28

轟対飯田が轟の勝利に終わった。

1-Aのクラスメート達は次のバトルにヒヤヒヤしていた。

《準決二戦目!おおっと、幼馴染同士の対決かァ!?ここまでお互い圧倒的な戦闘センスで勝ち上がってきた、爆豪バーサス東堂!!俺、東堂応援する!》

《私情挟むな》

「2人とも、用意はいい?」


ミッドナイトの声かけに、梓は爆豪から目を逸らさないままコクリと頷く。
彼もまた、睨みを利かせていた。

そして、


「じゃあ、START!!」


ミッドナイトの声が会場に響き渡ったのと同時、爆風が梓を襲った。


ードガァン!!


《うわァ!容赦ねえ!!》


が、梓は一瞬のうちに回り込んでいて、


ーバリィッ!ドォン!!


煙幕の中に稲光が走り、爆風で視界が開け、
気づけば梓の蹴りを爆豪が寸前で受け止めていた。


「あいっかわらず、とんでもねェスピードだな…!」

『とんでもない反射神経だねっ!』


くるりと体を反転させると二打三打と食らわせようとするが、全て避けられカウンターで爆撃される。
が、一瞬で爆豪の手首を掴むと手のひらを空にあげ爆破を防いだ。


《上手い!!》


そのままもう片方の手に雷を這わせ、拳打を打ち込もうとするが、


「あめェよ!!」


ガァンッ!と頭突きされ梓はうめき声とともにふらついた。瞬間、爆破をお見舞いされ、咄嗟に地面に転がる。


『いったァ…!この石頭!』

「てめェに言われたくねえわ!こっちもいてーんだよ!」


お互い額をさすりながら一旦距離をとる姿に思わず実況のプレゼントマイクは《バカなの?》と言葉をこぼす。
観客席のクラスメート達は、2人の本気のバトルが意地のぶつかり合いに見えて、固唾を飲んで見守っていた。


「梓ちゃんの身のこなしヤバイよね…あれ、センスだけじゃどうにもならなくない!?」

「透ちゃんの言う通りね。梓ちゃん、とっても速いわ」

「さっき初めて東堂と戦って思ったけどさぁ、一瞬で後ろにいるし、気づいたら距離詰められてるし、なんか瞬間移動みたいに見えるんだよね〜。すごいと思ってはいたけど、まさか常闇負かして爆豪と張り合うとは!」


戦うことが得意って言ってたけど、ここまでとはねーと素早い2人の動向を目で追いながら芦戸は引きつり笑いを浮かべる。


「でも、いつも東堂さんって余裕を持って戦ってるイメージだけど、いまの彼女は余裕ないよな。まるで、生き急いでるみたいに」


ポツリとこぼした尾白に上鳴は微妙な表情で俯いた。
耳郎も切島も緑谷も同じ表情をしていた。
葬式の後、あの屋敷を訪ねた彼らは、少しだけ彼女の事情を知っていた。

だからこそ、梓が何に追い詰められているのか、爆豪や緑谷が何故ああまで彼女に干渉するのか察しがついていた。


「梓ちゃん…、あの動きを手に入れるまでにどんだけの特訓したんだろうなぁ」


いつも明るい上鳴にしては憂いを帯びた声音だった。


「きっと、ずーっとだぜ?俺たちがまだ公園で遊んでるような頃からずーっと、梓ちゃんはあの屋敷の中で、特訓してたんだな」

「え?」


首をかしげる芦戸や葉隠。
蛙吹は「上鳴ちゃん、何か知ってるの?」と口元に手を当てた。


「そういえば、上鳴ちゃんは梓ちゃんのお父様が亡くなったと知った日、緑谷ちゃん達と一緒にお宅訪問したのよね」

「あーうん。耳郎も、切島もな」

「私、思ったことはなんでも言ってしまうの。梓ちゃん、お父様が亡くなった日から様子がおかしいわ。もちろん、唯一の頼れる身内がいなくなったのだから、それはあたりまえ。ただ、あなたたちは、何かほかのことを気にしてる気がするわ」


ずばり、そう言った蛙吹に上鳴はぐっと唇をかんだ。
切島も耳郎も心配そうな顔でフィールドから目をそらさなくて、シン、と静まる。

そこで、最初に口を開いたのはずっと黙っていた緑谷だった。


「あまり本人がいない場で赤裸々なことは話したくないんだけど、いずれわかることについては僕から話すよ」

「緑谷ちゃん…」

「簡単に言うと、梓ちゃんの生まれた家は、古来から守護精神を強く持った守護の一族なんだ。個性がなかった頃、人を守るための仕事をしてたのが梓ちゃんの先祖達だ」


蛙吹はケロ…と言葉を失った。


「ただ、超常社会になってから、東堂一族はあまり表に出なくなったんだ。なぜなら、個性に恵まれなかったから」

「成る程、そんな中、最近奇跡的に個性を発現した東堂さんは、一族の守護精神を体現するための希望ってことか!」

「希望っつーかプレッシャー半端ねーだろそれ!!」


顔を青くした尾白と瀬呂に緑谷は神妙に頷く。


「梓ちゃん言ってた。個性が発現したとき、お父さんに言われたって。『超個性社会に拍車がかかり、敵も凶悪になりつつある。やはり、この国の危機に東堂家は現れる。守ることが、東堂家の存在意義だ』って」


とんでもないものを背負わされている同級生に一同は絶句した。


《爆豪、容赦ねェ!!立て続けに爆撃するが、東堂のやつ全部避けるどころか砕けた破片を風で巻き上げ忽ち攻撃力抜群の突風が爆豪を襲う!!なんだこの戦い!イレイザーお前のクラスやべえな!》


