四十万打リク◆IFファンタジー
(ファンタジーパロ)
彼女と初めて会ったのは、半年前のことだった。





「ショート王子、亡きハヤテ騎士団長の後釜となる次の騎士団長の任命式の日取りが決まりました」


この国の筆頭政務官であるイレイザーにそう言われ、窓から城下を見下ろしていたショートは振り返った。

先日、急病でハヤテ騎士団長が死んだと知らせを受けたときは驚いた。何度か父であり王であるエンデヴァーとの会合に何度か呼ばれた時に顔を見たことがあるが、がっしりとした体格の厳つい男だったはず。まさか病気で死ぬとは思わなんだ。


「もう新しい騎士団長が決まったのか」

「すでに決まっていたのです。ハヤテ騎士団長の子が継ぎます」


そういえば、この国の騎士団は世襲制で、実力主義ではなく血族が次を継ぐと聞いたことがある。
ハヤテの子か。とぼんやり考える。


「王子には、任命式に出席していただきます」

「俺が?」

「ええ、そうです」

「何故、父上…王ではないんだ?」

「王子、次代の騎士団長は貴方と同年代ですから。貴方の方が付き合いが長くなるので、と、王の配慮です」

「…ああ、そういうことか」


納得したショートは二つ返事で請け負った。
そして、任命式当日。

開け放たれた大聖堂の扉から、騎士団を率いてゆっくりと歩いてくる次代の騎士団長を見た瞬間、ショートは目を見張った。


(女…?)


小柄でふんわりとした髪、整った可愛らしい顔立ち。どう見ても女の子である。

華奢で、どう見ても騎士団に所属しているようには見えない少女が目の前にサッと膝をつく。


「第24代目騎士団長、梓!」

『はっ』


装束にはしっかりと騎士団の証であるリンドウの家紋が彫られており、その透き通った強い目が壇上に立つショートを見上げた。


『お初にお目にかかります。先代ハヤテの一人娘、梓と申します。貴方様との出会いに祝福をお送りしますことをお許しください』

「……許す。だが、驚いたな。血で継ぐとは聞いていたが……其方で大丈夫なのか」

『薄っぺらい言葉で大丈夫などと言ったところでなんの信用にもならないかと存じます』

「行動で示すということか」

『ええ、国と、貴方様と、民を、我が命をかけてお守りいたします』


きっぱりそう言われ、ショートは随分と肝の座った女だな、と感心した。
随分堂々としていると思う。口上も間違っていないし、自分から目を逸らすこともない。
実力はまだわからないけれど、覚悟だけはその姿からありありと伝わった。

じっと少女と見つめ合っていれば、忠誠を誓うように胸の前で右手拳を左手で覆い合わせているが、それが少し震えてるのに気づく。


(なんだ、緊張してるのか)


随分と肝が座っているし表情に動揺は出ていないが、年相応に緊張していることに気づき、ショートはふと笑みを浮かべた。


「命は、かけなくていい」

『へ?』


固かった表情が崩れ、素っ頓狂な顔をあらわにしたものだから、これがこの子の素か、と思わず笑いそうになる。


「国のために命をかけるのは王子である俺の役目だから、お前は、民を守るために働いてくれればそれでよいと思う」

『……ありゃ、そうですか…。王子がそう仰るなら』

「ああ」


困った様子ではあるが納得した少女に満足していたが、次の言葉でショートは思わず無表情を崩してしまった。


『では、お国のことは貴方様にお任せします。その代わり、私は命をかけて貴方様と民をお守りいたします』

「は?いや、」


血で騎士団長を継いだこの少女はきっと団長としてはまだハリボテだろうから気を使って負担を取り除いてやろうとしたのに。
命をかけて守ると繰り返され思わず言葉を失うが、少女はお構いなしに続ける。


『ご存知かと思いますが、この騎士団は国唯一無二の守護に特化した独立部隊であります。守りたいものを守らせていただきたいと存じます』


はっきり、きっぱり言ったその声音は、ショートの気遣いなど要らぬと突っぱねたようなものだった。
自分は王子である。そんな対応されたことがなくて思わず面食らっていれば周りの貴族たちがざわついているのに気付いた。


「なんと無礼な」「王子の温情を受け取らぬとは」「あんな幼子に何ができるのだ」「騎士団も取るに足らん。あれを支える団員たちが気の毒だな」と囁く声が聖堂内に聞こえる。
だが、梓はそれに対して特に表情を変えることはなくて、きっと聞こえているはずなのに堂々と前を見据えていて。


