四十万打リク◆IF未来・ダイナマイトファンの心情
IF未来(モブ視点・爆豪)


「はァ…かっこいいわぁ」


プロヒーロー、ダイナマイト。本名、爆豪勝己。
数年前華々しく仮免ヒーローデビューした彼は、今やトップヒーローだ。

そんな彼の追っかけをしているファンは多く、自分もその一人である。
女は通勤時間にダイナマイトの敵退治動画を見返しながら、今日もかっこいい、と胸を高鳴らせていた。





「あんた本当好きだねぇ」

「確かに強いしカッコいいけどさ、言動怖くない?」


仕事からの帰り道、カフェで友人たちにいつもながらそう言われ、彼女はふるふると首を振ると目をキラキラさせて「そこがいいのよ!」と力説する。


「一番いいのは顔だけど、敵みたいな粗野な言動なのに常に勝者であり続けるストイックマンってところが…!推せる!!」

「はいはい」

「私は、リンドウの方が好きだけどなぁ。あーーんな可愛い顔してんのに、超武闘派でさ、戦闘モードオンした時の顔マジでそこらのイケメンよりイケメンだからね」

「やめてそいつの話しないで」

「「あんた本当リンドウ嫌いだよね」」


嫉妬は怖いねぇと苦笑する友人たちに彼女はむすっとしたまま携帯をいじる。


「だって。ムカつくのよ。私はトップしか眼中にないファンサなんて興味ないダイナマイトが好きなのに」

「明らかにダイナマイトってリンドウのこと特別視してるもんねっ」

「うるさいよ!」


思わずそう言うが、友人の言う通りなのだ。

2人は雄英高校時代の同級生だ。
1年生の頃の体育祭での激戦は今もネット上に動画が上がっている為、同級生兼幼馴染ということについては周知の事実なのだが、それ以上のことはわからない。

ファンサに興味がなくメディア露出の少ないダイナマイトと、なぜかそれ以上にメディア露出のないリンドウ。
2人が付き合っているだの付き合っていないだの噂が流れるたびにヒーローショートやデクが、秒速で否定しているが本当なのかどうか怪しい。


「この前も週刊誌で2人がご飯一緒に食べてる写真撮られて、熱愛報道出てたけど、デクがいつもの秒速SNSで“付き合ってません”って否定してたよ。おもしろ」

「ぐぬ…、ただの幼馴染、そう、幼馴染。腐れ縁ってやつよ」

「それにしては、特別感すごいよね。リンドウはダイナマイトが迷いなく背中を預けるヒーローだし」

「背中預けるのはリンドウだけじゃないじゃん?レッドライオットとかもそうだし!」

「そうだけどさ。それに、リンドウの過激ファンを牽制したり、リンドウがファンサでオロオロしてる時大抵すぐ駆けつけるし、」

「あと顔!リンドウの前だとあの眉間の皺取れるし!時々悪戯っ子みたいに口角上げてるのはカッコいいと思ったわ」

「2人してなんで命削ってくんのやめてやめて」


思わず耳を塞げば、友人たちは面白がって今度は携帯の画像を見せてくる。どうやら2人はリンドウとダイナマイトの特別な関係にハマり始めているらしく、


「見てこれ、リンドウがちょっと腕怪我した時、駆けつけたダイナマイトが敵にハウザー撃ったの。もうリンドウが捕縛してたのに!容赦なさすぎて爆笑したわ」

「私はこれ見つけた!見て!2人の学生時代!1年の時にリンドウが文化祭で妖精役やったらしいんだけど、そのドレスの裾をダイナマイトが持ってあげてんの。2人とも超かわいい」

「やぁめぇてぇぇぇ」


見せつけてくる数々の画像や動画、エピソード。
聞きたくも見たくなくて耳を塞ぎ目を閉じる彼女に友人たちは笑った。


「アンタどんだけリンドウが地雷なのよ」

「反応が面白すぎ」

「だって、だってさぁ…私だってわかるよ。ダイナマイトがリンドウを特別視してるって。でも、リンドウはショートともデクとも、仲が良いでしょ」

「うん。加えてショートとダイナマイトはよくリンドウの取り合いしてるしね」

「でしょ!?…私はダイナマイトファンだから、彼と同じように彼のことを特別視してくれないリンドウは嫌いなの」


最初こそ、ただの嫉妬だった。
でも、リンドウの直向きさや強さ、カッコよさをヒーロー活動から知り、嫉妬が羨望に変わり、

なぜ、ダイナマイトはああもリンドウの事を特別視しているのに、リンドウはそうではないのだろう。
いつも色んな人に笑顔を振りまいて、愛想が良くて、ショートは自他称共に相棒で。


