アニオリ◆災害救助1
アニメオリジナル(仮免試験前)前編

ヒーロー科1年A組は来るヒーロー仮免許取得試験に向け、集中的な訓練を続けていた。


「仮免の取得試験は例年、災害時における救助を目的としたものが多く出題されている。よって今日は、クラスを10名ずつの2チームに分け、仮免試験を想定した救助訓練を行う」


黒板に表示されたチーム分け。
梓はAチームだった。


『耳郎ちゃん、離れちゃったねぇ』

「戦闘訓練の時は梓と一緒がいいけど、救助訓練はポンコツだから別で良かったかな」

『失礼じゃない!?』


確かに救助は苦手だ。
コントロールできない個性で救助だなんて、試験に出るなんて、とおいおい嘆きながら、梓はコスチュームに着替え、グラウンドβに向かった。





「Aチームのリーダーにはクラス委員長である僕が任命された!みんな、雄英生に恥じぬよう、」


A組のリーダーは飯田らしい。
適任の抜擢だとは思うが、話が長くてこっそりダレていれば上鳴にそれを気づかれ「長ェよなぁ」と笑われた。


『うん、ちょっぴりね』

「梓ちゃん、今日は刀一本なん?」

『うん、救助訓練だから、最低限にと思って』

「そっか、戦う訳じゃねーもんなぁ」

「東堂、なんか自信なさげだな!」

『切島くんは自信が顔に溢れてる…!私ほんとに救助苦手なんだよぉ、試験に出るって、どうしよ』

「コントロールできないとキッツイよな」


切島と上鳴からぽん、と肩に手を置かれ、慰められていれば八百万からの状況説明が始まった。


「2時間前、地下のある大型ショッピングモールの最下層で火災が発生。現在火災は鎮火、中にいた人々の避難も終わっています。ですが、この地下街のどこかに要救助者が一人だけ残っているとの情報が入ってきました」

「俺たちに課せられた任務は、その要救助者を速やかに助け出すこと。ちなみに要救助者は、ダミーの人形だ」

「地下街全体が火災によって停電していますが、幸いにも非常用電源は生きてますわ」

「なら、明かりはなくても捜索ができるね」

「要救助者の捜索は時間との勝負だ。手分けして探すことを提案する」

「ちょっと待って、この辺り電波が届いてないみたい。恐らく、中継基地局も火災の被害を受けたという設定なんじゃないかな」


『お茶子ちゃんも常闇くんもいずっくんも何でそんなに冷静なの…そんな早く頭まわんないよ…』

「ハッ、戦闘脳が」

『かっちゃんひどい、でももう戦闘脳なんだと思う。救助訓練を仮想大型ロボ10体相手にする訓練に置き換えたりできないのかな…』

「出来るわけねえだろ、ピーピー言うな東堂しっかりやれ」


後ろからピシャリと相澤に怒られ『うう、ごめんなさい』とマップを立ち上げた梓に爆豪がクソ面倒くせェな、と近づく。


「いいか、ここが最下層だ。エレベーターはここ。階段はこっちとこっち。広ェから、ここでマップの主要部分を頭に叩き込め」

『うん、うん』

「あと、非常用電源は恐らく最下層の頑丈なとこ、あと覚えておいた方がいいのは、」

「爆豪が兄ちゃんしてる間に話進めようぜ」

「誰が兄ちゃんだ!!」


一通りマップの見方と主要部分を爆豪に教えてもらい、一人で復習をしている間に大体作戦が決まったらしい。
「梅雨ちゃんに賛成!」という麗日の声で梓はやっと顔を上げた。


『いずっくん、』

「うん、作戦はね、ってかっちゃん、どこ行くの!?」

「決まってんだろ、逃げ遅れたクソ市民を探すんだよ」

「待ちたまえ爆豪くん!勝手な行動をしてチームワークを乱すんじゃない!ここは蛙吹くんの提案通りに、」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「つ、梅雨ちゃんくんの提案どおりに、」

「捜索は時間との勝負っつったのはテメェらだろうが!この俺がソッコーでクソ市民を見つけ出して、格の違いを見せつけてやんよ」


そう言ってサッサと言ってしまった爆豪を飯田や緑谷が止めようとするが止まらず、結局一人では危ないとのことで、切島と上鳴も一緒に行ってしまった。

10分後中央階段前に集合だ!と言っていなくなった切島の言葉で、ああ各階手分けして探すのかと概要を悟った梓に麗日が「梓ちゃんが待ってって言ったら止まってくれたんやない?」と言うが、


