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試験開始早々早速もめていた。


「ついてくんな!ぶっ倒したほうが良いに決まってんだろが!!」

「せっ戦闘は何があっても避けるべきだって!」

「終盤まで翻弄して、疲弊したところを俺がぶっ潰す!」

「うぅ…オールマイトを…な、なんだと思ってんのさ。いくらハンデがあってもかっちゃんがオールマイトに勝つなんて…」


ードカッ


裏拳で爆豪に殴られ倒れた緑谷に、今までぽかんと傍観していた梓は表情を変えた。


『かっちゃんダメだよ!かっちゃんの腕は物騒なものついててゴツゴツして痛いんだから!』

「るせえ、おいデク。これ以上喋んな。ちょっと調子いいからって、喋んな。ムカつくから」

「ごっ、試験に合格するために僕は言ってるんだよ…聞いてって、かっちゃん!」

「だァから!てめェと、お前もだ梓!てめェらの力なんざ合格に必要ねェっつってんだ!!」

『なんだt』

「怒鳴らないでよ!!それでいつも会話にならないんだよ!!」


自分を放置して派手な喧嘩を始めた2人に梓はうろたえた。
爆豪に必要ないと言われたことに怒る間もなく火花を散らせる2人をおろおろと見る。


(喧嘩してる場合じゃないのに!)


これは試験だ。試験だが、実戦を見据えたものでもある。
喧嘩をしている途中で会敵する場合もあるのに。
もやもやと2人の取っ組み合いを見ていた、
次の瞬間。


ードガァァァンッ!


とんでもない衝撃波が梓たちを吹っ飛ばした。
ここは、ビルに挟まれた大通り。
通りの遠く向こうからそれはいきなりやってきたのだ。


「街への被害などクソくらえだ」


土煙の中から見えるのはオールマイトだが、梓にはとてもじゃないがいつものオールマイトには見えなかった。


「試験だなんだと考えていると痛い目見るぞ。私は敵だ、ヒーローよ。真心込めてかかってこい」


平和の象徴である彼が、演技だとしても敵になったらこうも威圧感があるのか。
普段、敵に向けているであろう殺気をびんびんに感じとった梓は、一瞬でオールマイトを畏敬した。


(この威圧感は、ヤバイ)


畏れているのは緑谷も一緒だった。


「正面戦闘はマズイ!逃げよう!」

『んなこと言ったって、!』

(後ろに守らなきゃいけない人がいたら、逃げらんなじゃんかよ!)


受け止められる算段もたっていないが、咄嗟に抜刀し構える。が、ドンッと爆豪に押され、横に転げた。


『いてっ』

「退け!俺に指図すんな!」

「かっちゃん!」


ー閃光弾!


「オールマイト!言われねぇでも最初から、」


閃光弾を食らったはずなのにこれっぽちも効いていないオールマイトに顔を鷲掴みにされるが、


「そぉつぉぃあよ(そのつもりだよ)」


ードガガガガッ!


爆豪も負けん気だけは強かった。
その状態のまま、連続爆撃でオールマイトを攻撃したのだ。
あ痛たタタタ、とオールマイトの小さな悲鳴が聞こえる。
しかし、攻撃の連打の割には対して効いておらず、咄嗟に梓は地面を蹴った。


(やるしかない!)

(フツー顔掴まれたら反射的に引き剥がそうとするもんだろ!私をマジで倒す気…)

「しかないようだな!」


勢いよく飛び出した梓は、爆豪の頭を地面に叩きつけようとしたオールマイトの腕を横から切り落とすつもりで横一文字に斬る。


ーザンッ


避けられるがそれは想定内だった。
どさっと地面に落ちた爆豪を跨ぎ、オールマイトとの隙間に素早く入り込むとブワッと嵐を刀に纏わせ、


『下がれッ!!』


出力マックス。
爆発するような斬撃をオールマイトに飛ばした。


ーズガァンッ!!


その一連の流れが一瞬だった。
暴風と雷で数メートル後ろに下がったオールマイトは思わず口笛を吹く。


(恐れをこうも簡単に飲み込み、真っ向勝負するとは!)


「東堂少女、君が守るべき対象は1人でいいのかな」

『っ、かっちゃん早く立って!、いずっくん、前!』

「緑谷少年、チームを置いて逃げるのかい?」


自分に向いた矛先に震え上がった彼には梓の声など聞こえていない。
フルカウルを発動し逃げるように咄嗟に後ろに飛ぶ。


「おっと、そいつは…よくない」

「バッ、どけ!!」

「かっちゃ…」

(ああもう!)


