Double Cross



 下半身の力が抜け、がくんと片膝が崩れ落ちる。その原因がぱんっと乾いた音が自分の太腿を貫通したせいだと認識したのはその後だった。

「志摩くんはさ、あたしが施設出身なのは知ってるよね」

 見知った顔。見慣れた学園の制服。髪は、ようやく目を向けることができるようになった。
 変わりない彼女の左手には見たことのない拳銃。いま自分が彼女を見上げることになったその拳銃を初めて見たのにどこにも違和感がない。隙などない。あまりに似合いすぎていた。
 ぱんともう1発軽い音と共にもう立てなくなった。親しみやすい姿勢のまま彼女の左手は発砲の反動を自然と受け流す。

「まあ、いま見た通り。そういう施設だったんだ」

 かんと空薬莢が落ち、硝煙が深く肺に侵入する。
 まだ残っている弾薬を弾倉から丁寧に1つ、2つ……彼に見せつけるよう、彼の中に刻み込むように、かん、かん、こん、かん。落としていく。
 落ちていく弾薬を目と耳が捉え、それぞれの経路から彼の脳に情報を送る。しかし彼は拒んだ。
 「嘘やろ?」と言いたかったのに驚くほど喉は乾燥していた。自分でも何を言っているかわからないほど枯れていた。

「あたしはさ、志摩くんみたいに二重スパイをこなせるほど上手に嘘は付けないし、すぐ見破られちゃうから苦手なんだよね」

 それこそ嘘やろ。と思った。
 じゃあ、俺が見てきたものは? 話したことは? お互い同じ気持ちだとしって喜んで泣いたことは?

「嘘は苦手で下手なんだ。全部本当のことだよ」

 目の前にいるのは誰?
 目の前にいるあの子は誰?
 目の前にいるのはなんだ?

「志摩くんが見ていたあたしも、話したことも、同じ気持ちで嬉し泣きしたことも本当だよ。嘘は苦手で下手。それならそう聞かれないように、疑われないようにすればいいだけなんだ」

 誰も彼女を疑わなかった。もちろん彼も。神木を連れてイルミナティへ、そして奥村雪男と共に袂を分かった時の彼を見る彼女の目は本物だった。
 しかし、

「おしゃべりだからね。でもその代わりに隠れんぼは得意なんだ」

「かの人(悪魔)は君をもう不要なものと判断した」

「そうだなぁ……一応最後に自己紹介しよっか。正十字学園高等部1年生、そして正十字騎士団日本支部監視課諜報担当。つまり二重スパイで活躍する志摩廉造の監視とその精査、そして始末を担ってます、立花奏です」

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