説明会にて第一次試験が発表された。
先着100名勝ち抜け方式の演習。
各々が3つのターゲットと6つのボールを持ち、
2人脱落させた順からクリアとなる。
『入試よりルール厳しいね?』
「だよね、3つ目を当てるってことはー、ボール6つはギリギリじゃん」
『投げればね。でも全員が全員、投擲得意じゃないだろうし、近接戦に持ち込むのもアリかも』
「なるほど、東堂さん、こういう頭の回転は速いよね」
「尾白くんひどい!」
だよねーと納得している耳郎にも文句を言っていれば、次々とボールとターゲットが配られていく。
そして、箱物だった部屋が展開し、広いフィールドが露わになった。
「各々、苦手な地形、好きな地形があると思います。自分を活かして頑張ってください」
開始までのカウントダウンが始まる。
あ、どうしよう。とりあえずターゲットをつけようともたくさしていれば緑谷が指揮を取ってくれていた。
「先着で合格なら…同校での潰し合いはない…。むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋…!みんな、あまり離れず一かたまりで動こう!」
「フザけろ、遠足じゃねーんだよ」
「バッカ待て待て!」
緑谷の提案を無視して走っていった爆豪を切島と上鳴が追いかける。その反対側では轟も、
「俺も、大所帯じゃ却って力が発揮できねえ。東堂、行こう」
『エッ、私も?』
「自然現象同士だから一緒にいた方がいいだろ」
『そう?むしろブッパしてフィールドやばいことになりそうだけど。まぁいいや、みんな、また後で会おう!』
轟に腕を引っ張られ何処かに行った梓を見て耳郎は思わず「いきなりすんごい戦力減ったんだけど!!」と悲鳴をあげていた。
ー
カウントダウンの中、轟の背を追いかけてビル街を走る。
ー5、4
『轟くん、気づいてると思うけど、この戦い学校単位になるよ!2対10以上くらいが基本になる!』
「そりゃ、雄英は個性がモロバレだからな。潰してくるだろうよ」
ー3
『うん、それで、多対2はまだ一緒に共闘したことないけどさ、いつも通り…』
ー2、1
「ああ、いつも通り、俺が合わせる。お前は好きに動け!」
ー0、START!!
『うん!!全部頼んだ!!』
スタートの合図とともにどこに隠れていたんだと驚くほどの人数がビルの影から現れた行く手を阻み、梓はその状況で先手必勝とばかりに飛び出した。
「いたぞ!2人だ!チャンス!」
「轟と東堂!体育祭2位と3位だ!!」
「全員で畳み掛けろ!」
『轟くん…締まっていこう!!』
刀を抜き、瞬時に圧縮した嵐をブワッと纏わせると、横一文字にドンッと放つ。
『…疾風雷神!!』
それはビル街のガラスを割り、狭い路地のせいでぶわりと風が巻き上がっていく。それに雷が合わさり、四方八方を壊していき、水道管を傷つけ、大量の水が四方から噴射し始めた。
「マジかよ…!!」
「嵐の個性、東堂梓!体育祭の時の比じゃねえだろこれ!!」
「エッ同一人物!?」
水を巻き上げ暴風が躍り、稲妻が走る。
まさに災害、それに後ろから炎と氷が加わり、
梓と轟は同じように口角をあげると、
『「いくぞ!」』
数多の個性が飛び交う中、敵陣に突っ込んだ。
その時だった。
地響きとともに地面が大きく揺れた。
「なんだ、?」
『うわっと!』
それはとても立っていられないほどの揺れで、
『これまずいな、轟くん!』
梓は咄嗟に轟の腕を掴むと空高くに舞い上がる。
ぐんぐんと高度を上げ、先ほどまでクラスメート達がいたところを見れば、大きく地面が割れていた。
「ありゃ、地震か…」
『んー、すごいね。そりゃここもこれだけ揺れるわ』
「東堂、跳べるようになったんだな」
『ん。一緒に飛ぶ時は、ちょっとピリピリさせちゃうんだけどね。揺れも収まったみたいだし、このまま下に降りたら格好の餌食だ。轟くんが良ければこのままあっちの工場地帯まで行くけど』
「それが良さそうだな」
おーけー、じゃあ掴まってて。梓は自分より体格の大きい轟と肩を貸すように密着すると、『酔わないようにね』と笑い混じりに忠告し、空中を蹴った。
ーブワッ
ブーツを中心に全身で風を纏い、ぐんぐん前に進んでいく。
そして工場地帯に人がいないことを確認すると急降下し、工場の影に身を潜めて、地面に着陸した。
