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『はー、無理。緊張してきた。梅雨ちゃんどうしよ助けて』

「梓ちゃんは苦手だものね。もし良かったら水辺を一緒にまわりましょう」

『えっいいの!?ほんと!?やった!』

「東堂、俺も一緒に」

『轟くん水辺に来てもアレじゃない?炎がジュッてなるんじゃない?別のところが良くない?』

「轟が東堂に拒否られてフリーズしてる…!」


隣では緑谷が上鳴と峰田に詰め寄られている。
梓は、固まっている轟の肩をポンポンと叩きつつこちらに歩いてくる一行に視線を走らせた。


『士傑がくる』

「お、本当だ。士傑こっちに来てんぞー」


軽食を食べながら言う切島にポカスカと乱闘していた緑谷達はピタリと動きを止めた。

士傑の毛むくじゃらの男が歩みを止めたのは爆豪の前で、


「爆豪くんよ」

「肉倉…糸目の男が君のところに来なかった?」

「ああ…ノした」


『え、毛すごくない?』

「俺すげえ言いたいの我慢したのに東堂すぐ言っちゃったよ」

『切島くん顔に出てたので同罪だよ』


「やはり…!色々無礼を働いたと思う。気を悪くしたろう。あれは自分の価値基準を押し付ける節があってね、何かと有名な君を見て暴走してしまった。雄英とは良い関係を築き上げていきたい。すまなかったね」

『良い関係…』

「それでは」


士傑の男に言われた言葉を反復した梓の表情は少し考えるように眉間にシワを寄せていて、気づいた爆豪は視線だけ向けると、「何」とそれだけ梓に投げかけた。

そこでやっと切島も梓の様子が少し違うことに気づく。というかこの些細な表情の変化がわかるなんて爆豪はどんだけ彼女を見ているんだろうと引きつつも「どした」と言えば、


『ん。…夜嵐くんは兎も角…、なんだあの女の人、異様に視線が合う』

「あのボディースーツか」

「あれ、さっき緑谷がなんか言ってた人じゃん」

『あの視線は……好きじゃないなぁ』

「「!」」


珍しいと思った。
彼女が話したこともない人を初見で好きではないと断言するなんて。
そんなタイプではないのを知っているからこそ驚いた。

別に殺気ないし、気にしなくて良いか!と楽観的に笑う梓に爆豪が顔をしかめる。


「気にしとけ」

『え?』

「万年ノーテンキのテメーが気になるって思ったんなら、それ相応の理由があるんだろうよ」

『あー…うん、わかった。気にしとく』


信頼してくれてる爆豪には申し訳ないが、根拠はない。自信なさげに笑いながら頷いていると、
夜嵐に轟が近づいていた。


「おい、坊主の奴。俺なんかしたか?」

「……ほホゥ。いやァ、申し訳ないっスけど…エンデヴァーの息子さん」

「!?」

「俺はあんたらが嫌いだ」


わぁ、一触即発。
傍観していた梓を含めクラス全員が顔を引きつらせた。


『本人に直接言うのかー…』

「え、轟何したんだ」


ざわつく中、夜嵐は続ける。


「あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいスけど、あんたの目はエンデヴァーと同じっス」

「夜嵐、どうした」

「なんでもないっス」


轟にエンデヴァーの話はタブーだと思っていた切島はヒヤヒヤしながら梓の耳元に顔を寄せると小声で、


「轟のフォローしなくていいのか?クラスじゃお前が一番仲良いだろ」

『え、フォロー?なんて?夜嵐くんは嫌いって言ってたけど私は嫌いじゃないから落ち込まないで!とか?お前のことは聞いてねーよって感じじゃない?』

「ちげえ!ほら!…エンデヴァーのこととかさ、あいつ気にするだろ。夜嵐が色々言ってたしよ」

『エンデヴァーって…轟くんのお父さんの?なぜ今お父さんの話?』


素っ頓狂な声で聞かれ、切島はぐっと言葉を飲み込んだ。
そりゃ、轟はエンデヴァーの息子で、それを誰よりも気にしているのが轟だからだ。

なのに、梓はなんてことない顔でへらりと笑って、


『夜嵐くん、轟くんと轟くんのお父さんの目が一緒とか言ってたけどさ、親子なんだから似るの当たり前じゃんね!』

((太陽だなァ))


