33ヒーロー名
教室に戻ってきたら一限目のヒーロー情報学が始まっていた。

今日はヒーロー名を考える授業らしく、次々と教壇に立って発表していくクラスメイト達に梓は首を傾げた。


『なんでミッドナイト先生が?』

「相澤先生、ヒーローネームの査定のセンスないからってミッドナイト先生に頼んだんだってさ」


耳郎にそう言われ『へぇ』と納得しつつ、机に置かれたボードを見ていると、相澤から「東堂、爆豪」と幼馴染とセットで名前を呼ばれた。


「他の奴らにはさっき言ったが、お前らに簡潔にもう一度話す。先日行ったドラフト会議の結果がコレだ」


黒板に表示されたそれに、2人は少しだけ目を見張った。そのあとすぐに梓の顔が不服そうにぷくっと膨らむ。


「爆豪3556件、東堂は1249件、クラス内じゃ2位と3位だ」

『うわ、負けた。なんだよもーー…かっちゃんのせいだ』

「なんでだよ!」

『どうすんのさ、帰ったら九条さん怒ってるはず』

「知らねェよ。水島サンの後ろに隠れとけ」

『水島さんはいつだって九条さんの味方だよ。んー…ん?かっちゃん1位だったのに指名数は2位だ。轟くんに負けてる!そりゃそうか、表彰台で拘束されるなんて素行悪すぎてビビるよね』

「ビビってんじゃねーよプロが!!」


「1200件以上指名きてんのにか悔しがってるのもすげぇけど、爆豪にズバズバ言う点は勇者だよなァ」


2人の掛け合いを見ていた瀬呂に言われ、緑谷はいつもだよ、と苦笑する。


「これを踏まえ、職場体験に行ってもらう。そのためのヒーロー名だ、雑につけんなよ」

「そういうこと!じゃあ2人とも考えて!みんなは発表し始めてるよ」


耳郎ちゃん何にした?
イヤホンジャック。梓決めてないの?
なんにも決めてない、どうしよ。
前の席の耳郎に話しかけつつ、とりあえずペンを握りまっさらなボードと睨めっこする。

教壇では発表が再開されていた。


「この名に恥じぬ行いを。万物ヒーロー“クリエティ”」

「“ショート”」

「名前!?いいの!?」

「あぁ」

「漆黒ヒーロー“ツクヨミ”」

「夜の神様!」

「“グレープジュース!”」

「ポップ&キッチュ!」


テンポよく進む中、ただ1人爆豪だけが「爆殺王」と発表しダメ出しを食らっていたが、他のクラスメイト達は順調のようだった。


「次、麗日さん!」

「考えてありました。“ウラビティ”」

「シャレてる!うん、みんな思ったよりスムーズね。残ってるのは、再考の爆豪くんと飯田くん、東堂さん、そして緑谷くんね」


一通り発表が終わったらしい。
ミッドナイトと目が合い、梓は慌ててクリップボードにパッと思いついたヒーロー名を書いた。


(思いつかないけど、これなら!)


その間、飯田がヒーロー名として自分の名前を発表する。
梓は迷いつつも急かされるように教壇に立った。


「次、東堂さんね」

『はい、ヒーロー名は“リンドウ”、です』

「リンドウ?なぜ?あなたの個性、嵐よね?」

『あ、はい。リンドウは、うちの家紋なんです。花言葉は、正義とか誠実、勝利。一族の、生き方を表している花だから』

「だから、リンドウ。家紋を背負うのね」


その優しい目は背中を押すようで。
梓は導かれるように頷いた。
背負おう、家紋を。そしていずれは全てを。
その意思表示のための名前、一族を知るものはリンドウという名前だけできっとピンとくるだろう。
そういうプレッシャーを背負う意味でもこの名がいいと、梓は覚悟した目できゅっとボードを握る。


『がんばります。この名に恥じぬように』

「梓ちゃん、リンドウってかっこいいと思う」


次の発表を待つ緑谷にありがと、と笑顔を向けると、梓はすっきりした表情で席に戻った。


「完全に吹っ切れた?」

『その節は、耳郎ちゃんにもご迷惑おかけしました〜』

「抱え込むのやめてよね」


ずっと心配してくれていたのだろう。
嬉しそうに笑っている耳郎に梓はもう一度ごめん、と笑った。

教壇では緑谷がクリップボードを持っていた。
そこに書いているのは幼い頃から聞いてきた彼への蔑称“デク”の二文字。

「!?」

「えぇ!?緑谷いいのかそれェ!?」

「うん、今までは好きじゃなかった。けど、ある人に意味を変えられて、僕には結構な衝撃で、嬉しかったんだ」


そう言って顔を上げた彼はすっきりとしていて、


「これが僕のヒーロー名です!」


誇らしげな彼に、梓は一番に拍手をしていた。


(いいと思う!じゃ、いずっくんじゃなくてでっくんだね!)

(え、梓ちゃん、それはちょっと、いずっくんのままがいい)

(え。)

(えっなんで戸惑うの)

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