ライドは随分安定したが、静電気バチバチである。
轟はブワッと浮いている髪の毛を直しながら、この半年ですげえ個性と馴染んでるこいつ、と改めて梓の成長を実感していたりする。
『わぁ、バチバチ。轟くんごめん』
「大丈夫だ。それより、どうする?さっきはどうしようもなかったから真っ向勝負したが、正直何度もはキツイだろ。どこもチームで動いてるしな」
『そうだねぇ…こっちから仕掛けてもいいけど不利な個性持ちがいると厄介だし』
「他のチームがぶつかり合って、双方の人数が減ったところを叩くか」
話しながら進んでいれば、先程からずっと流れているアナウンスが合格者50人目を告げていて、轟は考えを変えた。
「いや、悠長に待ってられないな」
そうだね、と2人で配管蔓延る工業地帯を進んでいく。
その時、後ろからの気配に敏感に反応した梓が飛んできたボールを、スパンッと刀で真っ二つに斬った。
立て続けに飛んできたボールは轟によって燃やされ、
2人は警戒するように肩を合わせて襲ってきた他校のチームを見上げる。
「やるやるゥ!流石、雄英高校体育祭、準優勝の轟くんと3位の東堂さん、だっけェ?しっかし、2人だけで行動するなんて、すごいねェ。余裕ありまくり!」
10人いた。
忍者のような出で立ちの彼らは得意げに配管の上に立って2人を見下ろしている。
「でもさァ、いくら雄英だからって、2人はまずいっしょ?」
「2対10だよ、どうすんの?」
『わ、4人以上いるからどっちが先に合格するか喧嘩にならなくて済む。良かった。実はそこ結構気になってたんだよね』
「ぶはっ…さっきから何か考えてると思ったらそこかよ。東堂もこう言ってるが、助かるよ、探す手間が省けたから」
「ふふっ、2人ともカッコいいねェ」
4人が配管を蹴ってこちらに向かって襲ってくる。
『っし、』
「下がれ」
轟は抜刀しそうな梓をドンッと後ろにやると氷壁で投げられたボールをガードし、一気に氷を這わせ、全員の足を凍らせた。
パキパキッと凍り一瞬で動けなくなり、他校チームは「動けねー!」と悲鳴をあげる。
「お前ら、本当に体育祭見てたのか」
挑発するような轟にリーダー格の男が眉を吊り上げて、ポケットから取り出したナットをビュンッと勢いよく投げた。
「勿論見てたよ!」
それは突然大きくなり質量も増し、ガンッと氷壁を揺らした。
「物を大きくする個性か…!」
『げっ、流石にこれ刀じゃ斬れない』
確かに、嵐個性とは相性が悪いかもしれない。
顔を引きつらせる梓を一歩後ろへ下がらせるが攻撃は止まらない。
「まだまだァ!」
続いて釘やナットが次々に打たれ、衝撃により氷壁にヒビが入り始めた。
時期に壊れる。轟は顔をしかめた。
(最大を出すか!?いや、しかし…他にも仲間が、)
『轟くん来るよ!』
氷壁が壊れる。追い討ちのように巨大なナットが飛んできて轟は炎を噴射するが、
『「!」』
全く溶けずにビクともしないそれに梓は轟を引っ張って間一髪で避けた。
『エッなに今の』
「ただの金属じゃないからねェ、熱に強いタングステンを使ってる」
『あらま、これは…』
対策されてるわ。
梓は切り替えた。轟を連れてタンッと2回バク転をして後ろに下がると抜刀した。
他校チームはいつの間にか氷を壊し、足元も自由になっている。
「言ったっしょ、轟くん!いくら雄英生だからって2人単独で動くなんて…余裕、あり過ぎだっての…」
空気が張り詰め、ぎろりと睨まれ、
自分と前線の選手交代をした梓に轟は思わず「行けんのか」と声をかけるが、彼女は口角をあげて頷いた。
『とりあえず、君は全部避けつつ、炎と氷を連発して。一旦がっつり暴れて、全員の個性把握しよ』
「おう…!」
「なァにごちゃごちゃ喋ってんの。東堂さんは近接には強いけど中距離には弱かったよね。だから、刀でどうにもできないレベルの飛び道具には弱気で轟くんの後ろに隠れたんだろ?弱点丸わかりだよ、余裕だねェ…」
『私よりごちゃごちゃ言ってる』
ぷぷっと、挑発するように笑う少女にリーダー格の男の目が釣り上がり、即座に「やれ」という大きな号令がその場に響いた。
「「おう!!」」
轟の炎が打ち込まれ、他校チームから土と水の個性を持つ2人が対抗して炎を相殺する。
立て続けにボルトやナット、釘が打ち込まれ、
