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先ほどまでの涙を引っ込めて、梓は引きつり気味に隣を見上げていた。
そこにいるのは、一位の表彰台に登っている爆豪勝己。
オールマイトがおつかれさまでした!と噛み合わない締め方をする中、とりあえずぱちぱちと手を叩くものの、目は爆豪から離さない。


『か、かっちゃん…』

「ああ!?」

『ひい』


つり上がった目をぐるん、と向けられ思わず緑谷と同じような悲鳴をあげてしまった。


「爆豪君は私に任せて、東堂さんと轟君は教室に戻っていて」


ミッドナイトに促され、拘束されている爆豪を残したまま表彰台から遠慮がちに降りる。
本戦リーグ中に八つ当たりのような言い合いをしてしまった轟と並ぶのが気まずくて、早足で教室に向かう中、


「東堂、」


ごった返す人混みの中から声をかけられハッと顔をあげた。
聞き覚えのあるこの声は、


『心操くん』


人混みをかき分けてこちらにくる彼に普通科の生徒たちはざわついていて、


「心操、あの子と知り合いなのか!?」

「ヒーロー科、東堂梓…!3位じゃん!」

「そういや騎馬戦組んでたっけ…」


ざわつくクラスメイト達に見向きもせずずんずんと梓との距離を詰めると、目の前でピタリと止まった。
見下ろす彼はまるで泣きそうで、グッと唇を噛み締めている。


『な、なに?』

「意味が、わかった」


俯く。まるで泣いているような仕草にどきりとする。


「あんたが言ってた意味…。あんたが体現しただろ、個性だけじゃない、自分自身の強さが武器だって」

『……心操くん、私、負けたから…あんまり説得力ないかもしれないけど、鍛錬は無駄じゃないよ。それだけは断言できる。その個性に、武術剣術が合わされば、いざという時に人を守れるよ』


私はそう習った、とへらりと笑う。
心操は顔を上げた。少し泣いたのかもしれない。赤い目でぐっと前を向くと「絶対諦めねえ」と言い残し、普通科の生徒達の波に消えていった。


「…騎馬戦、組んでた奴だろ?知り合いなのか」

『んー、騎馬戦中に知り合った』


少し気まずいと思っていた轟が隣に並び梓は頭をかきながらそう答えた。


『彼の個性、洗脳だからさ。騎馬戦の時、轟くんからのお誘いを無視しちゃってごめんね』

「いや、別にいい。様子がおかしいのは気づいてた。それより、東堂…」

『なに?』

「悪かった」


彼が謝るものだから、思わず目を見張った。
なんで謝るの?私の方が八つ当たりしたのに。
思わずへにょりと眉が下がる。


『私が悪いよ、さっきはごめん。余裕なくて』

「いや、俺も余裕がなかった」


たしかに。
お互い自分の事情で精一杯で余裕がなかったのかもしれない。
轟は緑谷に救われ、梓は爆豪に救われた。


「…、今日、天気良かったんだな」


空を見上げる轟につられて梓も上を見上げる。
晴天だった。

ああ、ずっと俯いていたせいか首が痛い。
上を向くことで、空が青く広く、心が軽くなった。


『気づかなかったなぁ…』

「ああ、」

『あの2人は、容赦なく壁を壊してくるから、びっくりしちゃうよねぇ…』

「、そうだな」

『轟くん』

「ん?」

『前向けそう?』

「……わからねえ。ただ、」

『?』

「明日、母さんに会ってみようと思う」

『そっか』

「お前は?」

『え?』

「色々聞いた。お前の事情」

『え、だれに?』

「お前と爆豪が戦ってる時、緑谷達が話してるのを盗み聞きしてた」

『ああ…そうなんだ。うーん、』

「吹っ切れそうか?」

『、背負うものに変わりはない、けど、困ったら、かっちゃんやいずっくんを頼ることにする』

「……」

『まだ、いろんなことに迷ってるけど、ひとりで背負ってたらつぶれちゃう、から、少しだけ、誰かを頼ってみようかなって』


そう言ってまた空を見た梓の横顔はどこかスッキリしていて、ぼーっと見ていたらこちらを向き、ぱちっと目が合う。


「……、よかったな、東堂」

「あはは、君もね」


それだけ。
お互い眉を下げたまま少しだけ笑った。


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