訓練の日々は流れ、ヒーロー仮免許取得試験当日。
「緊張してきたァ」
『耳郎ちゃん深呼吸〜』
「梓、緊張しないの?」
『うーん、わくわくが勝る』
「「戦闘狂め!」」
「え、耳郎ちゃんは兎も角、峰田くんまでひどい!」
「だってよぉ、普通緊張すんだろー…試験で何やるんだろう、ハー仮免取れっかなァ」
「峰田、取れるかじゃない、取ってこい」
「おっもっ、モチロンだぜ!」
相澤の周りに生徒が自然と集まる。
彼は気だるそうな顔を少しだけ引き締めると、
「この試験に合格し、仮免許を取得できればおまえら志望者は晴れてヒヨッ子、セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
「っしゃあ、なってやろうぜ!ヒヨッ子によォ!」
「いつもの1発決めて行こーぜ!Puls…」
「ultraァ!!!」
『!?』
真後ろで上がった野太い声に梓はビックゥ!と肩を上げると前にいた相澤の腕に飛びついた。
『なに!?』
「勝手に他所様の円陣に加わるのは良くないよ、イナサ」
「ああ、しまった!どうも、大変、失礼致しましたァ!!」
ガバァッと風が吹くほど勢いよく頭を下げ、地面にガァンッ!と頭をぶつけたイナサに梓はますます相澤に身を寄せる。
「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような…!」
「東堂、くっつくな」
『だって!真後ろでウルトラァ!って!』
未だ相澤にくっついている梓の首根っこを掴んで引き剥がしながら爆豪が耳元で囁く。
「東の雄英、西の士傑」
『え。あれが?』
「数あるヒーロー科の中でも雄映に匹敵する程の難関校…士傑高校」
「一度言って見たかったっス!プルスウルトラ!自分、雄英高校大好きっス!!雄英の皆さんと戦えるなんて光栄の極みっス!よろしくお願いします!!」
「あ、血」
「行くぞ」
2人の士傑高校の生徒に引っ張られいなくなった嵐のような男。
それをぽかんと見送る生徒たちに相澤はぽつりと呟いた。
「夜嵐、イナサ」
「先生、知ってる人ですか?」
「すごい前のめりだな。よく聞きゃ言ってる事は普通に気のいい感じだ」
「ありゃあ…強いぞ。いやなのと同じ会場になったな。夜嵐、昨年度…つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにもかかわらず、なぜか入学を辞退した男だ」
「え!?じゃあ…1年!?ていうか推薦トップの成績って…」
「東堂、気いつけろよ」
『名指し!?なんで!?』
「類似の個性だ」
「「「嵐と類似ってヤバくねェ!?」」」
あの強烈個性の嵐と類似?しかも轟以上?
つまりそれは梓よりも強い?
梓も含めてA組の悲鳴が辺りに響いた。
『ど、どどどうしよ、私個性うまく使えないけどあの人使えてるのかな!?どうしよ!?』
「おおお落ち着け東堂、おまえは強い、やればできる!」
『エッほんと?切島くん目泳いでるけど!?』
「でも、変なやつだよな。雄英大好きと言ってたわりに入学は蹴るってよくわかんねえな」
「ねー変なの」
「変だが本物だ。マークしとけ」
もしも相対した時は、類似個性である自分が前面に前に出て戦わないといけないだろうなぁ。
相手も個性の調節下手くそだといいな、と他力本願していれば見透かされていたのか相澤に「気張れよ」と念を押され、ううむ、と重く頷いた。
「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」
ファンシーな格好をした女性に声をかけられ
今度は相澤が、先ほどの梓と同じようにびくっと体を揺らした。
「テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだな!」
「結婚しようぜ」
「しない」
「わぁ!!」
「しないのかよ!ウケる!」
突然現れ愛の告白かと思えば冗談だったようで、相澤はざわつく生徒たちよそにため息をついた。
「相変わらず絡みづらいな、ジョーク」
「スマイルヒーロー、Ms.ジョーク!個性は爆笑!近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせるんだ!彼女の敵退治は狂気に満ちてるよ!」
「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が気づけるんだぞ」
「その家庭幸せじゃないだろ」
「ブハ!!」
相澤先生に軽口言う人、プレゼントマイク以外で初めて見たわ。と顔を引きつらせる耳郎に梓も3回くらい頷く。
「仲が良いんですね」
蛙吹の問いにMs.ジョークは相変わらず楽しそうに笑っていて、
「昔、事務所が近くでな!助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと」
「なってない。なんだ、お前の高校もか」
「いじりがいがあるんだよな、イレイザーは。そうそうおいで、皆!雄英だよ!」
手招きをする彼女の元にわらわらと生徒たちが集まってきた。
「おお!本物じゃないか!」
「すごいよすごいよ!TVで見た人ばっかり!」
「1年で仮免?へぇ、随分ハイペースなんだね。まァ、色々あったからねえ。さすがやることが違うよ」
「傑物学園高校、2年2組!私の受け持ち、よろしくな」
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね。しかし君たちはこうしてヒーローを志し続けてるんだね、素晴らしいよ!不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素質だと思う!」
(((まぶしい)))
勢いよく前に出た真堂と名乗る少年は緑谷、上鳴、耳郎と立て続けに握手をするとバチコンッと爽やかにウインクをした。
その爽やかな笑みがぐるん、とこちらを向き思わず梓と爆豪は揃って同じ体勢で一歩下がる。
「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くんと東堂さん、君たちは特別に強い心を持っている」
手を差し出され、握手を求められる。
「今日は君達の胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
その目が戦闘前の自分と同じようにギラついていて、梓は挑戦的に口角をあげた。
差し出された手を爆豪がパシン、と払い「フカしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねえんだよ」とあしらうが、梓は爆豪が払った手を取るとぎゅっと握手をして、
『なぁに、宣戦布告かよ。いいね、やる気出るわ』
「ここにも別の種類のイケメンが!」
葉隠の興奮する声と「イケメン対決!」とはしゃぐ麗日をよそに真堂は面食らっていた。
まさかそう返されるとは、動揺を隠すようにパッと手を離せば
『あはは、宣戦布告返し。そんなに挑戦的な顔するものだからつい、血が騒いだ!』
「…東堂梓ちゃん、巷じゃアイドルヒーローだなんだって騒がれてるけどとんでもないね」
『アイドル?なにそれ?』
「こら!おめーら失礼だろ!すみません、無礼で…」
ぐい、と2人が切島によって後ろに引っ張られてやっと真堂はいつものよそ行きの顔に戻った。
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
そう?と笑っていれば相澤に頭を叩かれ梓はあいた!と小さな悲鳴をあげる。
「所構わず喧嘩を買うな、キリないぞ」
『えー…そんなつもりでは』
「よし、皆、コスチュームに着替えてから説明会だぞ、時間を無駄にするな」
「「「はい!」」」
相澤の声かけに全員がテキパキと動き出す。
サイン書いてと強請られていた轟が逃げるように梓の隣に並び、一緒に建物の中に入った。
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