答えること!
それ以外のあいまいな返事は不正解とみなす」

「分かりました」

「それでは問題を出す」

目の色が変わったお婆さんに、私はきゅっと手を握り締め、息を呑んだ。



「お前の母親、そして恋人が悪党により捕えられた。
しかし助けられるのは一人だけ。

1、母親。2、恋人。

――どちらを助ける?」




ポカン―。

私はその質問に拍子抜けして何ともマヌケ顔をしてしまった。
お婆さんのカウントが始まる中、私は―

「2の恋人です」

迷わずそう答えた。
僅かにお婆さんの顔が顰められる。

「その答えを選んだ理由は?」


―理由なんて、そんなの…

「私、母親を知りませんもの。」

これだけだった。



「物心付いたとき、私は目が見えなくて。
両親は生まれてすぐに亡くなったらしく、遠くの国のお城で大人達に育てられたんですけど…。
15歳の時に国の人達、みんな死んじゃったから。
目も見えなかったし、周りの人達は私のお世話係だったから愛情なんて感じなかった」

そこで言葉を切って、私は左手の中指に嵌められた蒼い指輪に触れる。
その指輪を見ると、自然と頬が緩んだ。


「でも、国が滅んだ時に私を連れ出してくれた人達は違った。

―私に世界を見せてくれたのよ。

たくさんの事を教えてくれて、たくさん怒られたし喧嘩もした。
でも、それ以上にたくさん笑いあったわ。
あの人達に出会って、私は初めて愛されてるって思ったの」


離れてから4年間、1日だって忘れた事はなかった。



「その中の1人が、私の恋人」



指輪を眺める度に、恋い焦がれる。



「私の、大好きな人」



そっと指輪に頬を寄せれば、僅かな温もりを感じた。

お婆さんに微笑み掛ける。



「だから、私は2の恋人を選ぶわ」



















「あたしゃ、選択肢を間違えたかね…」

一本杉に続く正しい道を歩く彼女の背中を眺めながら、小さく呟いた。


人の境遇なんて様々だ。
それでも、この質問の意図は別の所にあった。

大切な二人の内、一人しか助けられないとしたら―。

別の選択肢を与えていたならば、彼女はどう答えたのだろうか。

“沈黙”

それが正解であるにも関わらず、あのお嬢さんを正解の道に通してしまった。
試験管失格だ、と言われるだろうか…。

でも、判断を誤ったとは思っていない。




彼女の、あの幸せそうで純粋な目を見てしまったら―。





「久しぶりに、胸が暖かくなったねぇ」


―彼女みたいな人に会いたくて、この仕事をしているのかもしれない。





澄み渡る青い空を見上げ、満足気に笑った。





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