「お前には個性がある」
父の部屋に通され好物のりんごを出され、さっきまで怒っていたはずなのにそんな冗談みたいなものを真顔で言うものだから梓はしゃくしゃくりんごを食べながら笑った。
『お父さん、慰めてくれてるの?私がヘボだったから』
もしかして、その元気が個性だみたいな事を言ってくれるのだろうか。
父は99パーセント厳しいが1パーセント優しい時があったりする。今日はその日だろうか?と呑気に笑ってりんごをしゃくしゃくしていると、
ースパン!
『痛あ!』
緊張がとけて二個目のりんごに手を伸ばしたところで本でスパンと叩かれた。
「馬鹿が、本当だ。いや、個性があるというよりは、継承させる個性がある」
『いたた、え?』
「今日の件を中継で見て、決めた。お前にはまだ言っていなかったが、東堂家には代々受け継がれている個性がある」
『え?え?継承?は?』
「パニックになるな!」
またスパンと叩かれるが、痛みなど感じないくらいに梓は混乱していた。
ハヤテは続ける。
「順を追って話そう。東堂家は昔、その身体能力の高さゆえに人を守ることを生業とし、要人を警護する任務を国より仰せつかっていた。しかし超常社会となり、ヒーローという職業が出来、東堂家はお役御免となった」
『う、うん。東堂家からは、戦闘向きの個性を持つ人がいない、もしくは個性がない人ばかり生まれたから、ヒーローになることはなかったんだよね』
「ああ、その通りだ。表向きではな」
『表向き!?!?』
「たしかに東堂家は個性に恵まれない。が、個性というものが発現し始めた頃、東堂家にも一人だけ戦闘向きな個性持ちが生まれた。しかし、その者は病弱で体力もなく、加えて個性は扱いにくく、その者は個性に飲み込まれた。その者を助けようと、死ぬ寸前、個性を物に封印することが出来る個性を持った者が封印したが、時すでに遅く、死んだ」
『えっえっ?』
「その個性を封印された巻物がこれだ」
『えっ、なにそのテレビクッキングみたいなノリ!!なにそのファンタジーみたいな話!!』
うるさい、とまた本で叩かれそうになれ、三度目はくらうかと慌てて避けたところを2発目にパシンと叩かれた。やはり父は強い。
ではなくて、
『なんで、そんなものが』
父、ハヤテの手にある巻物。
『大体、そんな個性があるならなんで今まで誰も、』
「言っただろう、東堂家は個性に恵まれん。その代より、この巻物から人へ、個性を転移させるような個性を持つ者が現れなかった」
「…」
「梓、お前には秘密にしていたが、俺には個性がある。東堂家の例に漏れることなく、戦闘に不向きな使えない個性。血縁者から血縁者に対して個性を継承する個性だ。巻物に封印されちゃいるが、元の宿主は血縁者、恐らく継承できる」
俺もずっと自分のことを無個性だと思っていたが、死んだ父が個性を調べる個性でな。
と、頷くハヤテの声が頭に入ってこなかった。
「その個性を知った時、思ったよ。俺は、次の代に語り継がれているあの個性を引き継がせるために生まれてきたんだとな。それに加えて、超常社会に拍車がかかり、敵も凶悪になりつつある。やはり、この国の危機に東堂家は現れる。守ることが、東堂家の存在意義。そのための力を、お前に引き継がなければならない」
『…、今までおしえてくれなかったのは、何故?』
やっと絞り出した声はかすれていた。
ハヤテの目が細まり、「それは、お前が継承にふさわしいか見極めるためだ」と梓の頭に手を置く。
「巻物には、個性が封印されていることと、病弱な体故に個性を使いこなせず飲み込まれたことが書いてあった。だから、お前を強くした。これを引き継ぐ器にするために」
『…、弱い私じゃ、暴発して死んじゃうから?』
「それもあるが、いつも守るヒーローになると豪語しているが、人間の本質はピンチの時こそわかる。今日、無個性のお前が爆豪君を助けるために飛び出し、緑谷君にのびるヘドロを断ち切ったのを見た時、機は熟したと思った。お前の本質はやはり守護の人、まだまだ未熟だが、これを継承できると判断した」
『、お父さん…』
「だが、お前には拒否する権利もある。この個性は一度持ち主を殺しているし、俺も継承の個性を使ったことがない。お前が死ぬ恐れもある。いつも口うるさく守護を義務を語ってはいるが、そこまで俺も鬼ではない。どうする」
色んな事が頭に入って来すぎてパニック状態だったが、問われ、梓にとって答えは1つしかなかった。
ずっと、個性なんかなくたって、と思って鍛錬してきたが、昨日ヘドロ敵が爆豪を襲っているのを見て、思い知った。
無個性には限界がある。オールマイトが駆けつけてくれなければ、自分は、大事な幼馴染を2人失ってしまうところだった。
もう2度と、自分の力不足で敵に遅れを取りたくない。
まっすぐ父親の目を見る。
『継承して』
それでこそ東堂の血を継ぐものだ。
ハヤテは満足げに笑うと、少し緊張した面持ちで巻物の紐を解いた。
しん、と部屋が静まる中、2人で巻物を覗き込む。
「……では、行くぞ」
『う、うん』
「死ぬなよ、梓」
大きく頷いたのと同時、
巻物が光り、梓は気を失った。
(個性は、嵐だ)
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