轟と話して、轟が左を使った。
2人の戦いを見て、梓の余裕はなくなっていた。
飯田が塩崎に勝ったのを見届けると、すぐにフィールドに入る。
相手は、常闇踏影。
《一対一なら最強か!?常闇!まだまだ本気は見せてねェ!唯一残った女子、東堂!!》
「個性が安定しない東堂に対し、黒影使いこなしてる常闇は強敵だよな。生身じゃねーから体術あんまり効かねーし」
最初の戦闘訓練の時みたく、武器持てたら別だけどな、と言う瀬呂に周りはたしかにと頷くが、
麗日はとなりに座る緑谷に、でも、梓ちゃんの雷は常闇君に有効だよね、耳打ちした。
「うん、でも、梓ちゃんは常闇くんの弱点を知らない。それに刀とか、なにかの媒体を通してじゃないとまだ個性が安定しない分、部が悪いよ」
「そっかぁ」
が、「START!」というミッドナイトの号令とともに梓は常闇に突っ込んでいった。
ーダァンッ!!
生身の体術とは思えない音が響き、とんでもないスピードで繰り出された蹴りを黒影がガードする。
が、梓は止まらない。
《東堂のラッシュが止まんねえ!!なんだあれ!めっちゃ速い!!黒影が追いついてねえ!》
《東堂の奴、風を纏ってんな。体の動きに風を合わせ、格段にスピードをアップさせてやがる。それであの攻撃の多彩さ、》
《黒影が近距離苦手なのわかって、やってんのかァ!?》
ガードから攻撃に転じた黒影を難なく避けながら、一瞬で懐に入り込むと、タンッと軽く雷を発生させそのまま常闇の鳩尾に一発いれ、
よろついた瞬間に、両手を彼にかざし、
ーゴゥッ!!
雷を帯びた突風で場外に吹き飛ばした。
「常闇くん場外!!東堂さん、三回戦進出!」
《東堂の動きがどんどん神がかっていってんぜ。イレイザー、お前のクラスほんとになんなの》
《俺は何も教えてねえよ、》
ハヤテさんの遺産だろ、と呟いた言葉がマイクに拾われることはなかった。
どよめきのような会場の歓声の中、ぽかんとしていたクラスメート達が我に返り始める。
「梓ちゃん何なの!?あんなに強かったっけ!?」
「常闇くんの弱点って、光だけやなかったんだね…。一回戦見ただけで見破る梓ちゃんの戦闘脳やば」
「つーか、なんかこの前より個性使いこなし始めてね?実戦の中で成長するとかコミックかよ!!」
興奮気味にバトルを振り返る彼らだったが、
観客席に帰ってきた梓が一番端の席で余裕なさそうに座り込んだものだから、緑谷は慌てて駆け寄った。
「梓ちゃん!ベスト4おめでとう!」
『あ、いずっくん、怪我』
「大丈夫だよ!梓ちゃんのバトルが見たくて慌てて帰ってきたんだ」
そっか、ありがと。
それだけ言うとへらりと笑って俯いてしまった梓に緑谷は心配そうに眉を寄せた。
そして、数分後、準決勝の梓の相手が爆豪に決まり、
ここ二週間喧嘩ばかりの2人の因縁の対決にクラスは不穏な空気でざわつくのだった。
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