恋するあなたに恋する不毛な恋

※地味に『今からそいつを殴りに行こうか』と話がつながってます。


 好きな人ができました。それは、有り体に言えばLikeではなくLoveのほうの好きです。初恋です。

 その人は4つ年上の人。入隊時期が向こうのほうが半年以上も早いのに個人ポイントは低いです。あたしよりも低いです。駿や米屋先輩たちに誘われた乱戦でもA級ばかりとはいえ、その人と同じ隊に所属する千莉先輩が駿たちと両者引けを取らずに凌ぎを削り合っているのに対して、その人は早々と脱落するほどで、戦闘には秀でていません。
 さらに本部ではなく、深槻支部という比較的古い支部所属なのですが、それなのにその人はよく本部で見かけます。その目的の大半はうちの隊長をはじめ、色んな女性隊員をよくラウンジ、時には市街地のカフェでお茶に誘うこと。ナンパ目的です。そういうことから周りは節操なし、女誑しと揶揄されがちです。
 と、客観的に見るその人はお世辞にも魅力ある人とは言えず、当然あたしの印象もよくありません。しかしチャラそうな言動と進学校に通うほどの頭脳があり、周りでは残念なイケメンと言われていたりいなかったり。でも顔は確かに整っているなと思いました。

 ところが何度も彼のお茶に付き合ったことのあるうちの隊長は全く反対の評価をしていました。

 まず戦闘に関して言えば、あたしと同じ攻撃手でも役割が違う。真っ先に敵に向かう米屋先輩や駿たちと違って、あの人はあくまでサポーター。嵐山隊の時枝先輩や二宮隊の辻先輩のようにメインアタッカーのアシストがあの人の役割で、それ故に日の目を見ない、影の功労者と言う。あまり見ない。防衛重視の支部なので、数少ない過去のランク戦を見てみると、なるほど、確かに先に挙げた2人の先輩ほどではないが、ここぞという時のアシストが確実にポイントに繋がっている。
 さらに女誑しについては曰く、彼は、知り合い以上友人以下、赤の他人とは言えないが、特別仲のいいわけでもない微妙な距離を利用したガス抜き屋だという。
 無節操に声をかけているようでそれは違うのよ、と隊長はこっそり、まるでお泊まり会で好きな人を伝えるような、ワクワクするような声音で教えてくれました。
 誰かがストレスや何か行き止まったりして、相談しようにも自隊長、隊員や親しい友人たち話せば余計に何か気負わせてしまうのではないかと。ボーダーに所属する上で守秘義務はもちろん、あたしたちは戦争をしています。周りは話してくれてもいいと思っていても、本人はなかなか言えない。そんなひとり袋小路に入って困っている人を見つけるのがとても上手い。顔に出ている出ていないに関わらず彼にはその人の纏うオーラでわかるらしいそうです。ちなみにトリオン量としてはほぼ平均内であり、SEではないです。その人が所属する隊長が言うには、彼の家庭環境が関係してたりするのかもしれないと笑っていました。
 もちろん必ずしもそういう何かを抱えた人が常にいるわけでもなく、だいたいはただのナンパで目の保養が欲しいそうよと加古さんは締めくくった。

「でも、双葉が他の男性のこと気にするなんて珍しいわね」
「そう、でしょうか。…‥あ、でも加古さんがよく2人でお茶に行くのを見て、あなたに並び立つに足りるかどうか見極めたかったのかもしれません」

 きりっと目に力を入れる。咄嗟についた嘘にしては上手く出来たと思っていたが、「そうなのね。ありがとう双葉。大丈夫よ、あなたが心配する事ではないわ」と満面の笑みの加古さんにはきっと無駄な足掻きだったかもしれない。

 それからというもの、本部であの人を見かけるとつい目で追うようになりました。女性隊員に声をかける以外は、だいたいは同学年の出水先輩や米屋先輩などと一緒にいて、それに千莉先輩が加わると彼女に引きずられて半泣きになりながらブースに連行されてます。
 ある時は食堂を利用して進学校で同じクラスである辻先輩と一緒に課題を片付けたり、同じアシストメインの攻撃手として色々教えを乞うていました。駿と個人戦をする途中だったからちらりとしか見えなかったけど、基本千莉先輩たちに弄られて情けない顔か女性隊員を誘う時のような甘い顔とは全く違う真剣な表情に一瞬魅入ってしまいました。
 なるほど、やっぱり黙っていればイケメンなんだなと、少し先に言ってしまった駿の後を追いました。
 他にも本部へ繋がる地下通路で、街中で。顔が整ってはいるが、嵐山さんのように誰もが振り向くように目立つ人ではない。それなのに、いつ、どこにいてもその人の顔を、背中を、姿を、影を探してしまうようになりました。そのときはまだ無意識でした。

 その人を本当に意識するようになったのは、ある模擬戦でした。
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