「あんな八方美人。なんでダイナマイトは好きなんだろう…」

「お、好きと認めた」

「み、認めてない!幼馴染、腐れ縁、仕方なく世話してあげてんの」

「往生際悪いなぁ。生粋のダイナマイトファンとしては、彼が唯一大事にしてる存在であるリンドウが、彼のことを大事にしてくれるといいなーとか健気な事を思ってんでしょ」

「そりゃあ…!…そうでしょ」


思わず出てしまった本音。取り繕うように「だから、そうじゃないリンドウが嫌いなんだって」と頬を膨らませる。

と、その時、店内に設置されていたTVモニターにレッドライオットへの取材映像が流れ始めた。
いつものヒーローインタビューではなく、情報番組による一問一答形式での取材である。


「レッドライオットだぁ」

「漢字で烈怒頼雄斗ね。ダイナマイトと仲良いよね。彼のこと、なんか喋るんじゃない?」

「だよね!!聞いとこう」


暫くは当たり障りのないヒーロー活動への質問が多かったが、友人達の予想通り、途中からゴシップ系の質問が増え始める。


《烈怒頼雄斗はヒーローダイナマイトやヒーローショート達と同じ世代でしたよね。あの世代は、話題性に富み、実力もある。通称プラチナ世代と呼ばれているわ》

《プラチナ?そうなんスか?はは、学生の頃から色々問題起こしてばっかでしたけど》

《そのプラチナ世代の中でも、特にメディア露出の少ないヒーローリンドウについて、視聴者から山のような質問が届いているんですが、いくつかお答えいただけないかしら?》


「リンドウかよ…!!」

「いいじゃんいいじゃん」


ダイナマイトの話が出ると思ったのに。
まさかのリンドウで彼女は思わずギリ、と歯軋りをするが友人2人は楽しそうにテレビモニターを見ていて、


《リンドウすか。話せる範囲なら、良いっすよ》

《良かった!じゃあまずひとつ目、リンドウって恋人はいるの?》

《いないっスね。アイツ、守護の道邁進中だから多分恋愛は頭の片隅にも無いと思う》

《そうなのね。この前の週刊誌は見た?》

《あーー、ダイナマイトとの熱愛?あれ、デクが否定してたと思いますけど》

《実際どうなのかしら?ダイナマイトとリンドウの関係って!》


ぐいぐいと踏み込んだ質問をする女子アナに烈怒頼雄斗は少しだけ困ったようにうーーん、と唸る。
そして、


《第三者である俺がどうこう言うのもおかしいんで、俺の主観なんですけど、》

《ええ》

《学生の頃から、ばく、じゃなかった…ダイナマイトとリンドウは、あんな感じですよ》

《それは、2人とも恋愛感情は無く、あれが普通の距離感ということかしら?》

《うーーん、恋愛とか、そういうのはとりあえず置いといて》

《もう少し具体的に教えてくれない?》

《そうっスね…。学生の頃、2人が連れ去られた事があったんですけど、2人とも、自分が生け捕り目的だと理解した瞬間、自分の命盾にしたんス》

《…どういうこと?》

《梓、じゃなかった…リンドウは、自分の命に価値があると分かった瞬間、“かっちゃんに手ぇ出したら舌噛み切って死んでやる”っつって、自分の命でダイナマイトを守ろうとした。んで、逆も然り。》

《………。》

《ガキの頃から、そういう奴らなんです》


そう言って苦笑した烈怒頼雄斗。
その映像を見ていた3人は、思わずポカンと口を開けていた。

しばらくして、友人の1人に「……連れ去られたのって、高1の時だったよね」と聞かれ、ダイナマイトファンの彼女は、ゆっくりと頷く。


「じゃあ、15歳で…当時の敵連合相手に、命賭けたってことだよね」

「やば…リンドウ、まじで見た目と言動のギャップ凄…って、ちょっと!?泣いてんの!?」


友人にギョッとした目で見られ、
自分の目からポロポロと涙が出ていることに気づいた彼女はますます出てきそうになる涙を堪えるようにぐっと唇を噛む。


「なに、ショックだったの?ダイナマイトとリンドウの関係がガチだったから?」

「それは今に始まったことじゃないでしょ」

「…ううっ…、よかった、と思って」

「「は?」」

「リンドウが、ダイナマイトのことを、大事に思ってる。絆に、感動しちゃって」


嗚咽をもらしながら泣く彼女に友人たちは一瞬ポカンとするが、すぐに理解したように苦笑した。


「…リンドウにとってダイナマイトは命より大事な人なんだって」

「う゛ん」

「よかったね」

「う゛ん」

「リンドウのこと、嫌いじゃなくなった?」

「…実は、ずっと前から、生き様、ダイナマイトに似てて、好ぎ…」


鼻をズビズビ鳴らしながらカミングアウトした彼女に友人たちは「なんだそれ!」と思わず笑うのだった。




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