「面倒な…。上手くやれとあれほど言ったのに」と後ろに立つ筆頭政務官のイレイザーが独り言を呟いている。
振り返らないようにしつつ、小さく、「俺はどうすればいい?」と後ろのイレイザーに目配せをすれば彼は肩を竦めたあと、持っていた錫杖でシャンッ!と床をつき、ざわつきを一瞬で鎮めた。


「王子の御前である。静粛に」

『……。』

「騎士団長、王子は、まだ幼い其方に掛かる重圧を少しでも減らさんとお考えである」

『重圧?何のことでしょう』

「……、騎士団としての責任や覚悟だ」

「そうだ。俺と同じ年頃と見受けるが、その年でこの国や民を守る宿命を背負うなんて…重圧は如何許りか」

『人を守ることに歳など関係ないでしょう?』


不思議そうにそう言い返してきた少女の言葉に思わずショートがちらりとイレイザーを見上げれば、ぎらりとした目で少女を睨み、まるで“楯突くな”と訴えているようで、自分が怒られたわけでもないのに少し驚いて慌てて前を向けば梓もその目に宿る怒りに気づいたのか口元をひくつかせていた。


『……えー、と…』

「……王子、騎士団長の就任を承諾されますか」

「…あ、ああ、梓、よろしく頼む。何か困ることがあれば俺やイレイザーに言ってくれ」

『はっ、有難き幸せに存じます』

「これで任命式は以上となる」



シャンッ!ともう一度錫杖が鳴り、それを合図に大聖堂の扉が開き任命式がお開きとなる。
貴族たちが部屋を出るのを見届けたあと、
ショートは側仕えの者たちに導かれるままに、王族用の通路から大聖堂を後にしようとするが、ふと後ろの方で「お前なァ、」とイレイザーの苛立ったような声が聞こえてショートは足を止めた。


「ただでさえその見た目で舐められている上に、実力も未知数なんだ。同情票でも集めて味方の地盤を固めろと言っただろう」

『ごめんなさい…』

「自分で茨の道にしてどうする」

『だって、イレイザーさま、私は守護のために頑張らなきゃならないんですもん』

「そりゃわかっちゃいるが。もう少し世渡り上手になるべきだ。それにあの方は王子だぞ、楯突くな」

『ひどいなぁ、楯突いてなんかないのに』


先程まで硬い表情だったのに、イレイザーに対してふと見せた笑みが年相応で、ショートは物珍しげに梓を観察するのだった。

それが、のちに“相棒”とまで言われるようになる2人の出会いだった。





城の文官からショート王子がお呼びであると報告を受け、シンソウはまたか、とため息をついた。


「団長、召喚命令だ」

『ショートさま?』

「そう。時間があれば、と書かれてはいるが、」

『王族の呼び出しより大事なことなどないよねぇ。クジョウさん、城下町の兵団との会議は代わりに出ておいて。あとイズミさんが指揮して、南の森のモンスター討伐の作戦会議を。私はショートさまの所に行くので』

「はいよ」「お気をつけて」

『ではシンソウ、行こっか』

「はいはい」


任命式から1ヶ月とちょっと。ショート王子はなぜか梓に興味を持ったようで、よく呼び出されては他愛もない話をしている。
きっと彼は時間があれば話し相手になってほしいだけなのだろうが、こちらからすれば召喚命令も同然なので毎回胃が痛い。
シンソウ的にはハードスケジュールで精神的にも追い詰められるのに、自分の主上である少女は平気な顔で前を歩いているものだからため息をつきたくなる。


「…こう何度も呼ばれると騎士団業務に支障をきたす。きっとあの王子、不思議なところで天然だから、まさか自分の誘いがこっちのスケジュールを圧迫してるとはつゆほども思ってないと思うぜ。王子のお誘いは召喚命令同然であること、こちらに暇な時間などないことをお伝えしたほうがいいんじゃないか」

