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控え室に行けば、50名以上が待機していた。

あれ、ちょっと遅かったかと思ったけど皆いないな、と心配そうにする梓と一緒に椅子に座る。


「結構焦ったな」

『うん、普通に焦った。ナットがさ、ぐわーん!って大きくなった時びっく!ってしなかった?』

「した」

『あとさ、タンクに氷刺さってたから私も雷刺したけど、実は意味わからずやってたんだよね』

「ぶはっ」

『大きな爆発起こって普通に焦った』


あの難関、雄英高校の体育祭準優勝者と3位と思えないアホな会話に隣の椅子に座る他校生が微妙な顔をしているとも知らず、2人はのんびりとお茶を飲みながら足をブラブラさせている。


『あー…みんな遅いなぁ』

「確かにちょっと遅えな。でも、まぁ大丈夫だろ」

『そうだね。あ、轟くん、ボールはあっちに持っていくみたい。轟くんの分も一緒に持っていくね』

「あ、わりい。一緒に行く」

『いいよ、座ってて』


じゃあお言葉に甘えて、と座る轟に
梓は満足げに頷いてたったかたーと走った。

返却棚の前でボールを返し、そういえばどうやってターゲットを外すんだろう?とキョロキョロしていれば、真後ろに影ができた。


「雄英の3位の子!嵐の子だ!」


馬鹿でかい声にビクッと肩を揺らして振り向けば案の定、夜嵐イナサがいた。


『君は…夜嵐、イナサくん』

「東堂梓ちゃん、超戦闘タイプの熱い子だよな!!なんで俺のこと知ってんの!?」

『エッ、先生が君のことを強いって言ってたから』

「そんな!イレイザーヘッドに褒められるなんて、光栄っス!」


勢いよく二カーッと笑ったイナサに梓は面食らった。
が、彼の勢いは止まらない。


「東堂も1年だよな?体育祭見てたぞ!爆豪に泣かされてた!」

『わぁやめて!』

「しかも、嵐の個性って俺と似てるんだよなァ。兄弟みたいだな!」


肩をガッと掴まれて、圧に梓は顔を引きつらせた。
類似の個性だから気をつけろと言われた相澤の言葉を思い出す。


『あー…君の個性、なに?』

「風っス!ヒーロー名は、レップウ!」

『そのまんまだーわかりやすい!』

「梓ちゃん!梓ちゃんって呼んでいい!?」

『別にいいよ。それより、このターゲットどうやって外すか知ってる?』

「ああ、それならこのキーで、」

『キーがいるのか!ありがとう、これ轟くんに持って行かなきゃだ』


二度手間になっちゃった、と笑う梓に夜嵐の笑みが消えた。


「え、梓ちゃん、あいつと…轟と仲良いのか?」

『え?うん、なんで?夜嵐くん、知り合い?』

「…いや、知り合いじゃねぇ、あんな奴」


椅子に座ってほっこりしている轟を睨む目が鋭い。


「あいつ嫌いだ。仲良くしないほうがいいと思う」


少し驚いた。
何故彼がそこまで轟を嫌うのかはわからない。
が、梓は鋭い目をしている夜嵐の手からキーを受け取ると、


『何があったか知らないけど、悪い奴じゃないよ』

「……」

『2回』

「え?」

『2回、轟くんと、気ぃ抜いたら首と体が離れちゃうような戦場に立った』

「!」

『2回とも、超絶ヒーローだったよ』


そう言ってスッキリした笑みを浮かべる梓に夜嵐は思わず口を噤んで、轟の元へ駆ける少女の背を見送った。





轟と一緒にターゲットを外していれば、
八百万、耳郎、障子、蛙吹が控え室に入ってきた。
ターゲットとボールの収納場所を教え、お互いに良かったねーと健闘を讃え合う。


「流石に早いな、轟、東堂」

「たまたまだ」

『うん、地形が良かったかな』


障子に労われ首を傾げる2人に八百万も心配そうな表情をする。


「2人でしたら敵も多くて大変だったんじゃなくて?」

『最初は50人くらいでてきたから驚いたけど、一旦場所移動して、その後は10人だったから、1人5人〜って感じで』

「分業した」

『うん』

「頭おかしい」

『耳郎ちゃん酷い!』


悲鳴をあげる梓に耳郎が笑う。


『耳郎ちゃんこそどうだったの?ハートビートファズ!!した?』

「振りまで真似すんのやめてくんない!?」

「梓ちゃん似てるわ」

「ちなみに初っ端にしてましたわ」

「みんなやめてぇ!」


梓と耳郎の掛け合いに轟を含め周りで笑いが起こる。
そうしていれば、緑谷、麗日、瀬呂と、爆豪、切島、上鳴が合流し、一際賑やかになった。


「皆さんよくご無事で!心配していましたわ!」

「ヤオモモー!ゴブジよゴブジ!つーか早くね皆!?」

「俺たちもついさっきだ。轟と東堂が早かった」

「爆豪も絶対もういるって思ってたけど、成る程。上鳴が一緒だったからか」

「はァ!?おまえちょっとそこなおれ!」

『あははー!』


ターゲット外すキーがあっちにあるわ、と蛙吹に教えられ返却棚に向かう爆豪に腕を掴まれ、なに?と言いながらも梓も流れで大人しくついていった。


「あのうるせえ奴と会敵したのか」

『え、うるさいやつ?誰?』

「夜嵐」

『ああ、会敵はしてない。なんで』

「お前、類似の個性だろ。あいつの勢いを見るに、喧嘩売られてもおかしくないかと思ったんだよ」

『あーーなるほど。ん、喧嘩は売られてないけど話はしたよ。兄弟みたいな個性だねーって。ま、あの人の個性ちゃんと見たわけじゃないからどんなものか知らないけど』


きっと私の竜巻じみた風よりも扱いやすいんだろうなぁ、とぼやく梓が珍しくて爆豪は眉間のシワを無くした。

個性の調節に苦戦していることは知っていたが、こう自分に個性に対しての弱音を吐くことはない。


『私の風って優しくないもん。攻撃のためだけの風って感じでさ、雨っていうか水だし』

「……」

『元が自分の個性じゃないからなのかな…、嵐だからなのかな。気ぃ抜いたら嵐の中に巻き込まれそうになる』

「…おう」

『かっちゃん、まだ私の道のりは長いよ』


爆豪はふぅ、と息をつく幼馴染の頭をぽん、と撫でた。


「お前だけじゃねェよ」


乱暴だが、慰めてくれているらしい爆豪に梓は相変わらず微妙に優しいな〜と頬を緩めるのだった。

その後、
飯田と青山の活躍もあり雄英は無事全員合格した。
勝ち抜き100人が揃った揃ったところで次の試験が発表される。


「次の試験でラストになります!皆さんはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます!」


モニターに映った先ほどまで戦っていたフィールドが爆破され、発表されたそれに梓はウワァと盛大に頭を抱えるのだった。


(苦手だー!!)

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