空中で爆豪と衝突しそうになり、咄嗟に梓は風を起こして飛び上がると割って入った。
左右に2人をいなし、衝突を回避する。


「梓ちゃ、ありがとう…!」

『2人とも、いい加減に』

「あ、かっちゃん、…だから!正面からぶつかって勝てるはずないだろ!?」

「喋んな、勝つんだよ、それが…ヒーローなんだから」


話聞いてないし、また喧嘩が始まった!
ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
着地してすぐに臨戦態勢にはいった梓に対し2人は未だ言い争いをしている。


「じゃあ尚更ここでの戦闘は…」

「離せ、触ん、」

『いったん黙れ!!!』

「「!?」」


大きな怒声に2人は肩を揺らしてピタッと言い争いをやめた。
声を発したのは、いつもにこにこふわふわして2人の喧嘩を見守る幼馴染の女の子だ。
爆豪と喧嘩をすることもあるがじゃれ合いのようなもので、
あまり彼女が怒ったところを見たことがない2人にとってそれは衝撃だった。

梓は2人に背を向け、オールマイトて睨み合い刀を構えて腰を低くしている。
まさしく臨戦態勢。


『だまれ、2人とも邪魔だよ…!あれが敵で、背に守るものがあって、それでもそんなみっともない言い争いするの!?!?』

「「……」」

『身内でもめんな。足手まといだわ』

「「……」」

『邪魔だから、下がれよ』


まさしくかんかんに怒っている梓に緑谷はショックを受けて固まり、爆豪はぽかんと口を開けていた。

ここまで2人をフォローするばっかりでイライラが溜まっているとは思っていたが、まさか戦場で全力で叱りつけるとは思わず、オールマイトも唖然としている。


(び、びっくりした‥、が、私への警戒を一ミリも緩めないところは流石東堂の子)


彼女の叱責でどう変わるか。
最初の衝撃波で壊れたガードレールを掴むと、勢いよく地面を蹴った。

一瞬で距離が縮まり、薙ぎ払うように横からガードレールが迫る。瞬間移動かよ!と咄嗟に梓は刀で受け止めようとする。
否、受け止められるものでも往なせるものでもないとわかっているが、それ以外に反応ができなかった。


ードガァンッ!


案の定吹っ飛ばされビルに突っ込んだ。
ガラスを派手に割り、身体中切り傷だらけのまま地面を転がる。


『っ痛ぁ…(警戒緩めてないのに避けられないとか強過ぎ!)』


刀は真っ二つに折れていた。
軋む身体中に鞭を打って立ち上がり、急いで大通りへ戻るが、


『あっ…!』


自分が吹っ飛ばされた数秒の間に緑谷はガードレールで地面に縫い付けられ、腹パンを食らって呻いている爆豪にオールマイトが語りかけていた。


「もったいないんだ君は!わかるか!?わかってるんだろ!?君だってまだいくらでも成長できるんだ!でもそれは、力じゃない…」

「…黙れよ、オールマイト…!あのクソの力ぁ借りるくらいなら、負けた方がまだ……マシだ」


その一言に、梓は怒りがこみ上げてきて絶句した。失望だった。

あの時、一緒に守ってくれると、手を引っ張って、深いところか引っ張り上げてくれたのに。彼にとって勝利とはそんなものだったのか。
その“クソ”が自分と緑谷の事なのかはわからないが、そんな事どうでもよかった。

梓にとって勝つ事が守る事。勝つ事が全てだった。そんな、クソみたいなプライドで彼は負けてもいいと思うのか。

その感情で、人を守れなくていいと思っているのか。

その時。


ードカァッ!


怒りと失望で立ち尽くしている梓に代わって、爆豪を力一杯殴ったのは緑谷だった。


「負けた方がマシだなんて、君が言うなよ!!」

『っ…』

「守るんだろ!!梓ちゃん助けるんだろ!?」

『いずっく、』

「梓ちゃん!!」


暴れる爆豪を掴んでその場を離れる緑谷と目があった。
幼馴染だからこそわかる。


(こっちに来いってか!)


先程までとは打って変わって目の色が変わった緑谷に梓は悔しさで溢れそうになっていた涙を乱暴に拭うと、オールマイトの横を駆け抜けて2人を追いかけた。

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