『本当にスケジュール的に無理なときはお断りするよ。まだ大丈夫。王子が呼ぶなら私は行くだけ!』

「そうかよ」

『なに?不満そうだね』

「べつに」

『べつにって顔じゃないなぁ。本当に無理してないよ』


そう笑いながら王子の待つ部屋に入った少女は慣れたように跪き、『お呼びでしょうか』とにこりと笑った。


「ああ、呼び立ててすまない」

『いえ』

「聞きたいことがあってな」

『なんでしょう?』

「お前は、この国の地理に詳しいと聞いたんだが」

『……んー、詳しくはありませんが、多少は知っています。幼い頃、修行の一環で父とよく旅に出ていたので。王子は、外に出られたことはあるのですか?』

「いや、公の式典以外は外に出たことはない。地図上の地理は頭に入ってはいるが」

『そうなのですか。城下にも出たことないのですか?』

「ああ」

『へぇ、王は存外過保護なのですねぇ』


少し驚いたように目を見張った少女にショートはこくりと頷く。


「将来的に実力を積むために国内を旅せよとは言われているが、まだその時ではないらしいんだ」

『ああ、聞いたことがあります。王子と、王子が側近としたい者を連れて旅に出るのですよね?』

「そうだ」

『城下町を出れば、湿原や山が広がり、モンスターも出ます。薬草や道具に詳しい者、地理に詳しい者、そして何より王子を守るに足る力を持つ者を連れて行った方がよろしいですよ』

「お前は、一緒に行かないのか?」


きょとんとした表情でそう言ったショートに思わず梓も固まった。


『私、ですか?』

「ああ、駄目なのか?」

『…えっと、貴方様から見て、私は、貴方様を守るに足る力があるように見えるのですか?まだ貴方様に戦う姿を見せたことはなかったかと存じますが』

「ああ、いや、騎士として期待しているわけではない。俺は、こう気軽に話せる相手がいないから、出来れば一緒に来て欲しいと思っただけだ。旅路は気心知れた人間がいると心強いとイレイザーに聞いたから」

『ああ、そういうことですか…それなら、』


納得したように頷こうとした主人を見て、思わずシンソウは一歩前に出ると「ショート王子、発言することをお許しください」と跪いた。


「シンソウ?…許すが」

「貴方様が騎士として見ていなくても、彼女は騎士団長であらせられます。この国の騎士団を率いる立場にあり、友のように旅をさせるのはいかがなものかと」

「そうか……」

「お言葉を返すようだが、血で継いだ幼い仮初の団長が席を開けたところで騎士団は回ると思うが。現に、ハヤテ殿が亡くなった後、彼女が就任するまではクジョウやイズミで恙無くこなせていたではないか」


ピリッとした声音で返したのはショートの側仕えだった。
馬鹿にするような目で自分の主人を見下ろすものだから、シンソウの眉間にもシワがよる。
貴族や王族相手に感情を悟られぬよう常日頃から表情を表に出さないようにしてはいるが、ここまで直接的な侮辱は聞き捨てならない。

『確かにあの2人は優秀だし、回るけれども、』と微妙そうな梓の袖を引っ張って制すと、にこりと笑ってショートの側仕えを見据えた。


「恙無くこなせていたように見えていたのであれば幸いです。が、事実団内は其方ら文官や側仕え、貴族達の対応に加えモンスター討伐任務で疲弊しておりますゆえ」


暗に、仕事を回してくるんじゃねえよ、と言ったシンソウに側仕えは青筋を立てた。


「まるで我らのせいだとでもいいだけな」

「おや、そんなつもりは。お心当たりでも?」

「なんだと」

「止めろ」


身を乗り出した側仕えを諌めたのはショートだった。
彼は難しそうな顔でシンソウを見ると、


「そこまで疲弊していたとは知らず、すまなかった」

「いえ。任務であれば、熟すだけです」

「つまり、任務でなければやりたく無いとそういうことだな?」

「………」

「梓、お前は幸せ者だな。王子である俺の側仕えにまで歯向かうほどの忠誠心を持つ側近がいるとは」

『…ふふ、そうでしょう。自慢の仲間です。ですが、我が側近が無礼なことを申しましたことは事実であります。お許しください。また、旅の同行の件ですが、お話相手であれば騎士団の任務とはなりませんので、同行はいたしかねます。いとまがあれば、休暇でも取ってお供できたのですが、』

