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「超常解放戦線…、これは皆さんの知る敵連合と、“異能解放軍”の合体組織です」


合同勉強会用のホワイトボードを使ったハルトの説明が始まった。
“異能解放軍”という聞き慣れないワード。
緑谷はうーん、と唸りつつ、前にホークスにもらった赤い本を取り出した。


「この本、異能解放戦線って書いてあるけど、それと関係あるんですか?」

「ええ。我らが姫君が最初に着目したのも、その本でございました。その本は、解放軍初代主導者であるデストロが獄中で執筆した自伝であります。夏のオール・フォー・ワン逮捕後に再出版されており、泥花市市民抗戦勃発時からクローズアップされる機会も多くなりました」

「確かに、ホークスさんも配ってましたもんね…。でも、僕もその本読んだんですけど、解放軍は解体させられたし、初代主導者のデストロも自害したんですよね?」

「ええ、はい。ですが、彼には血を継ぐ子孫がいたのです。そして、再結成をし、水面下で活動を再開しております。その兵の数は10万人以上です」

「その、異能解放軍の理念は何なんですか?」

『…異能の自由行使、要は、“解放”だよ。やってることは過激派テロ組織と一緒だけど』

「異能の自由行使……それが解放軍の“意志”ってことですか?それの元に集ってるって?」

「我々が“守護の意志”の元に東堂家に集うように、奴等はデストロの意志を世に啓蒙するために集ったのです」


緑谷とハルトのやりとりを周りは真剣な表情で聞いていた。が、腑に落ちていないのは頭脳派メンバーである。
そのうちの1人である八百万は困惑するように頬に手を当てる。


「初代指導者の意志を尊重する厳格のある解放軍が、何故敵連合と結託したのですか?利害の一致とはお聞きしましたが…どうにもしっくり来ませんわ」

『1度はぶつかった。それが泥花市の市民抗戦だったみたい…』

「「「え!?」」」

『でも、ぶつかり合った結果、最高主導者だったリ・デストロが、死柄木こそが真の解放者だって思ったみたい。んで、譲位した』

「そう、それこそが泥花市市民抗戦の真相です。そして解放軍はそれを、“再臨祭”と呼んでいます」

「解放軍には、プロヒーロー、警察、ネットワークを掌握するF・G・I社、デトラネット社、政治家が与しています」


ハルトに続いてそう静かに呟いた西京の言葉に、一同は絶句した。
覚悟はしていたが、そこまでのメンバーが与していると直に聞き、フリーズする。


『……でも西京、ある程度の構成員は公安も把握してるから、誰が敵か味方はもうわかるよね?』

「はい」

『誰が解放軍かわかんない時期は本当にしんどかったけど……、あの人の…公安のおかげだ』

「ええ…徹底監視と行動制限の中この1ヶ月でここまでの情報を掴むとは、恐れ入りました」


こそこそと西京と話していれば、
フリーズ状態からやっと戻った飯田がピシッと挙手をした。


「敵の全貌はわかりました。理念もわかりました。奴らの具体的な目的は何なんですか?」

「超常解放戦線の目的は、聞こえ良く言えば解放です。建前上で言えば、“個々の自由を至上とし、既存の仕組みを打ち滅ぼす”こと、ですが……」


先ほどまですらすらと話していたのに。
突然言い淀んだハルトに一同が首を傾げていれば、少しして「ハルト、彼は“具体的に”と言った。回りくどく言うべきではないのではないか」と西京が無表情のまま苦言を呈す。


「…わかっているが、彼らは子供だぞ」

「子供だが、仮免ヒーローで、梓様のご学友だ。確かに我らが予期する最悪の計画は言い淀むほどのものではあるが、」

「……そう、あくまでも予期しているだけだ。ならば言わずとも」

『冷静に最悪を測るのは必要な事だよ』


もごもごと言い争う側近をぴしゃりと黙らせたのは彼らの隣に立つ梓だ。


『ハル、みんなのことを気遣ってくれてありがとう。でも、多分大丈夫』

「姫様…」

『ここからは公安に聞いたわけではないから、この2人が諜報した内容や、異能解放軍とオール・フォー・ワンの歴史を元に私たち一族が弾き出した最悪の構図、なんだけど…』


彼女は、ハルトの後を紡ぐように意を決したように飯田を見上げ話し始めた。


『お昼にも話したけど、“ヒーローの殲滅”』

「「「……。」」」

『全国主要都市を一斉に襲撃し、ヒーロー社会の機能を停止させ、無法地帯となったところでリ・デストロとそれに与する政治家が政界に行き、自衛という名の自由を謳い、デトラネット社製の武器をばら撒くんじゃないかって思ってる。要は戦乱の世を再び呼び戻し、その瓦礫の山に鎮座するつもりなんじゃないかな』


