23体育祭


爆豪との言い争いの次の日も梓はいつも通りで、
そして、雄英体育祭当日を迎えた。


「お嬢、行ってらっしゃい。気をつけてな」

『行ってきます』


トントン、と靴を履いてこくりと頷いた彼女の表情は張り詰めていて九条は顔をしかめる。
背を見送りながら、


「やっぱり、元気ないな」

「しょーがないっすよ。この前の継承式で、晴れてお嬢は24代目を襲名しましたからね。今まではハヤテさんの娘って事以外で、公の情報は出てねェが、もう違う。戦闘個性持ちの守護一族、満を持して表舞台に登場って訳です。東堂家の事を知る一部の人間は、今日の雄英体育祭に興味津々でしょーよ。プレッシャーは他の奴の比じゃないね」

「…あぁ、そうだな。ここを乗り越えてもらわなきゃ、24代目はこなせねェ。俺たちは見守るしかねーな」


そう言いつつも、ここ二週間、梓の笑顔を見ていないことに不安を覚える九条と水島であった。





1-A控え室。
耳郎は心配そうに、座ってボーッとしている梓の肩を叩いた。


『うぇ?あ、耳郎ちゃん』

「大丈夫?あんたほんと最近おかしいよ」

『大丈夫大丈夫!ちょっと緊張してるだけ!』

「本当かなぁ。ま、たしかに緊張するよね」


ペットボトルを渡しながら梓の隣に座ると、


「さっきの聞いてた?轟の宣戦布告」

『へ?』


どうやらボーッとして聞いていなかったらしい梓に耳郎は苦笑した。


「轟が緑谷にお前には勝つって宣戦布告したんだよ。緑谷もそれに応えてた」

『へぇー…そうなんだ』

「梓、らしくないね。いつものあんたなら、張り合いそうなもんだけど」

『んー…私も負けないよ。…負けちゃいけないもん』

「聞き捨てならねえな、クソチビ」


後ろから頭をがしっと掴まれた梓に耳郎は顔を引きつらせた。
一番聞こえちゃまずいやつに聞こえていたらしい。


『かっちゃんいたた!離して!』

「最近イラつかせやがってクソが!!」

『いたい!もう!ばか!』


ガッと胸倉を掴まれる。


「この際、白黒決着つけてやらァ」


轟がびっくりした表情でこちらを見、切島と緑谷が止めに入ろうとする。
しかし、必死な爆豪の顔を見て、みんな手が止まっていた。


「おれは!お前に絶対勝って、お前の考えがイかれてるってことを証明してやる!!!お前のその覚悟が、バカみてーだって!」

『やれるもんならやってみろよ…』


いつも笑って流す梓にとってそれは地雷だった。
天真爛漫な彼女から想像がつかない警戒するような目で爆豪を見上げると、


『私は絶対負けちゃいけない。東堂の名に泥を塗る訳にはいかないから。守護の力は健在だと、世に証明する。それが、私の使命だから!』

「訳わかんねえことつらつら言ってんじゃねえよ」

『わかんないなら近寄らないで』

「梓ちゃんやめて!かっちゃんも!!」


明確に近寄らないで、と線を引かれ、爆豪は呆然としていた。
子供の頃から天真爛漫で辛いことなどないかのように笑っていた太陽のような幼なじみからの明確な拒否。


((目に見えてショック受けてる!!))


呆然としている爆豪を励ますのは切島と瀬呂に任せ、緑谷は唇を噛み締めている梓の背を撫でた。
耳郎も心配そうに顔を覗き込んでいる。

見守っていたクラスメートたちは、


「こっちでも宣戦布告かよ…」

「つーか、東堂どうしちゃったんだよ、まじで」

「爆豪もなんか必死だよな、東堂に対して」

「最近あの2人に挟まれておろおろしてる緑谷をよく見る」


幼馴染み三人組の中で、潤滑油の役割を果たしていた梓の様子がおかしいせいで専ら被害を被るのは緑谷になってしまったことに同情するクラスメート達だった。





《雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!》


プレゼントマイクの実況が大きなスタジアムに響き渡る。


《どうせてめーらアレだろこいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!ヒーロー科、一年!!A組だろぉぉ!?》