爆風と稲光を炸裂させながら派手にぶつかり合う彼女はとてもちっぽけで。
未だ彼らは引きつり気味に梓と爆豪の意地のぶつかり合いを見ている。


「僕も、かっちゃんも、梓ちゃんがそれを全部背負うのはまだ先だって思ってた…」

「そんな中、突然お父様が亡くなられたのですね…」

「うん…」

「お前と爆豪が動揺してた理由がやっとわかったぜ」


苦笑まじりにぽつりと言った佐藤に耳郎は唇を噛み締めながら頷いた。


「あの日…梓に会いに行った日。あいつ、集まってきた親戚に排除されそうになってた」


耳郎の握る拳に力が入る。
まわりは騒然としていた。


「勝手に、お父さんのあとを別の人に継がれそうになってて、転校の手続きとかされそうになっててさ」

「東堂のやつ、まだ混乱して気持ちが追いついてねえ筈のなのに、そういうやつらに手出しさせないために慌てて親父さんの後継いだんだよ。男らしくてかっけーって思ってたけど、多分そんな簡単な話じゃねぇんだよな」


だって、あの爆豪があんなに必死になってる。
切島は祈るような目で爆豪を見ていた。
彼が梓を特別視しているのはずっと気づいていた。
ただ、それを表に出すことはなかった。

そんな彼が、こんな公の場で、梓にまとわりつく呪いのような一族の思想を引っぺがそうとしている。
それが梓にとって良いのか悪いのかはわからないが、どうか彼女を救ってほしいと、そう思っていた。


「オラァ!!!ぜってえ、負かしてやらァ!!」

『私だって!!負けらんないよ!』


ードガァン!!


『かっちゃんにはッ、悪いけど、!ここはひけない!!だから!私の道からどいて!!』

「どかねェ!!ぜってえどかねェ!!ガキの頃からムカつくんだよてめーは!!」


小さくだが、聞こえてくる2人の怒声。


《え?なに?喧嘩?幼馴染喧嘩し始めた!?イレイザー!どーすんだ!》

《ほっとけ、消化させてやれ》


ドォンッ!と一際大きい爆発によりフィールドが破壊される。
瓦礫が竜巻によって舞い上がり、爆豪を攻撃するが、


「勝手に、守るとかぬかしやがって、無個性のくせに、勝手に人のこと背負おうとしやがって…、なにが東堂だ、なにが、守護だ!!!」


麗日戦の時よりも大きな爆発で瓦礫を粉々に吹き飛ばした。癇癪を起こしたようなそれは、爆後らしからぬ後先考えない攻撃だった。

事情を知ったからこそ、彼の言葉が想いが沁みた。

梓も動揺していた。


『な、なんなの、かっちゃんには関係ない…、私がどうしようが、かっちゃんは東堂の家の者じゃないから、なにも関係ないじゃん…、』


梓の声も震えていた。が、


「馬鹿かテメーは!!!」


爆豪から聞いたこともないほどのヒステリックな怒声だった。
思わず梓は瞠目し、爆豪を窺い見る。

彼は、戦闘体制のままで俯いていた。


「てめぇが、その東堂家の当主で、俺の幼馴染でもなんでもねぇんなら、好きにすりゃあいい。お前にとって俺も、デクも、ただの守る対象なら勝手にしろよ…」

『、っ』


まるで、泣いているような声音だった。
震えていた。が、爆豪はキッと顔をあげると梓を睨みつける。


「けどなァ、俺ァそうは思ってやらねえ。お前が!どんなに自分のことを東堂家当主とか守護だと言って押し殺しても、俺ァ絶対にお前をそういう存在だとは思わねぇ!」


言い切った爆豪に耳郎は息をのんだ。
まさか彼がそんな言葉を言うなんて。


『なっ…、私はそうやって生きなきゃ、今まで何百年と組んできた流れがあるんだ、責任が、私でこの荷を下ろすわけには』


ずっとそう思っていた。
なのに、梓が認めているのに。


「だからどうした?守れなんざ頼んでねーよ、ふざけんな!!!」


すると梓は一瞬、呆けたもののすぐに泣きそうに顔を歪めて、


『でも、古からの教えで、この命は人のために、。それに、死んだお父さんも、お母さんもそうやって生きて、』

「知るかァ!!!」


ードガァンッ!


あっさりだった。
あまりにあっさり。
それに梓は頭を殴られたような感覚になった。

彼の一言一言が、主張が理解できなかった。
守れなんて言っていない。
そして最後には、知るかって。

あまりに投げやりで、なにも考えていなくて。
馬鹿馬鹿しくて、梓は、なぜか涙が溢れてきた。

爆豪にも緑谷にも泣いたところなんて見せたことないのに、周りにはたくさんの観客がいて、クラスメートたちも見守っているし、そしてなにより東堂家の事を知る関係者達もテレビを通して当主である自分を見ているだろう。
絶対に涙なんて見せちゃいけないのに、それですら馬鹿馬鹿しくなってくる。


『かっちゃん、バカなの…』


声が震える。
それに勘弁してくれと思う。
みっともなく涙が流れ続けて、


『かっちゃん、いずっくん…一緒に、守って、』


やっと出した結論がそれだった。

東堂家としての歴史と責任、守護精神を捨てることはできなかった。
が、梓は初めて人を頼った。
2人の幼馴染に、その荷を少しだけ分ける事を選んだ。

爆豪の口元が上がる。
観客席から固唾を飲んで見守っていた緑谷もガタンを席を立ち、


「当たり前だろうが」

「梓ちゃん!!一緒に!!守ろう!!!」


緑谷の絶叫が梓に届いた時、静まり返っていたはずのドーム内に割れんばかりの歓声が響いた。

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