全員、絶句した。
戦慄する未来予想だった。

常に最悪を推し測りそれを回避するためにどうすべきかを考える彼ら一族が導き出した答えだからこそ、考えすぎだなんて思えなくて、空気が重く沈みシンと鎮まりかえった。

暫くして、パサパサに乾いた口を開いたのは緑谷だった。


「………、オール・フォー・ワンの再演ってこと?」

『うん。絶対にそうはさせない』

「ええ、守護の意志は絶対にこれを拒みます」

「我らだけではありません。全てのヒーローがこれを阻止すべく動きます。ぶつかり合い、向こうが淘汰されればその最悪の未来は起きません」


梓に続き、ハルト、西京にきっぱりとそう言われ、ふと耳郎は息がしやすくなったように感じた。
さっきまで変な汗をかくほど戦慄していたのに、あの3人に真っ直ぐにそう言われ、梓の透き通る強い瞳を見て、それに追随する2人の言葉を聞いて、
なんとなく、安心する。

梓のお家事情のせいでこの側近2人にもあまり良いイメージはなかったのだが、彼らが自分たち学生を気遣い、守る対象として見るその優しい目に、ああこの人たちも守護の意志の元に梓の側にいるのだ、と妙に納得した。
結局、梓を含めた自分たち一族には厳しいが、外の人間、守る人間にはどこまでも優しいのが東堂一族なのだ。


「そ、そうだよな、ほとんどのプロヒーローが出張るんだもんな」


同じように安心したのか、震えてはいるが希望を持って話す峰田の言葉に周りも確かに、と頷く。


「そのぶつかり合いに、俺らも支える側として組み込まれてるってことか」

『切島くんの言う通りだよ。やつらの拠点である群訝山荘…そっち側に派遣される人は、直接解放軍と相見える可能性もゼロではないし、』

「アッちょっと待って梓ちゃん、僕らが派遣される蛇腔病院は何の関係が?」

『ん〜……連合関係みたいなんだけど、こっちについては私はあんまり詳しくないんだよね…。相澤先生の方が詳しいけれど、あまり教えてくれないし』

「蛇腔の名前を捉えたのも本当につい最近なので、我々もまだ詳しくは知らぬのです」

『でも、多分だけど、連合関係なら“脳無”だと思ってるんだよね』


多分とは言いつつも、確信を持ってそう言った梓に隣に立つハルトは目をぱちくりとさせると、ゆっくりと誇らしげに目を細めた。


「流石我が御当主。見事な戦術眼です」

『…なんとなくそう思うだけだよ。それより、この作戦決行の日って、もしかして』

「恐らく敵軍隊長の定例会議の日でしょうな」

『そうか。各地拠点はきっと把握済みなんだろうね、公安は』


クラスメイト達への大雑把な説明も一段落し、梓も少し肩の荷が降りたのか手元にある巻物を弄りながらのんびりハルトと喋っていれば、


「その事について、お話があります」


西京の冷静な口調とともに、ゆっくりと2人の側近が梓の前に傅いた。
ぎょっとする梓やA組の面々をよそに、2人は一族の最敬礼の形を取ると、


「中央より、各分家それぞれ、拠点の内の1つに配備要請がありましたが、如何なされますか」

『………年末の中央命令、“東西南北の意志を集めろ”っていうのは、やっぱりこの時の為だったんだね』

「はい」

『如何するかと聞かれても、私は何も命令なんてしないよ。なんで跪くの』


怖いなぁ、と近くにいた八百万に身を寄せる梓に、ハルトと西京は仲が悪いにも関わらず「「はい???」」と素っ頓狂な声を重ねた。

予想していたA組の面々は先ほどまでの重苦しい話が嘘のように、ぷすぷすと笑っている。


「ハルト、御学友にも笑われているようだ」

「ええ!?姫様、あれ?何か勘違いなされている…?」

『え?』

「中央要請をご判断すべきは我が一族の歴史を見るに、御当主様のお考えが重要視されます。つまり、姫様のお言葉にて全家出陣となるのです」

「例えカナタ派だろうと、先代派だろうと、リンドウの家紋を背負うのであれば梓様のご意志で全家出陣いたします」

『………うーん??』

「何を困惑されているのですか!?」

『中央からの命令など関係ないよ。守りたいものを守る為に、先代達は生きてきた。そして私も一緒、守りたいものを守るんだよ』


跪く2人の前に膝立ちになり、同じ高さでまっすぐ2人の目を見てそう言った梓の目はゆるゆると暖かくて、先ほどまでぎらついていたのが嘘のようなそれにハルトは何故か気が抜けた。