パワータイプの2人が配管を打ち込んでくる。
「畳み掛けろォ!!」
怒涛の攻撃だった。
が、梓は最前線で全部避けきると一歩踏み出し空中に飛び上がった。
飛んでくるナットを避け釘を避け、土を避け、
(水も打ってきて欲しいのに、轟くんの炎対策に使われてばっかりだー)
少し不満に思いつつも、面白いほど身軽に全てを避けた少女は一瞬で他校チームが横一列に並ぶ配管の上にダンッ!と着地すると、
流れるステップで配管を蹴り、パワータイプの男たちに突っ込んだ。
「なんだこいつ!?個性も使わないで…!」
殴りかかろうとした男の手を片手で払うとくるんと身を翻して背面に周りコスチュームを引っ掴んで横っ面に雷を纏った蹴りをドゴォッとお見舞いする。
そのまま全体重をかけバランスを崩させ、配管から落とすと、
『ふっ、ほっ、はぁ!!!』
腹に三連続の蹴りとかかと落としを食らわせ地面に叩きつけた。
「なんだとォ!?」
全員の意識が叩きつけられた仲間にいった、たった一瞬。
その一瞬で少女はもう1人のパワータイプの男めがけて中距離攻撃である雷撃を繰り出していて、感電する。
瞬く間もなく2人を倒した梓に他校チームは焦った。
東堂梓も強いとは思っていたが、轟に比べればどうにかなると思っていたのだ。
彼女は嵐の個性もうまく扱えていないようだったし、強敵ではないだろうと、思っていたのに。
「轟より先にこいつだァ!!」
リーダー格の焦った声が響く。
それに呼応するように土流と水流が自分に打ち込まれ、巨大化したナットや釘が立て続けに打ち込まれる。が、
梓は全てを避けきるとリーダー格の眼前に現れ、ターンッと顎を蹴り上げた。
襲ってくる土流を避けるように一旦その場を離れるも、彼女は全く息を切らさずになんてことないように身を翻していて。
彼女は空高く舞い上がりくるんと、体を逆さにしたまま、
『これ以上の個性ないよー!』
と、叫んだ。
「「「は?」」」
なんのことだ?轟への合図?
そういえば轟はどこに!?
炎を相殺した水蒸気のせいで視界は悪い。
その靄の中を探せば炎が見えて、他校チームは梓が轟に何かを伝えたのだと警戒対象を彼に変えた。
「あっちだ!追え!!」
他の仲間に梓を任せ、リーダー格の男と数名が走って彼を追いかけるが、
目印したその炎は轟ではなく、電極盤が燃えているだけだった。
轟がいないかわりにそこにあったのは氷が刺さった大きなタンク。
「謀られた…!」
「東堂!!」
轟の呼びかけが後方の高いところから響く。
ハッと振り向けば、彼めがけて梓が空から降りてくるところで、
「仲間は…!?」
彼女の足止めを託したはずの5人の仲間は遠くに仲良く伸びていた。
梓はちらりとタンクを見ると抜刀し、雷を這わせ、
『雷撃突き!!』
先ほどパワータイプの仲間を感電させたものより数十倍も激しい雷が、氷によって開いたタンクの穴にズガァンッと突き刺さった。
刹那、爆風が吹き荒れる。
ードガァァァンッ!!
氷壁の後ろに隠れた2人以外の、
他校チームの残りの5人は元いた位置まで吹き飛ばされてしまった。
リーダー格の男は激しく地面に叩きつけられると、
「あいつら…!無茶苦茶、」
まだ終わっていない、と体を起こそうとするが、
すでに体は轟の氷結によって腕まで自由を奪われていて。
全員だった。梓が倒した者も、轟が倒した者も、全員氷結で身動き取れなくなっていて、
結果、全く怪我をしていない無傷の2人が水蒸気の中歩いてくる。
「やっぱ委員会も、流石に爆発の威力は抑えてたか」
『轟くんやっぱすごいな、全然思いつかなかった』
「てめェら〜…!」
「悪いな、落ちるわけにはいかねェんだ」
『個性対策は凄かったけど、個性だけ対策してもねぇ』
個性以外の部分対策してもらわなくっちゃ、と笑う梓に、たしかにこいつに個性対策しても元が強えもんな、と轟は納得する。
2人は順番にボールをぽん、ぽん、と当てていくと、
〈通過者は控え室へ移動してください〉
合格の合図がなり、
「『お。』」
2人は目を合わせホッとしたように笑みを浮かべると、パァンっと手を合わせた。
工業地帯に心地よいハイタッチの音が響いた。
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