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試験が始まって初めて合わせた目。
その大きな目は涙でうるんでいた。


(僕と、かっちゃんが泣かしちゃったんだ…!)


「てめっ放せっ」

「いいから!!」

「くそッ」

「…っ、梓ちゃん、泣いてたかも…!僕たちが馬鹿みたいに喧嘩して、馬鹿な事言ったせいで、一番泣かせちゃいけない子を泣かせちゃったかもしれない…っ」


爆豪はスゥッと怒りが消えるのを感じた。
それと同時に湧き上がってきたのは焦りや自分に対する嫌悪感。
咄嗟に後ろをむけば、追い風を起こしながら距離を詰めてくる身体中切り傷だらけの幼馴染がいて。
泣いてはいないが、乱暴に目元を拭い悲しそうな表情でこちらを見ていた。


「梓…、」

「かっちゃん、後で一緒に梓ちゃんの謝ろう…その前に試験をクリアしなきゃ!僕にはオールマイトに勝つ算段も逃げられる算段もとても思いつかないんだ」

「あ!?」

「諦める前に、僕を使うくらいしてみろよ!梓ちゃんのことを戦わせたくないのはわかるけど、一緒に守るって決めたんなら、かっちゃんも腹括って共闘しなよ!!負けていいなんて言わないでよ!勝つのを諦めないのが、君じゃないか!」


『いずっくん、ごめ、追いついた!』

「梓ちゃん、一旦そこの路地に入ろう!」


路地に入った2人に続くように梓も入れば、緑谷が掴んでいた爆豪を地面にどさっと置いて駆け寄ってきた。


「梓ちゃん…ごめん、ひどい怪我」

『っ、あんな敵が街に出て、人守んなくちゃいけないのに、私の心配はいらない!』

「、ごめん」

『オールマイト相手でも、2人と一緒なら大丈夫だと思った…いつも喧嘩しちゃってるけど、敵相手に勝つためなら、共同戦線はれるとおもってた!できないんなら、もういいよ、仲間割れしてる2人より、私1人のほうが強い』


ふんっ、と顔を背けて大通りへ向かう。
爆豪は梓の腕を掴んで止めた。


「チッ…黙って聞いてりゃ梓のくせにベラベラと…」

「かっちゃん、いい加減に、」

「二度と言わねーぞ、2人とも。あのバカみてえなスピード相手じゃどう逃げ隠れても戦闘は避けらんねえ」


やっとまともになったか。
梓は掴まれている腕を振り払うとまっすぐ爆豪を見上げた。


『そんなの知ってる』

「……、」


振り払われ、冷たい目で見られて、爆豪は目に見えてショックを受けて固まった。
緑谷は顔を青くしながら恐る恐る2人の間に割って入る。


「でも…戦いになんてならないよ。あのオールマイト相手に…」

「てめェ黙ってろぶっ飛ばすぞ!半端な威力じゃビクともしねえのはさっきの連打でわかった…。じゃあ、ゼロ距離で最大威力だ。ダメージを与えつつ、距離を取る唯一の手段」

「…なるほど。そうだね。梓ちゃんは、どう思う?」

『逃げか戦闘かなんて、守るためだったら戦闘一択だ。ただ、絶対に勝てない敵相手に応援を呼びに行かないといけないっていうなら、3人のうち2人を逃すっていうのはありなのかもしれない』

「つまり1人は、」

『足止め係。この中で一番機動力が安定していないのは私だから、私が足止めをする』


きっぱり言い切った梓に緑谷は狼狽えた。


「梓ちゃん、足止めなんて、」

『わかってる!そのうち突破されると思う。数秒しか止められないかもしれない。それでも、その数秒で君達がゲートを抜けることに賭ける』

「「…。」」


彼女の目は真剣だった。
真っ二つに折れた刀は使い物にならないのだろう。手には鉄パイプを持っている。
そんな、切り傷だらけの彼女に一番重い役を任せるなんて。

緑谷は思わず首を振りたくなるが、一番止めるであろう爆豪が真っ直ぐに梓を見下ろし、


「ああ、頼んだ」

『!』


まさかそう素直に任されるとは思っていなかったのだろう。
梓は少し驚いたように目を見開いたあと、やっと笑った。
この試験が始まって以来、初めて嬉しそうに口角をあげた。





「ごめんなさいオールマイト!!」


ードガァァァンッ!


ゼロ距離での特大爆破がオールマイトに炸裂した。

梓は路地裏で、その勢いのままゲートに駆けていった2人を見送ると、鉄パイプに雷と風を圧縮して纏わせる。
水も合わさってギュルルッと凝縮したそれは彼女の最大出力だった。

そして、突風を起こし爆風の中で膝をついたオールマイトの頭上に現れると、


「先生頑張っちゃうぞ!」

『ここからは私の時間だよ、オールマイト』


ーズガァンッ!!


頭上から落ちてきた雷と地面に圧しつける烈風にオールマイトは舌を巻いた。


(エッジショットのところで気配の消し方を学んできたか!)


そのまま爆風全体を大きく巻き上げ、彼女を中心に竜巻が起こり、雷がゴロゴロと激しくなり始める。


(最大出力!限界オーバー!!)


チリチリと皮膚が剥がれそうになるし、風雷だけでなく水も混ざるため脱水症状でクラクラしてきた。
が、


(ここで止めなきゃ、)

(おいおい、東堂少女、その出力は君がヤバイだろう)


東堂の縛りは知っている。
その意思は彼としても素晴らしいと思う。
ただ、相澤やマイクがやけに心配そうに梓を見ているのをオールマイトは知っていた。

この子もまだ15歳。


(身を削りすぎだ、東堂一族)


きっと彼女が身を削る理由はただ一つ。
守るため。自分の後ろのいる仲間を人を全てを守るため、きっと後ろに線を引いているのだろう。
このラインから先は行かせないと。

オールマイトはゆっくりと立ち上がると、


「この私を止めるか?東堂少女」


こくん、と強く頷き口角を上げた瞬間。
オールマイトに向けて竜巻がずどん、と落ちてきた。

咄嗟に竜巻に向かって拳打を放ち、風圧で竜巻が消し飛ぶ。


ーブオッ!!


が、上を向いていたオールマイトの横っ面に雷をバチバチと帯びた鉄パイプが打ち込まれた。


(今の竜巻が囮か!?)


少し気を取られたせいで打ち込まれたそれはシャレにならない威力で思わずオールマイトはゴホッと咳をするが梓は止まらない。

とんでもないスピードの鉄パイプ捌きだった。


ードガガガガッ!、ドォンッ!!



右手で鉄パイプを連撃しながら左手に圧縮した雷を派手に撃ち込む。
体育祭で仮想敵ロボットを一撃粉砕したそれにオールマイトがよろつく。


(流石!戦闘センスは群を抜くな!それに合わさる2人の退路を守るという守護精神、立派じゃないか!ただ、)

「東堂少女、荒削りな君の個性では私は倒れない!」

『っ!』


オールマイトが繰り出した拳打を間一髪で避けるが、それがギリギリすぎて二発目の攻撃に対応が出来ず梓は地面に叩きつけられた。


『う゛ァ!!』


目の前がチカチカする。
力の差を叩きつけられ絶望する。
ぐっと持ち上げられ、捨てるように投げられ、ゴロゴロと地面に転がってもう一度前を向いた時、オールマイトはすでにゲートに向かって走り出していた。


『うぅ…、強すぎ、』


梓は身体中痛みが走るのをなんとか堪え、もう一度ゆっくりと立ち上がるのだった。


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