轟対瀬呂は轟の圧勝、上鳴対塩崎は上鳴が瞬殺され、
飯田対発目は、発目が翻弄したあと自ら場外に出て飯田が勝利、そして、一回戦五番目の組である、
芦戸三奈対東堂梓のバトルが始まった。
《一回戦五番目の組…来たぜェ…今大会唯一の女子対決!接近戦上等!手から出す酸は強力だ!ヒーロー科、芦戸三奈!!対して、予選で目立った割に実力が見えねェが、身体能力は抜群!東堂梓!!》
フィールドに上がりながら、梓はふぅ、と息をつくと相対する芦戸を見据えた。
「東堂ー!あんたにも色々あるっぽいけど、私も負けないよー!」
「うん、正々堂々いこう」
そして、「START!!」というミッドナイトの合図で、芦戸は梓に向かって走り出した。
「いっくよー!!」
手から噴射されてた酸が梓に襲い掛かる。
それを避けようと誰もが半歩下がる、芦戸はその間に距離を詰め攻撃を仕掛ける予定だったが、
梓は下がるどころか一歩前に出た。
酸の隙間を縫うようにダンっと地面を蹴ると、
一瞬で驚いている芦戸の眼前に現れ、
「うわぁ!?」
咄嗟に両手を前にかざして酸を出すが、梓はそれを跳躍で避け、芦戸の頭上で体を反転させると、空中で彼女に重い回し蹴りをくらわせた。
ードカッ!
《入ったー!!ヒュー!ありゃ予想できねェ動きだな!イレイザー、どっちもお前のクラスだろ?どうだ!?》
《身体能力じゃ東堂に軍配が上がるが、個性使いこなせてんのは芦戸だ。だが、まぁ…》
痛みでよろけた芦戸は苦し紛れに酸を出しながらブンッと腕を振るがすでに梓は後ろにはいない。
「アレェ!?」
ばっと前を向けば目の前に梓の腕が迫っていて、咄嗟に頭を後ろに下げて避けるが、そのタイミングで足払いをかけられ、派手に背中を地面に打ち付けた。
ーダァン!
「いったぁ!!」
『三奈ちゃん、』
痛みで呻きつつも呼ばれて目を開ければ、両手に雷を這わせてバチバチさせている梓が見下ろしていて、
芦戸は参ったとばかりにため息をついた。
「もぉ〜、戦闘センスありすぎ、負けた!」
《東堂の戦闘センスは段違い。勝負あったな》
「芦戸さん降参!東堂さん二回戦進出!!」
ミッドナイトのコールに、梓はやっと安心したように一息ついた。
『三奈ちゃんごめん、容赦なく蹴った』
「いたた、いや、手加減される方が嫌だから別にいいんだけど、悔しいぃ〜!東堂にもっと個性使わせたかったぁ!」
『酸怖くて短期決戦に持ち込んじゃった』
雷を引っ込めると芦戸の手を掴んで起き上がらせ、
最後にありがとうございました、と握手すると梓は歓声を背に控え室に戻った。
ー
選手控え室に帰ると、珍しい客がいた。
『轟くん、』
対して仲良いわけでもないが、仲が悪いわけでもない轟焦凍だ。
彼は険しい表情で椅子に座っていた。
「東堂、話、できねェか」
『…、いいけど、そんなに険しい顔してどうしたの』
「最近のお前に言われたくねえ」
ぴしゃりと言われ面食らった。
とりあえずお茶の入ったコップを持ちながら、轟の向かいに座る。
『…最近、私、いまの轟くんみたいな近寄んなって顔してる?』
「してる。俺はしてねえ」
『どっちだよ。で、話って何?』
「お前、何に追い詰められてんだ?」
単刀直入に聞かれて、え?と声を漏らした。
別に追い詰められているつもりはない。
首を傾げれば、無自覚かよ、とため息をつかれる。
「俺がいうことでもねえが、クラスの連中、お前が変わったって心配してんぞ」
それは、たしかに心当たりがあった。
緑谷や爆豪だけでなく、耳郎、上鳴、切島、麗日、
大丈夫?と聞かれることが多くなった。
大丈夫なのに。
『た、たしかに、この前お父さん死んだばっかりだし、ね。ちょっとプレッシャーが』
「…プレッシャー?寂しいとかじゃねえのか?」
『寂しくはないよ!うちは代々短命だし、仕事柄いつ死んでもおかしくないし、それに、お父さんは血は繋がっているけど、ほとんど顔を合わせなかったから』
そういえば轟は目をパチクリとさせた。
「親父さんとあんまり関わってなかったのか?」
『あ、まぁ、家族的なことはしたことない。父というよりは、どちらかというと、先代ってイメージかな。尊敬はしてるよ』
「…そうか、親父さん、凄い人だったのか?」
『まぁ、そうらしいね。仕事してるところ見たことないけど、何度か鍛錬してもらった時はゲキ強だった』
「…、そうか」
『で?そんなことを今聞きに来たの?私より余裕なさそうな轟くんが?』
聞き返せば、轟は面食らった。
「俺は、別に余裕がないわけじゃ」
『ごめん、さっき聞いてしまったんだ、いずっくんに話してたこと。左を使わない理由』
しん、と場が静まり返った。
轟は一呼吸置くと、べつに聞かれて困る話じゃない、と言葉を紡ぎ始めた。
「俺は親父を、エンデヴァーを恨んでる。確執がある。東堂も、家が複雑みてえだし、俺と似たところがあるんじゃないかと思って聞いてみたかっただけだ」
『確かに、話を聞くに、子供の頃から虐待じみた鍛錬してるところは似てるかも。ただ、わたしは君と違って現実から逃げない』
「…は?」
暗にお前は逃げていると言われ、轟は顔をしかめた。
梓は続ける。
『その左も、君の力だ。なのにお父さんの力だのなんだの言って、使わないなんて意味がわからない』
「…」
『いみわかんないよ、ほんと。その力使えば、もっと強くなる。親とか関係ない。たくさんの人を守れるのに』
「…」
『ヒーローになるんなら、全部受け入れて背負ってヒーローになりなよ。そんなんじゃ、いずっくんには勝てないよ』
冷たくそう言った彼女に、轟は思わず掴みかかっていた。
「てめェになにがわかる!てめェに、なにが!!」
『…っ、わかんないよ!!!ぜんぶひっくるめて背負ってお母さんも守りなよ!!親がいるんだから!!!』
「〜っ…」
『私、親いないよ。…守ってくれる人も、導いてくれる人も、だれもいない、、今までだって、お父さんのことを頼ることはなかったけど、死んで、はじめて存在感を実感した』
「東堂…」
『きみには、お父さんも、お母さんも、兄妹もいる…。にげるのは、まだ早いよ』
泣きそうに顔を歪める梓に、轟は言葉が出てこなかった。
彼女はゆっくり轟を自分から引き剥がすと、
『吐きそうだ、毎日。でも、全部背負って立たなきゃ、』
まるで必至に自分を鼓舞するような独り言で、
ふらりと部屋を出て行った。
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