「そうか…忙しくしている身で開いた時間もないのであれば、しょうがないな」

『ですが、王子の護衛騎士としてならば話は別です。私などに命を預けるのは些か不安かも知れませんが、これでも私、まあまあ強いのですよ』


王族に対する取り繕った笑みでは無い、いたずらっ子のように笑うものだから思わずショートも表情を崩して「そうか」と笑う。


「ならば、お前に護衛騎士を頼もうか」

『私でよろしいのですか?』

「ああ、強いんだろ?」

『もちろんです。他のお供はどうされますか?』

「旅をしたことがあるお前の人選を参考にしたい。だれかいい者はいないか?」

『確かに城内に旅に出たことがある者は多くはありませんね。わかりました。私が頼りにしている者たちを紹介いたします。紹介するだけですので、任命するのは王子ですよ』


試すように笑った少女につられて、ショートは口角を上げた。


「わかっている。お前の都合がつくのはいつだ?」

『王子の命令であれば直ぐにでも。ですが、』


言いにくそうに梓がちらりと自分の後ろの側仕えを見るものだからショートは人払いをした方がいいようだな、と察した。
先ほどのやりとりを見るに、騎士団と側仕えはあまり仲がよろしくないように見える。
正直ショートも自分の側仕えでありお目付役である男が苦手だったため、これ好都合とばかりに「下がっていてくれないか」と手を払った。

側仕えは少し迷うように視線を下げたあと、


「私だけが下がるのですか?」

「ああ、ゆっくりコイツの話を聞きたいんだ」

「それであれば、其方の眷属も下がるべきですな」


自分だけ下がってたまるかとばかりに道連れにされたシンソウは不機嫌を隠さずチッと舌打ちをした。
彼は、城内は決して安全な場所ではないと思っていた。批判的な目を向けるものもいるし、政治的な面で反逆者を粛清するため、騎士団はとばっちりや逆恨みで風当たりが強い。

それに、まだ未熟な王子と自由な団長で話が良からぬ方に進まないか心配でもある。

だから出来る限りフォローするために一緒にいたいのだが、「それもそうだな」とショートが言ったことでシンソウも下がることに決まった。


「団長、くれぐれも失言はしないように」

『私信用ないな!』


一言残して仕方なく部屋を出て行ったあと、まだ子供の王子と騎士団長の会話は続けられた。





「それで?人払いした理由は?」

『私の信頼に足る人々はあまり城内にいないものでして』

「は?」

『つまり、私が王子にご紹介したいと思う者たちはほとんど城下にいるのですよ。王子の側仕えがお聞きになったら、「王子に下町の者を紹介するなど不敬極まりない!」と怒られそうだったので、』

「それは…確かに、言われそうだな」

『でしょう?どうです?お望みならば紹介しますが?』

「……どうやって紹介するつもりだ?城下の者は基本、城には入れんだろう」

『そうですね。なので、王子が城を抜け出してこっそり城下に行くことになります。会って、もし王子が旅のお供に任命したいと思えば城に召喚すれば良いかと存じます』


しれっとのたまった少女にショートは自分の常識が崩れていくのを感じた。
思わず、くっと笑っていたずらっ子のような表情をしている梓を見下ろす。


「お前、本当にあの厳格な団長の娘か?俺を城下に唆すとは」

『あくまでも王子に決定権がございますので、戯言と突っぱねてくださってもよろしいのですよ!』

「いや、行く」


即答すれば、自分が提案したのにも関わらず梓は少し目を見張った。ゆるりと口角が上がる。
その笑みは、王族相手に取り繕ったものではない素のもの。


『悪い子ですね、王子。いつ行かれますか?』

「今からはどうだ?」

『今?よろしいので?』


ちらりと少女の目が扉に向かう。
恐らく側仕えを気にしているのだろう。ショートは確かにな、と顎に手を置く。


「よくない。あいつは頭が硬いからな。撒いてお前と合流しよう。何かいい案はないか?」

『うーん…、撒けるのですか?』

「まぁ、方法が無いわけではない」

『では、一刻後に北の騎士塔の大階段裏にきていただけますか?』

「不可能ではないが、」

『騎士団専用の城下への抜け道があるのですよ。私はその道でよく城下へ行っているので、その道を使いましょう。あくまでもお忍びになりますので、目立たない服をご準備くださいね』