「へ??」

『側近任命式こそ中央命令でやったけど、でもそれは守る為に必要だったからだ。もし、そう判断できなければ命令になど従わないよ』

「「……。」」

『私は、大切な人たちが幸せに暮らしていけるよう、その生活が理不尽に脅かされることがないよう、丸ごと守りたいと思ってる。だから、ヒーローになって守護の意志の元に戦いに身を投じるつもりだよ』

「「……。」」

『各分家も、同じだよ。守りたいと思うのであれば、私に力を貸して欲しい。でも、もしもそうではないのであれば、命を粗末にすることはない』


そこまで言われ、ハルトはハッとした。
先代当主ハヤテも、分家に対し参戦要請などしたことはない。
ただ、守る力が足りないので同じ想いなら手を貸してくれと言われたことはあると聞く。
もしくは、彼の戦う背に感化され、共に敵相手に戦か、どちらかだ。

いつも、そうなのだ。
この家の当主たちは、一度だって自分の生き方を周りに強要したことはない。
リンドウの家紋をつけるのであれば、守ることを手伝えと言われたりはするけれど、リンドウの家紋に誇りを持ち戦えと言われたことはないのだ。

今だって、梓は自分の考えを示した上で、各分家好きにしろと言っている。


「側近さん、梓ちゃんのことわかってないなぁ!私たちわかってたよ、梓ちゃんはいっつも守りたいものを守るって言ってて、でもそれを人に強要する人じゃないんだからっ」

「そうですよ。ウチらの方が、梓のことはわかってますね」


ドヤッと笑う葉隠と耳郎に、ずっとぽかんと口を開けていたハルトは思わず頬が緩んでしまう。


「……、どうやら勘違いをしていたのは、僕の方だったようです」

『うん、ハル、そして東の分家の人たち、参戦するかどうかは各々が決めて、私の守護の意志に力添えしてくれる者だけ臨戦してほしい』

「承知しました!」


もちろん臨戦するに決まっている、と思いを込めて最敬礼の形を取れば、
隣で西京も同じように最敬礼をしており、その目が初めて見るほどに強い意志を持っていて、ハルトは驚いた。
この数ヶ月彼と共に諜報活動を行い、時折彼が純粋な目で一心不乱に梓の為に動いている姿を見て、本当に生粋のカナタ派なのだろうかと何度も不思議に思ったが、

今、確信した。


「西京、まさかお前、ずっと…姫様を」

「ああ、お慕いしていた。生きる糧だ」


強い瞳は梓を見て揺れており、彼は無表情を少しだけ柔らかく緩めると、


「残念ながら、まだ西の分家を完全に貴女様派にできてはいません」

『うん』

「ですが、貴女様のインターンでのご活躍のおかげで、今、西の分家は貴女様の守護への思いが伝播しているように思います」

『うん』

「彼らがどう動くかは俺にはまだ測りかねますが、これだけは言えます。俺は、貴女様の守りたいと思ったものに忠誠を誓っています。臨戦させていただきます」


はっきりそう言った西京の目は、ハルトが今までに見たことがないほど生き生きと輝いていた。
主従の誓いのようなものを目の前で見せられたA組の女子たちは色めき立つが、逆に緑谷や爆豪、轟からジトっとした視線を浴び、西京は慌ててハルトと同じ位置まで下がる。


『…そんなに気負わなくても』

「貴女様の守護にお力添えできる日を今かと夢見ていたのです。気負うことをお許しください」

『……、みんなの前で恥ずかしいから、西京、忠誠心少し緩めて』


いつも明朗快活に話す梓が珍しくそうもごもごするものだから、気になって西京が顔をあげると、彼女は少しだけ頬を赤くして恥ずかしそうに俯いており、
それが年相応で可愛らしくて西京は思わず笑ってしまった。


