恋するあなたに恋する不毛な恋2

※一応続き物です。
※先に同タイトルのものを読んでおくことを推奨します。


 その日の加古隊は夕方からの防衛任務でした。それは草壁隊と合同、つまり駿とシフトが被っていて、A級三馬鹿に数えられる彼は「今日は迅さんに会えるかもしれない!」とその迅さんのSEがあるわけでもないのに朝から本部の張り込みに巻き込まれました。そこへA級三馬鹿の残り2人の先輩が夜勤明けにも関わらず、いえ逆に物足りなかったのか深夜テンションが抜けきらなかったのか、チーム模擬戦のメンバーを募っており、流れるようにそこにも巻き込まれたのです。戦闘馬鹿の異名を持つ米屋先輩ほどではありませんが、A級隊員として未熟で経験も少ない自分にとって自身より強い相手、違うポジションの人と戦えることは貴重な機会です。駿に弄られないように顔こそ出しませんでしたが、まんざらでもありませんでした。

 最終的に集まったのは、あたし、駿、米屋先輩、出水先輩、三輪先輩、奈良坂先輩、千莉先輩、そして龍之介先輩の8人。

 本来なら出水先輩がいる時点で太刀川さんも参戦することが決まっているようなものでしたが、この時ばかりは予め待機していた堤さんや風間さんに「まさか今季の単位のことを忘れてないだろうな?」と連れて行かれました。出水先輩曰く、まだ堤さんがいるだけ救いだ、とのこと。
 意外だったのは三輪先輩、奈良坂先輩です。このお二方が模擬戦、しかも夜勤明けに乗るとは思いませんでした。三輪先輩は、米屋先輩が模擬戦やろうぜと足止めしてる最中に来た千莉先輩の挑発に乗ってしまったからです。夜勤明けでろくに頭も回らなかったのでしょうか、いつもならさらりと受け流すのにその時は噛み付くように喧嘩を買いました。奈良坂先輩も本当は参戦するつもりはなかったそうですが、こちらも千莉先輩と遅れてやってきた龍之介先輩に、混戦状態での遠距離の狙撃手対策に付き合って欲しいと頭と某たけのこのチョコレート菓子をいくらか貢いでいました。ちなみに古寺先輩は「先輩方さすがです」と目に見えてお疲れだったようで、今回は辞退されました。
 そうして8人揃い、4人1チームの2チームでの模擬戦のメンバーが揃いました。ちなみにオペレーターは両チーム不在です。

 チーム分けは即席のくじで決めました。振り分けは、攻撃手米屋先輩筆頭とする駿、千莉先輩、奈良坂先輩のほぼ近距離で固まったチーム。対するのは中距離メインの出水先輩を筆頭にあたし、三輪先輩、龍之介先輩の距離的有利はあるもののやや攻め手に欠けるチームです。
 この時の正直な感想として『これは負ける』と思ってしまいました。模擬戦とは言え、戦場に立つ以上、初めからこのようなマイナスの感情を持ち、決め付けるのは悪いことだとわかっていてもそう思わずにはいられませんでした。こちらのチーム内ではどうしても龍之介先輩の戦力差が目立ってしまいます。加古さんの言葉を思い出しても、その人は千莉先輩のアシスト役として戦力になりうるのに肝心の千莉先輩は敵。即席のチームでは活きにくいと読んでいました。今となってはそれもまた未熟な思考だったと悔いています。

 ステージは市街地、晴れ。その前にお互い15分間の作戦・対策打ち合わせを設ける。
 オペレーターがいないため、模擬戦中の情報共有や連携は全てチーム内通話しか使えない。こちらの司令塔は唯一の隊長を受け持つ三輪先輩が作戦を提示します。
先輩曰く、奈良坂以外勉学がからっきしの馬鹿しかいないが、それと戦術・指揮はまた別の話だ。米屋の幻踊孤月を使った特殊戦術や指揮能力は侮れない。
 向こうは攻撃手3人と唯一の狙撃手がいる。いつもの三輪隊の戦術をそのまま流用するなら攻撃手で追い込んで狙撃で仕留める形を取るだろう。同じ狙撃手でも当真のように単独行動はせず、攻撃手の誰かについているだろう。それでもいくつかある市街地マップの転送位置によっては開始早々一発でベイルアウトを狙われる可能性がある。常に高所や射線が通りそうなところは特に気をつけること。幸い今回のマップには全体を狙えるような高い建物もなければ、平地な市街地である以上、射線が通りにくい。逆に捉えると、ここぞという場所がないため、何の手がかりもなしに奈良坂個人を見つけるのはほぼ不可能に近い。
 狙撃手以外にも攻撃手が3人。しかもその誰もがマスタークラスという強者ばかり。そこも逆手に取るなら攻撃手同士での連携プレーを組んでくることはほとんどない。特に千莉と緑川は常にアシストされてる側、また近距離の攻撃手の連携は非常に難しい。この2人は単独、または後ろに奈良坂を構えて、1人ずつ落としにかかってくる。こちらは合流を優先して攻撃手の黒江を主軸に中距離から出水や俺の鉛弾で援護しながら確実に1人ずつ落とすつもりで、龍之介はバッグワームで身を隠して奇襲か、可能なら奈良坂の捜索・牽制だ、と三輪先輩は締めくくった。
 その作戦に異を唱えるのは誰もいませんでした。
 そうして作戦会議は終わり、転送まで残り時間が表示される。
 5、4、3、2、1――
 
 転送開始。



 黒江の状況は最悪だった。
 転送位置は各隊員一定の距離をあけてランダムに配置されるシステムになっているが、最優先で合流すべき出水が一番遠いところに転送。なるべく相手と鉢合わせることなく向かうと連絡を取り合うも、オペレーターがいないため通常の模擬戦以上に時間がかかる。三輪も急いで駆けつけるはずが、彼も緑川と会敵、早い合流は望めない事態。基本トリガーの標準機能で共有できる全体マップでは、狙撃手の奈良坂は当然、黒江たちのチームは龍之介、出水がバッグワームを使用中。
 黒江もバッグワームを羽織り、こちらから合流を図るも、

「おっと、黒江はっけ〜ん」

 一番厄介な米屋と鉢合わせてしまった。

『……こちら黒江、米屋先輩と会敵しました』
『うわっマジかよ。戦闘族の中でも槍バカかよ』
『こちら三輪。緑川に見つかった。出水のつなぎとして合流したかったが、厳しいな。あまり相手にせず合流を目指したいが、機動力は奴のほうが上だ。黒江、踏ん張れるか?』
『正直厳しいと思います。もし米屋先輩に奈良坂先輩がついているとしたら余計に』
『龍之介、位置的にお前が一番近いがどうだ?』
『こちら暮林。確かに双葉ちゃんに一番近いのは俺だが、すぐ近くに千莉がうろついていて迂闊に動けないな……見つかれば早々飛ぶ』
『……一番面倒な戦局になったな』

 通常のランク戦とは違い、2チームのみの狭いマップで合流はしやすいが、必ずしも味方だけとは限らない。会敵率も同じ。

「おっ、特別意識してなかったけど緑川がいい仕事してんじゃん。一番は出水とやりあっててくれれば楽だったんだけどな〜。まあそっちのメイン攻撃手とタイマンなら――」

 刃先が右髪を掠めた。

「最初の1点、オレがもらおうか」
「そう易々と取られるつもりはありません」

 黒江はバッグワームを解除すると、その年相応の小柄な少女が持つには少し不釣り合いな刀を構えた。
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