詠使いの誕生




「ルーエル=シャンテは間違いなく私達の仲間……魔族だ。

少し、昔話をしようか。」









使









スコーンを食べながら、レミィは俺達に昔話を持ち出した。
エレフは大人しくスコーンを食べている。


「あたしらは基本この集落で過ごす。
でも中には他の大陸に行って一般人に混じって過ごしてる奴もいるんだ。

リーフィアにもいたんだよ、あたしらの仲間が。


15年前の話だ―――。」





* *





「言霊を持つ赤子が生まれた!!」

「見事なまでにキレイな空色の瞳だ!!!」


村に一人の女の子が生まれた。
澄んだ空色の瞳を持った赤子。

あたしら魔族は生まれながらに魔法の系統が決まっている。
見分ける方法は、瞳の色。


赤は【火】

青は【水】

緑は【木】

茶色は【土】

若草色は【風】


系統はこの5つのみ。

まぁ、大まかに分けて、なんだけどね。



魔法ってのは必ずしも万能じゃあない。
自然や必要な元素がない所じゃ使えない。

逆に言えば自然に存在しているものなら何でも利用できる。
系統によっては得意不得意があるが、本人の努力次第で幾らでも幅は広げられるんだ。

そして既存以外の色を持つ者には、系統にはない特殊な力が備わっている。


古くからこの村にある歴史書に載ってるんだけど、空色を持つ者は「言霊」を操る力を持っているとされていてね。

何でも、天に一番近い色って事から神様の力の一部を分け与えられた存在として昔から崇められているんだよ。


勿論、ルーエル=シャンテも村中の人達から祝福された。

しかしそんな時に、だ。



「お願いだ、リーフィアの独裁政治に民達はずっと苦しみ続けているッッ!!
「言霊」を持つその子の力で王の独裁を辞めさせたいんだ。」

噂を聞き付けたんだろうね。
リーフィアに住んでいた同胞が数年ぶりに村に帰ってきた。


シャンテ家に赤子をくれ、と頭を下げに、な。


勿論シャンテ家は拒んださ。
まだ1歳の誕生日も迎えていない可愛い自分の娘を連れては行かせられない、ってね。

そしたらそいつは激昂してね。


ルーエルの母親を焼き殺し、父親を氷漬けにした……。





ルーエル=シャンテが連れ去られた事はすぐに村中に知れ渡った。
だけど、あたしらはルーエル=シャンテを取り戻す事はしなかった。

彼女は間違いなく王室に差し出されるはずだ。
奴は「不思議な力を持つ子供です。」とでも言って王室で育てる許可を貰い、自分が世話役になるんだろう。


国一つを相手に戦争を起こすことは出来ないからね。

自分達の平和の為に、あたしらはルーエル=シャンテを手放したんだよ。





* *





「と、まぁ。昔話はこんな感じさ。」


ふぅ…とカップに口を付けるレミィ。

エレフは話がつまらなかったのか、いつの間にテーブルから離れ手遊びをしていた。


「なるほどな。だいたいの魔法の原理は分かった。」

団長は顎に手を当てしばし思案した後、ポツリと言葉を溢した。

「ルーエルがリーフィアで滅びの詠を歌ったとき、周りの人間が凍ったり焼死体になっていたのは、親がそう殺されたからなのか…。」


記憶には無くても、頭のどこかでその光景が残っていた――と。




「ルーエルの生い立ちは分かった。
一つ言っておくが、俺達はお前達にルーエルを返す気はない。」


団長は真っ直ぐにレミィを見て断言した。

その言葉にエレフはふっと顔を上げる。
俺とマチは何も言わず、だが意思の籠った目でレミィを見つめた。
フィンクスは手元のカップに視線を落としたままで……。



「…………ふっ。」

張り詰めた空気を破るように笑ったレミィ。


「最初からアンタ達がルーエル=シャンテを手放さないのは分かっていたよ。

ルーエル=シャンテの力を悪用するなら、ここでお灸を据えてやろうと思ってたんだけどね。
その心配も無さそうだ。」


俺達に優しい笑みを向けるレミィに、俺は何故か胸の辺りがくすぐったくなった。


「そうか。俺達はえらく信用された様だな。」

「目を見れば分かるよ。ルーエルの名前を出す時、アンタ達の目が優しくなるからね。」

「―――そうか。」


スッとレミィから視線を外した団長を珍しい、と思う。

その横顔はどこか安心していて、照れている様にも見えたから。
俺は団長からレミィに視線を移した。



母親、って大きいんだな――。



って。

全てを包み込んでくれそうな雰囲気を持つレミィを見て、そう思った。


自分も、ルーエルにとってこういう存在になれたらいいな、と。


らしくもなく漠然とそんな事を考えたんだ。




「その魔法ってやつだがよ、どういう風に教えていけばいいんだ?」

ずっとカップに視線を落としていたフィンクスが不意に口を開いた。

「今のルーエルは目が見えねぇし、自分の持ってる力の事も全く理解してねぇ。
俺達も魔法に関してはサッパリだしよ。
傍に置くならやっぱ最低限の知識付けとかなきゃだろ。」

未だにカップに視線を落としたままのフィンクス。
その横顔は真剣そのもので…

なんていうか――


「意外だな。」


そう、すごく意外…って先に団長に言われちゃったや。


「フィンクスがそこまでルーエルの事を考えていたとはな。」

「悪いかよ。俺だってルーエルを大切にしてぇって思ってんだよ。」

ふいってそっぽを向くフィンクス。
照れてる照れてる。

「アタシもフィンクスの意見に賛成だね。
フィンクスがそこまで考えてたとか意外で仕方ないけど。」

「最後の一言余計だろ、おい。」

「こんな人相してるのにね。」

「人相は関係ねぇだろぉが!!」


「あっはははははは!アンタ達、本当に面白いねぇ!


魔法に関しては、そうだね。
言霊は少し特殊で扱い方を間違うと破滅を生んでしまう。
私も文献でしか読んだことはないが、鍵になるのはルーエル=シャンテの意思だ。

『言霊を使う』と意識して発した言葉にその力が宿る。だから、まずその訓練をして欲しい。
自分の意思で言霊を操れるようになれば、まず間違いは起こらないだろう。

もしリーフィアの時みたいに、ルーエル=シャンテがパニックを起こして言霊が暴走してしまった時は、近くにいる奴がルーエル=シャンテを気絶させて欲しい。

――まぁ、パニックを起こさないようにするのが一番だけどね。」


一息に喋ったレミィは、もうすっかり冷めてしまった紅茶のカップを持ち上げ、

「新しい紅茶を入れようか。」

と台所へ向かった。


その後ろ姿を見詰めながら、俺はもう湯気の立たなくなったスコーンを一つ、口の中に放り込んだ。



―――うん、ドライフルーツがほんのり甘いや。




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