とうとう雄英体育祭が開幕した。
爆豪の他の挑発する選手宣誓後、第1種目が障害物競走に決まった。
それぞれがそれぞれの思いの中で、スタートラインに立つ。

そして、


「スターーート!!!!」


第1種目目が始まった。
狭いスタートゲートに密集した彼らに轟の氷が地面から襲いかかる。

間一髪氷結を避けた者たちは一歩リードした轟を追いかけた。
が、そこに障害物が現れる。


《さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門、ロボ・インフェルノ!!》

「入試んときの0ポイント敵じゃねぇか!!」

「マジか!ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

「多すぎて通れねえ!!」


が、轟はひるまなかった。
一撃で仮想敵を凍らせると、足早に通り抜けていく。
それに加えて、仮想敵を崩したことで後続への妨害もした。


《1-A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!すげえな!!一抜けだ!!アレだなもうなんか…ズリィな!!》


轟が一抜けし、周りがそれに続く。


「先行かれてたまるかよ」


《1-A爆豪!下がダメなら頭上かよー!!クレバー!!》


爆風で上を超えた爆豪に対し、梓は、


『仮想敵ごとき正面突破できないと、ね!!』


両手にバチバチと雷を凝縮させると、


ードガァン!!


稲光が走り、雷撃が仮想敵を貫いた。


《また1-Aかよ!東堂梓!!雷でド派手にかましたァ!!目立つねェ!!》

《相手が加減のいらねェ仮想敵だからな。コントロール下手なあいつにとっちゃ逆にやりやすいんだろ》

《一足先行く連中A組が多いな、やっぱ!!》


仮想敵の後はザ・フォール、綱渡りだった。
地道に渡るしかないか、と前に行く2人を梓は必死で追いかける。
そして最終関門、一面地雷原だった。

先頭の轟は、不利な状況に顔をしかめながら慎重に進んでいた。
後続に道を作らないために凍らせず、地道に進んでいたが、そうも行かなくなってくる。


「はっはぁ俺は!関係ねー!!!」


爆風とともに追いついてきたのは爆豪だった。


「てめェ宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ!!」


《ここで先頭が変わったー!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!》


「お前だって東堂に宣戦布告してたろ!」

「あいつァ関係ねーだろ!!」


次の瞬間、また雷光が煌めいた。
バリバリィ!という音とともに地面に一直線に雷が這う。
雷が走った部分だけ先に地雷が爆発していき、凸凹な道ができ、


『おーいついたー!!』

《三位東堂も並んできたァ!!おいおい先に地雷爆発させちまったら後続に道作ることになんぞ!!》

《後続に道を作っても、追いつかれない自信があんだろ。実際、あの凸凹道をあれだけのスピードで走りやがる。とんでもねぇ身のこなしだ》

《さっすが身体能力は1-Aじゃずば抜けてんな!!つーかお前のクラスなんなの!》


三人並んだ!と会場はざわめいた。
後続との開きからしても、この中の誰かが一位になるだろうと誰もが確信していたが、それを覆す大きな爆発音が後方で起こり、
三人はその大きすぎる音にゾッとし後ろを振り返った。


《後方で大爆発!?なんだあの威力!?偶然か故意かーーーA組緑谷爆風で猛追ー!?!?》


爆風に乗って、緑谷が迫る。


《っつーか!!抜いたあああー!!!》


『ひぃ!いずっくんまじかー!!』

「デクぁ!!!俺の前を行くんじゃねえ!!!」

「後ろ気にしてる場合じゃねぇ…!」


《元先頭の三人!足の引っ張り合いをやめ、緑谷を追う!!共通の敵が現れれば人は争いを止める!争いは無くならないがな!!》

《何言ってんだお前》


上空を飛ぶ緑谷を追いかけるように三人走るが、着地寸前の彼がくるりと前転し、持っていた板を地面に叩きつけたことで梓はしまった、と顔を歪めた。

咄嗟に水で全身を覆い、爆風から水を守るように防御する。


ードオオオン!!


《緑谷間髪入れず後続妨害!!なんと地雷原即クリア!!いれいざーおまえのクラスすげえな!どういう教育してんだ!》

《俺は何もしてねえよ。やつらが勝手火ィ付け合ってんだろう》


視界が開けて地雷原を抜けた。
懸命に先を走る緑谷達を追いかけるが、実況で彼が一位だと知った梓は悔しそうに拳を握りしめた。


『…、いずっくんすごいよ、負けた』

「た、たまたまだよ!偶然が重なったラッキーみたいなものだ」

『うー、次は負けない!』

「緑谷もすごいけど梓もすごいよ!4位?」

『あ、耳郎ちゃん。うん、でも、もっと個性を使いこなせていれば1位になれたかも』


悔しそうに眉間にしわを避ける彼女に思わず耳郎は完璧主義かよ、と顔を引きつらせるのだった。


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