次の競技は騎馬戦だった。
「それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」
耳郎はチームを組むべく4位だった梓の元まで走った。
どうやら同じような考えらしい緑谷と尾白も彼女の近くに集まっている。
2人に先を越されるわけには行かない。
「梓!一緒に組もう!ウチ、そんなにポイント高くないけど、あんたは中近距離が得意で、ウチは中遠距離が得意だから相性いいと思うんだけどっ」
『あ、耳郎ちゃん』
「ちょちょちょっと待って!梓ちゃん僕と!僕と組んで!」
『あ、いずっくん』
「東堂さん!USJの時に思ったんだけど、俺と東堂さんって戦闘スタイル似てるから一緒にやりやすいと思うんだよね。一緒にやらない?」
『あ、尾白くん』
一気に三人に畳み掛けられ、梓はどうしようと視線を迷わせた。
そこに現れたのは4人目の人物。
「東堂、一緒にやらねーか?」
轟の誘いにまわりはげっと顔を引きつらせた。
予選2位と4位が組むとなると厄介だし、遠くから爆豪が凄い顔で睨んでいる。
「爆豪なんであんなにこっち睨んでんの?」
「わ、わかんないけど、自分から宣戦布告した手前、梓ちゃんのこと誘えないけど、僕や轟くんが一緒にやるのは嫌なんじゃないかな」
「うわ、めんどくさ」
で、どうするの?と尾白が急かすように梓を見る。
彼女は迷うように視線を泳がせたあと『じゃあ、』
と耳郎の手を取ろうとしたその時、
「東堂さんだよね?」
『あ、うん』
「俺の前騎馬やってくれないかな」
いきなり後ろから現れた名も知らぬ普通科の男の子に肩を叩かれ動きが止まった。
梓は取ろうとしていた耳郎の手をとらず、焦点の合っていない目で轟、緑谷、尾白から離れると
『きみと組む』
その普通科の男の子、心操人使についていった。
(え、なんで!?え!?梓ちゃん!?嘘!?梓ちゃんが僕のこと無視したことなんて一度もないよね!?僕のこと嫌いになっちゃった!?嘘!やだ!梓ちゃーん!!)
(えーー梓なんでだよー手取ってくれそうだったのになぁ。っていうか、あの普通科の子と知り合いだったっけ?)
(わからない。俺も耳郎さんも断られてショックだけどさ、緑谷の落ち込み方見たら冷静になるよね)
ー
普通科の少年、心操人使に声をかけられて以来、梓は意識がなかった。
それは彼の個性、洗脳によるものだった。
ぼんやりした視界の中で騎馬戦は始まっていて、緑谷や爆豪、轟を始め、クラスメートたちが火花を散らせる中、梓は誰かの前騎馬となってその戦いの様子を見ていた。
と、その時、
ーどん!
「おい梓!てめェなにちんたらしてんだ!早々に勝つの諦めたんか!」
騎馬と騎馬のすれ違いざまに爆豪に肩を足で蹴られ、
やっと視界が晴れた。
『ん!?!?』
バッと振り向けば、緑谷達に向かっていく爆豪の騎馬があって、きょろきょろと辺りを見渡したら、みんなが騎馬戦をしていて、
『んえ!?』
爆豪の蹴りによる衝撃で梓の洗脳が解けた瞬間だった。
『えぇ…なにこれ、きみに話しかけた時から記憶があやふやなんだけど』
しかめっ面で不快そうに後ろを見上げれば、やはりそこには思った通りの人物がにやりと笑っていて、
「洗脳解けちゃったか。また洗脳するよ」
けろりと言った彼は、先ほど声をかけてきた紫色の髪と濃い隈の男子生徒だった。
『待て待て待て待て。どういうギミックか知らないけどちょっと待って』
「何だよ」
『え、何?個性?私寝てた!?』
「は?なにその反応、寝てないよ。俺の個性で従わせた」
『は!?いや、従わせたりしなくても言ってくれれば組むよ。それが個性なんでしょ?騎馬戦だと有利だし』
「…」
てっきり怒られ軽蔑されると思っていたのに。
ため息つきつつ、誘うにも他にやり方があるでしょーよ、と言う梓に心操は面食らった。
『私の個性がほしかったの?誰でも良かったの?後ろの、尾白くんとB組の人も洗脳中?』
「…そうだね、君の個性、いざという時に役立ちそうだと思ったけど、コントロール下手みたいで使い勝手が悪かった。後ろの2人も洗脳中、君はたまたま解けたけど、2人は解けないよ」
『なんで?』
「洗脳を解くためには衝撃が必要なんだ。前騎馬の君に、騎馬を壊さないまま、2人に衝撃を与えることはできないだろ」
『たしかに!ま、さっきも言ったけど、ここまできたらこの騎馬で一緒に頑張るから作戦教えて。洗脳されたまま勝ちたくない』
ため息混じりに前を向いてきっぱり言い切った彼女に心操は面食らった。
"洗脳"という個性は異質だ。異質で、危険で、信用されにくく、敵向けと称される。
なのに、一方的に洗脳された被害者のはずなのに、あまり抵抗のなさそうな彼女に心操は心の中で少し動揺していた。
なんなんだこの子。
「…わかった。ただ、後ろの2人は解かないよ。この個性にすぐに理解示して協力態勢になろうとするの、あんたしかいないと思うし」
『そうかなぁ、あ、そういえばきみ誰?』
「普通科、心操人使」
『そう、心操くん。作戦は?』
「残り10秒で話しかけまくって洗脳してポイント奪う」
『作戦雑!!』
ぷはっと思わず笑ってしまった梓に心操はつくづくこの子変だ、と微妙な顔をした。
さっきまで洗脳されていたのに。怒ることもなく、一言言ってよ、だなんて。
洗脳され自分を悪用されたかもしれないのに、不審な目などこちらに向けない。
どころか、しっかり目を合わせて作戦教えてだなんて、切り替え早すぎるだろ。
いまだって、洗脳などなかったのようにけらけら笑っている。
『そうだねぇ、最後に洗脳しまくるのはいいけど、きっかけって何?肩叩くこと?それとも、』
「俺の問いかけに答えること」
『え、じゃあ最後の数秒に問いかけまくるの?これだけ縦横無尽に動いてる騎馬の何人かを捕まえて?』
「いや、1人でいい。時間ギリギリで、3位か4位の逃げに走った騎馬を洗脳する」
『なるほど、それにしても、そこまでの防御は必要だねぇ』
すると、心操の前騎馬である梓の周りに風が吹く。雷を少し帯びたそれは
渦を巻き、徐々に強くなり、
『雷なんて騎馬じゃ使えないから、風使う。といっても、防御しづらいし、雷帯びちゃってるけど』
「…ははっ、あんた変わってるな。洗脳された被害者のくせに、こうもすぐに切り替えるかよ」
『そりゃびっくりしたけど。目的は一緒でしょ?私は勝たなきゃいけない。きみの作戦に協力して勝てるんだったら、もちろんそうする!』
そして、作戦通りに制限時間ギリギリに三位の鉄哲チームを洗脳しハチマキを奪うと、
心操チームは三位に繰り上がるのだった。
(ご苦労様)
(なにニヤってしてんの、次は敵かもよ)
(あんたが敵になるのは困るな)
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