「目立たない服?」

『はい、王子のお召し物は身分の違いがありすぎますので下町では悪目立ちしますよ。もしないのであれば、シンソウの服をお貸ししましょうか?』

「くくっ、お前本当に…」


言動が不敬だな、という割にショートの笑いは止まらなかった。
王族に対して自分の眷属の服を貸そうとするなんて、非常識だし不敬だしこんな扱いされたことがない。

自分の父親である王と彼女の父である騎士団長は仕事上の関係だけで特に深入りはしていなかったというが、自分は別である。
この子と、この国を守り発展させていきたいと思う。
ショートは彼女の不敬を嬉しそうに受け入れ、肯いたのだった。





城下町まで降りてきたショートは前を先導するように歩く梓から離れないようについて行っていた。


「同行がお前一人で大丈夫なのか」

『ちょっと、なんですそのお顔は』

「護衛騎士も側仕えも付けずに歩くことはほぼ無いからな。お前はシンソウやクジョウなしで歩くのだな」

『基本、団長は自由なのですよ。下町で貴族口調は浮きますので、少し言葉を崩してもよろしいですか?』

「ああ、いいよ。下町ではお前が頼りだから、お前の思う通りにしてくれていい。呼び名はどうする?」

『王子と呼ぶわけにもいきませんので。ショートさまとお呼びしまょう。ショートさま、今から貴方様は下町の富豪の御曹司という設定でいきます。私はその側仕え兼護衛騎士です!よいですか?』

「ああ。それじゃあ、いこうか」


心なしかショートがわくわくしているように感じる。
あまり変わらない表情の中にもそれを感じ取り、梓は気合を入れるようにショートの斜め前を歩き始めた。


『まずは私の行きつけの商会へ行きましょう!私が紹介したい者たちがきっと何人か揃っているはずなので!』

「お前、商会にも顔を出すのか」

『旅に出るときには必ず寄りますね。モンスター討伐の前にも寄りますよ。薬草や武器が揃っているので』

「そうなのか、俺も…」

『いやいや、ショートさまは自分で買い付けに行くことなど出来ないでしょう!?もし私の真似だってバレたら、私がイレイザーさまがこっぴどく叱られる』

「旅路にはいないから別にいいだろ。それより、お前とイレイザーはどういう関係なんだ」

『あー…幼い頃からいろいろと助けてもらってます。ウチ、結構特殊な家系だったので。イレイザーさまは兄のような父のような存在ですね』

「あの人怖くないか」

『基本は厳しいですけど、とーっても優しいですよ!あ、ショートさま、ここです!』


敬語ではあるが、いつもよりも砕けた口調で弾ける笑顔と共に城下町の中心部にある商会に着いた。
カランコロン、と音を鳴らしながら戸を開ければ軽快な声で「いらっしゃい!」と声がかかる。
武器や防具も売っているようで、充実した品揃えにショートが感心していれば、店員と梓が知り合いのようで話を始めた。


『キリシマくん、久しぶり!』

「おー、梓か!元気かぁ?あれ、今日はシンソウは一緒じゃないのか」

『うん!』

「珍しいな!しかも見るからに高貴そうな人連れて。聞いたぜ、団長になったんだって?大丈夫かァ?」

『あはは、なんとかやってる。ショートさま、彼はキリシマエイジロウくん、お世話になってる武器商人なんです。武器や防具以外も扱ってて、彼自身戦うのも得意で、とても頼りにしてるんです』

「ははっ、騎士団長サマに頼りにしてるって言われると照れるなァ。あ、そういや新しい薬草とか防具入ってるぞ。あと、もうすぐミドリヤが新鮮な薬草を卸に来る予定だぜ?待つか?」

『お、待つ!イズっくんにも会いたいし』

「ミドリヤ?」

『私の幼馴染なんですよ。とっても優しくていい子で。しかも強いので、結構危ない森とかに行って薬草とかを調達してくれてて。うちの騎士団の傷の治りが速いのは彼のおかげです』

「そうなのか…じゃあ俺も礼を言わねえとな」


ショートと話しているとカランコロンと扉が開き、「梓ちゃん!?」と嬉しさと驚きが混じった声が聞こえたかと思うと梓が振り返るよりも早く後ろから覆いかぶさるように抱きつかれた。


「梓ちゃんだぁぁ!団長さんになってから最近ずーっと忙しくて城下に降りてこないから僕寂しくて寂しくて!さっき北の森でかっちゃんにも会ったけどすごくイライラしてたし、もうなんで団長なんかになっちゃうんだよって内心思ってたんだけど久しぶりに会えて良かったぁ!」