「ふふ」

「お前、笑えたのか」


少し引き気味のハルトだが、同じように釣られて笑みを浮かべていて、場が少しだけ和む。
しばらくそう笑い合っていれば、がちゃり、と寮の玄関が開き、ひょっこり相澤が顔を覗かせた。

相澤先生!と不思議そうに駆け寄るA組の生徒たちを軽くあしらいつつ、彼は梓に跪く2人の男を見ると面倒そうに眉間にシワを寄せる。


「…、相変わらず仰々しいな」

「イレイザーヘッド、」

「もうすぐ面会時間過ぎるぞ」

「あ、失礼いたしました」


いつも九条と同じように相澤とバチバチやりやっているハルトが珍しく素直に言うことを聞いていて、思わず梓が目をぱちくりとさせれば彼は「今日は来訪を許可いただいた恩があるので素直なのです」と茶目っ気たっぷりに笑うものだからつられて笑ってしまう。


『あはは、今日だけなの。いつも素直でいてよ』

「姫様可愛い」

「不敬だぞ」

「五月蝿いぞ側近共、下がれ」


でれでれと顔を緩めるハルトを西京がぴしゃりと注意するが、まとめて相澤に下がれと言われて2人は渋々後ろに下がった。
そのまま帰ろうと梓に一礼するが、


「あ、待て」

「はい?面会時間はもう終わりでしょう?」

「そうだが、今からコイツらに伝えることは、お前たち側近にも伝えようと思っていた事だから、ついでに聞いていってくれ」


神妙な顔をする相澤は紙を一枚持っていて、ハルトと西京は怪訝な表情をすると彼の言う通り壁際に控え、聞く態勢をとった。


「相澤先生?どうされたんですか?」


飯田に先を促され、相澤はクマの濃くなった目を自分の受け持ちの生徒達に向ける。
彼の目が真剣で、A組の面々は梓を含めごくりと唾を飲んだ。


「…、今、それぞれの拠点の作戦部隊から直接連絡があった。当日の作戦について変更がある」

「変更、ですか」

「ああ。…常闇、上鳴」


まさか呼ばれると思っていなかった上鳴は「へ?」と素っ頓狂な声をあげ、常闇も少し目を丸くする。
相澤は少しだけ心配そうに眉を下げるが、すぐにいつもの厳しく真剣な目に戻ると、


「お前達2人は最前線に行ってもらうことになった」

「…はァ!?俺が!?」

「上鳴が!?なんで!?」

「常闇ならわかるけど、上鳴が!?」


本人の悲鳴の後に続いた芦戸と耳郎の叫びに上鳴は「みんな酷くない!?」と嘆くが、周りは驚きでざわついていて、それを沈めるように相澤が落ち着け、と目で周りを黙らせる。


「初動で力を借りたいそうだ」

「力を借りる!?」

「ああ、B組からも広範囲を足止めできる個性の2人が選出されている」

「広範囲足止めって…」


具体的になにすんの、と心配そうに眉を下げる瀬呂を始め、常闇や上鳴、他の面々も困惑の色を隠せなかったが、緑谷は驚きつつもなるほど、と頷いていて、


「敵の数は多い、初動で足を止めて囲んで一網打尽にするってことですね!」

「緑谷の言う通り、まぁ、そういうことだ」


不甲斐ない大人を助けると思って、やってくれるかと相澤に問われ、常闇と上鳴は戸惑いで目を合わせる。
何故自分たちが選出されたのかもわからないし、何をすればいいのかもいまいちピンときていない中で、そう言われても、任せてくださいなんて言えるわけない。

