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相澤とともに玄関をくぐれば、九条が驚き慌てた。


「エッ先生、なんでまた。もしかしてウチのお嬢がなにか?」

「いえ、ハヤテさんが亡くなられて間もないのに大変申し訳無いのですが、新しい後見人の方に学校へ提出していただく資料の捺印等頂きたくて」

「そんな、お嬢に持たせていただければ明日にでも提出しましたよ。よほどお急ぎと見える。なにか、別件でも?」

「良い機会ですので、後見人の方と色々とお話ししておきたいと思いまして」

「そっちがメインかい」


そういうのって、事前に連絡入れるもんなんじゃないの?まあいいけどさ。
九条は苦笑いすると、さあさどうぞ、と相澤を居間に通した。


「お嬢は同席してもらいます?」

「私はどちらでも」


なら同席してもらおうか、と九条がお茶を運びながら梓に声をかけようとした時、廊下から水島がひょっこり顔を出した。


「九条サン、心操来たぜ」

「お、早速来たか。えーっと、お嬢!心操君を出迎えてやってくれ!あと、稽古場に掛ける木札が届いてるはずだから、掛けてやんな!」

『はいよ!相澤先生ごゆっくり〜』

「おう」


水島さん一緒にきてー!
梓は制服のまま水島を連れて玄関まで心操を迎えに行った。


『心操君、勝手に上がってくれていいよ!玄関からまっすぐ進んだ右手にあるのが稽古場で、向かいが使ってない部屋だから、心操君専用!そこに道着を置いてあるから、水島さんに着方を教えてもらってー!』


バタバタとそう説明した梓に、心操は圧倒されたまま「えっ、俺専用の部屋?え?」と混乱する。
が、待ってはくれないらしく、水島に部屋に引っ張り込まれると慌ただしく着替えが始まった。


「お嬢、木札は俺の部屋!」

『はぁい!』


水島が大きく叫べば梓がバタバタと遠ざかっていく。
着替えが終わって、水島とともに稽古場に足を踏み入れたところで木札を持った梓が戻って来た。


『おまたせ!木札あった!』


へらりとわらって見せたそれには心操と名が彫ってあって、


「それ掛けるんは当主の役目だぞ、お嬢」

『届かないよ!水島さん、肩車!』

「はいはい」


水島に肩車された彼女の手で木札が壁に掛けられたのを見て、心操は高揚した。
やるしかない。ヒーローになるために。
道を示してくれた梓や相澤に応えるために。


「ウチは流派なんてもんはねェ。実戦の中で自分に合った型を見つけるスタイルだ。ま、心操の場合そもそもの基礎がないから体作りが先なんだが、ここでそれをするのは勿体ない。メニュー組んでやるから家でやれ」

「はい」

「ここでは、技や身のこなしを盗んでいけ。まずは避けることに重点をおく。一番大事だぞ」



筋トレは家でやれ。
まずは回避の練習。立て続けに言われ、心操は首を傾げた。
てっきり、パンチやキックの打ち込み方などの基礎練習から始まると思ったのだ。

彼の思考を読むかのように水島がニヤリと笑う。


「心操、戦闘は何かを守るためにするもんだよ。守る事において一番大事なことはなんだと思う?」

「え、オールマイトみたいな、強さ?」

「死なねェことだ!な、お嬢!」

『うん、死んだら守りきれないよ。死なないために、敵の攻撃を避けなきゃ。カウンターも入れられないし』

「そういうことっ!じゃ、この5m×5mの枠の中で俺と鬼ごっこな!俺はハンデとして右腕は使わねェ、5分逃げ切ってみせろ」


稽古場の床には、テープで四角の枠が取られている。


「5分間逃げ切れるようになったら、次のステップに進む。さて、いつ次に進めるようになるかな。あ、個性使うなよ?」

「はい、すぐに捕まえてみせます」


心操がゆっくりと足を踏み入れると同時に、水島が笛を鳴らす。
そして、鬼ごっこが始まった。

この時はまだ、鬼ごっこを一ヶ月も続ける羽目になるとは思っていない心操だった。


(エッ速…、瞬殺された…!)

((あははははは!))

(お嬢、先生帰るってよー!見送りー!)

(あっはーい!)

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