「ミドリヤ、梓の首しまってる!」

『ぐえっ』

「わ、ごめん!大丈夫!?」

『だ、大丈夫。イズっくん、元気そうでよかった』

「梓ちゃんこそ!この前中央広場でシンソウ君と会っんだけど、団長になってから梓ちゃんがお城の王子様に取られてばっかりで嫌だってボヤいてたよ!」

「ハハッ、それバクゴーも言ってたわ。団長になってから王子に付きっきりで森に来なくなったからクソムカつくって」


後ろから勢いよく抱きつかれ咳き込みながら梓は振り返ると『げっ』と顔をしかめた。
きょとんとしているキリシマとミドリヤに静かにするようにシーッと人差し指を口に当てるが間に合わなかった。
案の定ショートは先ほどまで無表情の中にも楽しそうな色がうつっていたのに、今はしょんぼり沈んでいる。


「………そんなつもりは。なんか、悪い」

「「え??」」

『いやっ、ショートさまは悪くないですよ!?私が王子のことをちゃんと知っとかないとと思ったので、そうしただけであって!』

「いや、俺の方が結構お前を呼ぶことが多かったから…。悪い、城の中に同じ歳の奴いなくて、ちょっと…」

『いやほんと王子!?その悲しそうな顔やめてください王子なんだから!ちょっとイズっくんキリシマくん謝って!』

「「王子ぃ!?この人が!?」」


まさか渦中の人がここにいるとは思わなかったのだろう。一気に顔を青ざめさせたキリシマとミドリヤに梓は手早く状況を説明すると、実感落ち込んでいるショートのアフターケアにうつろうとした。
が、


ーカランコロン


「やはり、ここにいましたか」


来客かと振り向けばそこには見慣れた紫髪の目つきの悪い少年がいて。
梓とショートは揃って彼の名を呼んだ。


『「シンソウ…」』

「ショート王子、突然のお目通りをお許しください。…団長、なんで俺のこと連れていかないんだよ。ふざけるなって」

『いや、だって騎士団手薄にできないからさぁ』

「別に、クジョウさんやイズミさんがいれば騎士団は大丈夫だって。ここからは俺も付き添うから。王子、いいですよね?」


有無を言わせない目でそう言われ、拒否する理由もなかったショートは一つ頷いた。

彼は、騎士団の中でも現団長の一番の側近と言われる人物である。団長である梓の側を片時も離れないからこそ必然的にショートと顔を合わせることも多くなるのだが、彼の目にはいつも梓しか映っていない。
それはショートにもわかっていた。


(ついてくるのも、俺の為じゃなく梓の為だろうな)


あからさまな彼の態度には慣れたので別にいいのだが「ちょっとシンソウくん!無礼だよ!その人王子!」とついさっきまで王子の悪口を言っていたミドリヤが慌てふためいてるものだから、思わずショートはくすりと笑ってしまった。


「ふ、」

「わ、王子様が、笑った」

「ははっ、能面みてーなツラしてるから怒ってんのかと思ったが、違ったのか。色々とすんません、王子様」

「別に、気にしてない。梓の知り合いが、悪い奴でないのはわかっている」

『あははっ君らが不敬罪に当たらないのは私のおかげだぞ!』

「団長うるさい。そもそもアンタがしっかりエスコートしてればこうはなってない」

『シンソウひっど』

「一理ある」

『イズっくんまでひどいや!』

「あはは、ごめんね。あ、もし良かったら、その旅とやらに出る時、僕も同行しようか?」

「お、そうしろよ。ミドリヤがいた方が色々と楽だろ。強えーし」

『私は心強いけれど…決定権は王子にあるんだよね。どういたしましょう?』

「お前はどう思うんだ?」

『私は、薬草やモンスターに詳しく旅慣れている上に実力も騎士団に匹敵する彼が同行するのは王子にとっても良い話だと思いますが、側仕えなどの城の者たちがなんて言うかな…身分上は平民ですし、外聞がよろしくないと貴方様の側仕えたちに言われてしまう可能性もあるかと』

「そこについては俺が言い聞かせる。お前がそこまで褒める相手も珍しい。ミドリヤ、よろしく頼めるか」

「こちらこそ!」


人懐っこく笑ったミドリヤにショートも表情を緩める。
第一印象はこじれかけたが、元々人の良いミドリヤとショートが仲良くなるのにさほど時間は掛からなかった。


ひとまず完。好評であれば続けるかもしれません。

_226/261
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