魔女の住む家



「うちの息子が悪かったね。この子はエレフ。私はレミィだ。」


あの後、俺達の事情を聞いた母親――レミィは、自分達の住む家へと案内してくれた。

















そこは木造の小さな家で、中には木で作られた家具が並んでいる。

木の実や花を混ぜた蝋燭…だろうか?
ゆらゆらと揺れる火からは甘い香りが漂っていた。


(何か童話に出てくる良い魔女の家っぽい。)


そんな事を思いながら、俺達は暖かい紅茶とクッキーが並べられたテーブルに座った。



「いや、いきなり島に立ち入ったのはこちらですので。
息子さんが追い払おうとするのも仕方のない事です。」


でた、青年モードの団長。

今回は慈善事業みたいな物だから、髪下ろしスタイルで来ている。
相変わらず爽やかに笑うのが上手い。


「俺はクロロ・ルシルフルです。こっちは……」

団長は俺達に目配せをする。
自己紹介しろ、って事ね。


「俺はシャルナークです。」

「マチ。」

「フィンクスだ。」


レミィは、みんな個性的だねぇ!と笑った。

――が、俺達は気付いていた。


レミィがエレフ以上に俺達を警戒し、いつでも攻撃が出来る体勢を取っているということを……。





「さて、本題だね――っと、なんだジャムが切れてるじゃないか。
これじゃあ、せっかく焼いたスコーンも台無しだねぇ…。

エレフ、ちょっとばぁちゃんの家に行ってジャムを貰ってきてくれないかぃ?」


「えぇ!ヤダよ!!ばぁちゃん家遠いもん!!!
……じゃなくて、母さん一人じゃ危険過ぎるよ!」

「最初のが本音だろう、お前。」

「違うやぃ!!お前みたいな得体の知れない奴等と母さんを置いていきたくないだけだっ!!!」


うがぁーと吠えるエレフに、戦意なんて沸くわけはなかった。
というか、子犬に吠えられてるみたいでちょっと面白い。


「エレフ!またそんな失礼な事…。
とにかく、ばぁちゃん家行ってきな!
じゃなきゃお前の分のスコーン全部食べちゃうよ!」

「――!!!」


ガーン…!と絶望の顔をするエレフ。

よっぽどスコーンが好きらしい。
渋々、扉に向かう。


――と思ったら勢い良く振り返り、


「母さんに手を出したら、お前等許さねぇからな!!!」


そう捨て台詞を残し勢い良く走っていった。




「「「………………」」」


「可愛い息子さんですね。素直で真っ直ぐだ。」

団長が扉を見ながらクスクスと笑う。
何だかんだ団長はエレフを気に入っているようだ。


「無鉄砲過ぎてこっちはヒヤヒヤだよ…。」

はぁ、と溜め息を吐いたレミィの顔が、一瞬にして鋭いものに変わった。


「――で、あんた達何者だい?ハンター、にも見えないんだがね。」

刺すような視線と鋭い物言いに、団長は口の端を上げた。


「どうしてハンターではないと?」

「念を持ってるようだが、どうにも“ハンター”って役職に身を置くような連中には見えないからね。

雰囲気――いや、単なる私の勘かな。」


にへっと笑うレミィには、その表情に反して一瞬の隙もない。



(強いな…。)


俺達の前に姿を表した時にも強いとは思ったが、直に敵意を向けられて改めて分かった。

こいつと戦ったら無傷では済まない。下手したら、死ぬ。




「なるほどな。勘ほど当たるものはない。
その通り、俺達はハンターではない。幻影旅団だ。」

スッと、団長の雰囲気が青年から幻影旅団団長へと変わった。


そんな団長にレミィは――


「幻影旅団?何だぃ?それ。」


ポカーンと口を開けたのだった。





* *





「へぇ、そんな盗賊団がいたなんてねぇ。
外の情報はなるべく入るようにはしてるんだけど、裏の事はサッパリでね。」

そう言って笑ったレミィに、団長はいつになく真剣な顔で話を持ち出した。


「今回は奪いに来た訳じゃない。聞きたい事があって来た。」

「ほぅ。悪名高い盗賊団さんが魔女に何を聞きたいってんだぃ?」



「ルーエル=シャンテについて。」



この言葉に、レミィはハッと息を呑んだ。
一瞬でこの場の空気が緊張したものへと変わる。

「アンタ達…どこでその名前を……」

その声音には動揺が含まれていた。
俺達はそれを見逃さない。

「ルーエルを知ってるんだな。なら話は速い。」

団長は、ルーエルが俺達と行動を共にしてる事、その経緯、そしてここに来た目的を告げた。






* * *






「……そんな事があったなんてね。
リーフィアが崩壊した事はこっちの耳にも入っていたが、まさかルーエルが…。」

複雑な表情のレミィ。
恐らく、さっきの話に何か心当たりがあったのだろう。


「俺達は、ルーエルに世界を見せたい。世界を歩ける力を与えたい。

だが、不可解な事が多すぎる。
俺達だけじゃ、ルーエルに何をどう教えたらいいか分からない。」


淡々と話す団長をずっと警戒の眼差しで見つめていたレミィは、ふっと小さく息を吐いた。


その瞬間――。

家に入ってからずっと俺達に纏わりついていた嫌な感じが消えた。


俺達はハッと自分の体を見る。



「不愉快な思いをさせて悪かったね。」

「警戒を解いたのか。」

「あぁ、あんたの目は嘘をついてなかったからね。信じるよ、その話。」


レミィはそう言うと椅子から立ち上がり、キッチンへと向かった。




「あの嫌な感じってやっぱりレミィの魔法なのかな?」

「恐らくな。俺達が何かおかしな行動を取ったらすぐにでも殺せるようにしていたんだろう。」

「念じゃない分、あたし達が反応出来ないのが質悪いね。」

「あいつ、相当強いだろうしな。」


俺達は額に浮き出た汗を拭いながら、レミィを見た。
鼻歌を歌いながら何かを準備しているようだ。


「まぁ、今は俺達を信用してくれたみたいだしさ!
俺達も変に警戒するのはやめよう!」

俺はパンッと手を叩いてその場の空気を一変させた。
マチ達も頷いてふっと肩の力を抜く。


と、同時――




「母さん無事!?スコーンまだある!!?
ばぁちゃん家からジャム貰ってきたよ!!!!」


エレフが息を切らしながら勢い良く扉を開けた。


「おかえり、エレフ。丁度いいタイミングだよ。
スコーンが焼き上がったから、ばぁちゃんのジャムを添えて食べようじゃないか。」


大きなお皿の上には湯気を立てているスコーン。
香ばしいなんとも美味しそうな香りが部屋中に広がる。


「なんだ、まだ焼けてなかったのか!
はい、これジャムだよ!!焼き立ての内にはやく食べよう!!!」


テーブルにジャムの瓶を置き、ぴょんぴょんと忙しなく跳ねるエレフに俺達は思わず笑った。


「そんなにスコーンが好きなのか。」

「あったりまえだろ!!母さんのスコーンは世界一なんだ!!!」

「大袈裟だねぇ、エレフは。」


苦笑しながらも嬉しそうなレミィ。






この家は、あったかいな、と思った。






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