世界を見た日




きっと、この感動は一生忘れないと思う。

私にとって、特別で大切な日。



みんな、本当に、ありがとう。




















「ここだ。」


クロロが短くそう言った。

ウボォが私を降ろしてくれる。



ゆっくりと地に足が着き、ふわり、と良い香りが鼻を掠めた。


何だか、懐かしい。

私が前にいた場所と同じ香りがする。



ザァァァァ――という音が近くに聞こる。

遠くから、鳥の鳴き声がする。





「帰ってきたの?」


前に私がいた場所に帰ってきたのだろうか。

私は、またここで大人達と暮らすのだろうか。



じゃあ、皆は?

もう一緒にはいれないのかな。



私は、この感情を表す言葉を知っている。

フェイタンが私に読み聞かせてくれたお話の中に、


『寂しい』


という言葉が出てきた。


きっと、この感情の事なんだろう。



そして、もう一つ。



「お別れするの?」



お話の中に『お別れ』という言葉もあった。


気付いたら、目から水が流れていた。





これも、知ってる。



『涙』



って言うんだよね。





私は外に出て、皆と一緒にいて、色んな事を学んだよ。

あの時の私じゃ分からなかった事も、今は分かるようになったよ。



でも、まだまだ知らないことだらけだよ。

まだまだ、皆と一緒にいたいよ。




うぅーっと泣く私の頭に、誰かの手が乗った。


「お別れじゃない。ここから始めるんだ。」


クロロの声がした。



「ルーエル、世界を見たいか?」


「……え?」




世界を、……見る?




「ルーエルの目をね、見えるようにする方法を見付けたんだ。」

シャルの優しい声がすると同時、頭の上にある手がゆっくりと私の髪を梳く。


ぁ、シャルの手だ――。




「目が、見えるようになるの?」

「うん。ルーエルは、見えるようになりたい?」


私は、ゆっくりと頷いた。

近くで、優しく笑う声が聞こえた。




「よし。じゃあルーエル。瞼を閉じろ。」



私はゆっくりと瞼を閉じた。


スッと何かが頬を掠め、目の辺りに何かが乗っている感じがする。



「まだ、瞼を上げるなよ。」



クロロは私の肩を持ち、そのまま数歩前に歩かせた。




「よし。ゆっくり、瞼をあげてみろ。」






ゆっくりと瞼を上げる。


少し開くと、今まで感じた事のない刺激が目に飛び込んだ。


思わず、ギュッと瞼を閉じる。



もう一度ゆっくり。





ゆっくり。



ゆっくりと開けていく。









そして――






















私は、初めて世界を見た。



























一瞬、呼吸を忘れた。







目に飛び込んできた鮮やかな色彩。








シャルが教えてくれた。

世界は色んな色で出来ている、って。








目の前に広がる景色に

どの言葉を当てはめていいのか

分からなくて…




でも、


これが“キレイ”って事なんだ


っていうのは分かった。






目の前の景色に、

ただ、ただ、


私は立ち尽くした。


















「世界を見た感想は?」




ぴくり、と体が跳ねた。


後ろから、クロロの声がする。




ゆっくりと、振り返った。








どんな、言葉を使えばいいんだろう。




「ク…ロロ……?」





これが、“人間”――?


必死に、今まで学んだ言葉と照らし合わせていく。







「初めまして、ルーエル=シャンテ。


 クロロ=ルシルフル だ」






スッと出された…手?



私は自分の手を見た。



そしてゆっくりと、クロロの手に触れる。





「こうするんだ。」


クロロは、ギュッと私の手を握った。


「“握手”と言って、初めましての挨拶だ。」


「あくしゅ…」


手から、温かさが伝わってくる。





私は、スッと周りを見渡した。






色んな人がたくさんいる。


みんな、違う様に見える。





誰が誰?


わからないのに、

何故だか涙が出てきて。





皆が、見える――。













「クロロ。

何かね、胸が、ぎゅーっとして…
すごく、何かが喉の所に引っかかって…る?

でもね、辛くなくてね、
すごく、温かいの。

胸にね、じんわりと、広がるの。

これは、何て言うの?」







クロロはふっと笑い、



「“感動”……だな。」



そう言った。







人は、笑うとこんな顔をするんだ。



周りを見ると、みんな同じような顔をしていて。


すごく、胸の辺りが暖かくなった。





笑った顔、好きだな。





私は、そう思った。










気付いたら、私も、笑っていた。






















この日、私は世界を見た。

世界はとてもキレイで、


とても、暖かかった。






きっと、これ以上の感動を経験する事は、もうないだろうな。


何故だか、そう思った。




私にとって、

この一瞬は一生忘れることの出来ない思い出になった。







ここから。


ここから私の新しい人生が始まる。










この日、私はこの場所で皆に色んな事を教えてもらったのだった。








2 end

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