どうしよう、と上鳴が俯いていれば、『う〜ん…』と梓が何故か唸り始めて、周りの視線は彼女の方を向いた。


『常闇くんは選出される理由がわかるけれど、上鳴くんか…。』

「梓ちゃんまでそんなこと言うの!?」


何か悩んでる、と注目すれば梓までそんなことを言うものだから、ショックを隠さず上鳴はツッコんだのだが、彼女は慌ててブンブン首を横に振ると、


『ちがうちがう!…山荘の構造上、常闇くんが選出されたのはダークシャドウの特大技で何個かある地下への通用口を封鎖したいからなんじゃないかと思ったんだけど、』

「成る程、確かに俺のダークシャドウの“終焉”であれば、暗闇なら大きな通路も一気に塞ぐことができるな」

『でしょ?……ん、でも、セメントス先生で塞げない通路なんてあるかな?わざわざ常闇くん全面に出して塞がなきゃいけないことかな?』

「姫様、セメントスの射程外に地下神殿につながる巨大通路があります故、恐らくそこを塞ぐ必要があるのだと存じます」

『あ、そうなんだ。まあ、常闇くんはそこに必要なんだとして、何故上鳴くんが選出されたか、なんだけど、』


むう、と口を尖らせて考える梓に感化され、同じように緑谷も考え始める。
そして、


「敵に、厄介な電気系の個性がいるとか?」

『いずっくん、それだ。ハル、』

「定かではありませんが、恐らく敵部隊に“増電”の個性持ちがいると思われます。その対策のため、でしょうか」

『そうっぽいね…。ですよね、先生』

「俺は詳しくは聞いていないが、十中八九そうだろうな」


相澤に肯定されたことで、周りはやはりそう言うことか、と納得した。
当の本人達は、突然告げられた最前線への要請に戸惑うばかりだったが、自分たちが必要とされている理由とやるべき仕事がだいたいイメージがついたことで、少し安堵する。


「先生、俺、やります!」

「俺もやります」

「そうか…助かる。先方にも快諾と伝えておく。プロヒーローが側でお前達を守るし必要なのは初動だけだ。安心しろ」

「うっす」「はい」


2人から色より返事がもらえたところで、「最後にもうひとつ、」と相澤は最後にちらりと梓を見る。
その顔が、心配でたまらないような、息苦しそうな表情をしていて。
気づいたクラスメイト達は嫌な予感がした。

当の本人は能天気に首を傾げているが。


『?なんですか?』

「…東堂、お前は蛇腔病院側ではなくなった」

『へ!?』

「「「は??」」」

「山荘側の、しかも最前線だ」

『えぇぇ!?』

「「「は!?」」」


純粋に驚く梓と、思いっきり顔を顰めた爆豪、緑谷、轟の声が珍しく2度も揃い、耳郎は(うわ、嵐の予感…)と口元をひくつかせた。

案の定、梓の事なのに爆豪がずいっと前に出てくる。


「おいちょっと待てコイツはエンデヴァー事務所だろ。エンデヴァーが山荘側に移んなら、俺らも一緒だろうが」

「早とちるな、爆豪。エンデヴァーさんは病院側、お前ら3人も病院側だ」

「はァ!?」

「…どういうことですか、親父の企みですか」

「轟、お前も落ち着け。山荘側のエッジショット、ファットガムから直々の御指名だ」

「「「エッジショットとファットガム!?」」」


殺気立った轟に面倒くさそうな顔を隠しもせずそう告げた相澤に、寮内は騒然とした。
だが、ラーカーズとファットガムにインターンしている面々は一旦は驚いたものの、すぐに「なるほどね」と納得したように苦笑いする。


「エッジショットさん、俺の弟子だっつってたもんなァ〜…」

「ファットも、梓の事すげェ気に入ってるし…最強の矛や〜ってプッシュする姿が目に浮かぶぜ」

『ええ!?でも、だからって!私エンデヴァー事務所のインターン生ですよ!?』

「エンデヴァーさんからも正式にOKが出ている。お前の個性も広範囲制圧には向いてるしな」

『ええ!?でも私先生と一緒がいいです!』

「我が儘言うな」

「ちょっと待って梓ちゃん。先生とじゃなくて“僕と”でしょ!?」

「デクくん論点そこやないよ」

「ふざけんなあのクソ親父……」

「しょうがありませんわ、轟さん…。HNで依頼があれば、サイドキックを派遣する事はよくあることですし、」

「エッジショット!?ファットガム!?図々しいなァクソが!こんな能天気クソチビに頼んじゃねェよ…!」

「爆豪、落ち着け!半分梓の悪口になっちまってる!」


荒れに荒れる過保護三兄弟を無視し、相澤は「ま、そういうことだ」と黙って聞いていた側近2人を振り返った。
彼らも驚いたようで目をぱちくりとさせていたが、やはり大人である。
すぐに冷静さを取り戻すと、「九条殿にもお伝えし、姫様の位置を踏まえた上で各分家配置を考えたいと存じます」と頼もしげに口角を上げる。

その間も過保護三兄弟は荒れていた。


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