梓の言葉が聞こえた切島と瀬呂は、彼女に一際懐く轟の気持ちがわかり、しみじみと合掌をしたその時だった。
ジリリリリリ、とけたたましいサイレンが鳴った。


《敵による大規模破壊が発生!規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う!1人でも多くの命を救い出すこと!!》


控え室の箱が第一次試験と同じように展開し、視界に大損壊を受けたフィールドが広がる。


「始まりね。梓ちゃん、行きましょう」

『あっ、うん!』


蛙吹を追いかけて湖に行けば、そこには溺れているHUCや瓦礫に埋もれているHUCが大勢いた。


「東堂、水入っちゃって大丈夫なのー?雷はっ?」

『うん、流れの操作は小規模だったら雷は漏れないよ!三奈ちゃん達は瓦礫の方頼んだ!私は梅雨ちゃんと、水に入る!』

「おっけー!健闘を祈る!」


足並み揃えて水に飛び込んだ梓と蛙吹を見送ると、尾白と常闇、芦戸は2人のフォローをしつつ周りの救助を始めた。





自分の周りの水流を操作して泳ぐ。
無駄のない美しい泳ぎだった。飛沫も立てないし無駄な音も立てない、そのため溺れている人の恐怖を煽ることなくふわりと側に現れる。


『ぷはっ、もう大丈夫だよ。息できてますか〜』

「うわぁぁあああん助け…てェ!!ひっ、ウォエッ」

『手足動くね、傷もない。水飲み込んだ?』

「飲み込んだァァ!!ゲッホ!ゴホッ」

『泣かない泣かない。掴まって』


笑顔を絶やさず対応する少女に周りの他校生は一目置いていた。


「天使やん」

「救助は苦手分野ってリサーチしてたんだけどなァ」

「あの蛙の子がリードしてくれてるお陰で余裕があるみたいよ」


『梅雨ちゃんこっち先に救助するねー!』

「私はもっと奥に行くわ」

「東堂、こっちだ!控え室に救護所が出来てるみたいだから連れて行く!」

『尾白くん頼んだー!』


水の中から助けた人を尾白に手渡した、その時だった。


ードオオォオン!!!


とてつもない爆音と爆風がフィールド全体を襲った。


「『!?』」


一際大きな爆発で壁が崩壊し、
そこから現れた敵達が砲撃をすることで至る所で爆音が響く。


《大規模破壊発生!!》


響くアナウンス。
尾白は救護者を抱えたまま立ち尽くした。


「嘘だろ…、ギャングオルカ!?」

《敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください》

「対敵時に並行処理出来るかも見ているのか!?ギャングオルカといえば、神野区の掃討作戦時に指名を受けたヒーロー…ランキング10、強いぞ!」


常闇の状況判断に尾白も梓も冷や汗を流しながら頷く。


「どうする…」

『どうもこうも、こっちを疎かにするわけにはいかないし…』


今は救助中だ。水に適性のある人間が踏ん張らなきゃいけない。
だが、敵が発生した場所は救護所の近く。
あの周りにいるヒーローに制圧をお願いしてこちらに集中するか?


(でも、あの辺りにギャングオルカを制圧出来るほどの実力の人いるのかな…!?)


梓が迷っていれば、後ろから蛙吹の声が飛んだ。


「梓ちゃん、適材適所よ!」

『え…!?』

「蛙吹…、そうだな。東堂、行け」

『常闇くん…?』

「ギャングオルカを制圧するには、あなたの力が必要…!こっちは私に任せて、梓ちゃんは行って!」

「行け!!1A女子のエース!こっちに敵がこないようにさ!!」

『梅雨ちゃん…三奈ちゃん…!』


背中を押す尾白、言葉で押す常闇、蛙吹、芦戸。
梓は少し驚いたような顔をしたものの、すぐに顔を引き締めると湖から飛び出した。


『行ってくる!!』


適材適所とはまさにこの事。
蛙吹は頼もしい背中を見送ると、あとで駆けつけると誓って救助を再開した。

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