『いやぁ、かっちゃんは先行っちゃうよ多分』

「そうかなぁ?」

『それより飯田くん、手分けするならチーム分けどうするの?』


私多分足手纏いだから、梅雨ちゃんとがいいな、とここぞとばかりに主張しようとするが、それよりも早く飯田が勢いよく頷いて喋り始めた。


「確かに!いつまでもここにいても仕方がない!俺たちも手分けして捜索を開始しよう!」

「救助に必要な個性を考えますと、緑谷さんと麗日さんと蛙吹さん、轟さんと常闇さんと梓さん、そして、私と飯田さんの3つのグループに分けたらいかがでしょう」

『ええ…梅雨ちゃぁん…』

「なるほど…このグループ分けはさすが八百万さんって感じだ」


できれば梅雨ちゃんが一緒が、と進言しようとしたところで緑谷がチーム分けを絶賛するものだから梓はもう何も言えなかった。
よくわからないけど彼的にも八百万的にもこのチーム分けがいいらしい。

ちらりと轟と常闇を見れば2人そろって手招きしていて、


『ごめん2人ともぉ、先に謝っとく…』

「戦闘訓練の勇ましさは見る影もないな」

「まだ何もしてないんだから謝るなよ」


苦笑する常闇と轟の後ろを追いかけるように、梓は仮想ショッピングモール内に足を踏み入れる。


「ダークシャドウは捜索能力もパワーもあるが制御に不安がある、だから炎を持つ轟と雷を持つ東堂が一緒で良かった」

『そうかなぁ…、轟くんの半冷半燃は事故現場でオールマイティに活躍するけれど、私の嵐は制御不能だからね、ダークシャドウが暴走した時に助けてあげられるかどうか…』

「確かにお前は緻密なコントロールに不安はあるが、俺らの中では1番危機察知能力が高くて身軽だ。俺は心強いよ」

『轟くん優しい神様私頑張る』


ぐっと拳を握った梓の笑顔に轟の耳が赤くなった。





地下に行けば行くほど、建物内は暗さを増していった。


「常闇、明かりの大きさ大丈夫か」

「ダークシャドウの制御に問題はない」

「東堂も、もう少し近寄ってくれ。お前は小さいしチョロチョロ動くから見失いそうだ」

『轟くんの中で私チョロチョロ動くやつだったの』


確かに動いてたかもしれないけれども、と少し不満そうにしつつも轟の右側にそっと寄る。
少しひんやりしていた。


『轟くん、腕掴んでていい?』

「っ、えっ、怖いのか、全然良、」

『いや、なんかあったときに腕引っ張るために。私一応この中じゃ一番反応早いと思って、』

「あ、ああ、そういうことか。びっくりした。いいぞ」


と、その時だった。


ーゴゴゴゴ、


地面が激しく揺れはじめた。


『えっえっ、何!?揺れてる!』

「地震か?」


思わず轟の腕にしがみつけばギュッと支えてくれる、が、ミシリと頭上が嫌な音を立てたのを梓は聞き漏らさなかった。

サッと上を見れば大きな亀裂がピシピシと勢いよく入っている。
これは、


『崩れる!!』


咄嗟に全て斬ろうと刀を抜くが、


「嵐は危ねェ!崩壊を助長するぞ!ここは俺に、」



ーズガンッ!!パキン、!


梓を後ろに突き飛ばすと轟は崩壊しかけた天井目掛けて氷の柱を作り、崩落を防いだ。


『すっご!』

「東堂、他になんか感じるか!」

『えっ』

「ほら、いつも言ってるだろ、空気の揺れとか」

『ああ、えっと…、ううん、全体が揺れまくってる、ここらへんもミシミシいってる、2人ともちょっと場所を移動しよう…!』


轟に促され、五感による直感で梓が逃げ道を先導し、数メートル動いたところで自分たちが先ほどまでいた場所の床がゴゴゴッ、という崩壊音とともに抜けた。


「「『………。』」」


ぎりぎりだった。
『こわ、』と一言漏らし常闇のマントと轟の左腕のきゅっと掴んですり寄ってくる梓に2人は((珍しい…))と思わず目を合わせる。


「っ、東堂、助かった」

「腕掴んでるけど怖かったのか?大丈夫か」

『うん、2人とも一旦壁側に座ろ。まだ空気が揺れてざわざわしてるから』


梓引っ張られるがまま壁側に寄ったところで、バチン!と大きな音を立てて電気が消える。


『んぎゃっ!』


思わず燈を灯すために雷を手から出そうとした梓を轟は強引に抱き寄せた。


「駄目だ!コントロール不足なお前の雷は、この狭い空間だと二次災害を引き起こしやすい!」

『あ゛、そうだった、ごめん』


轟は反省して雷を引っ込めた彼女を真ん中に挟んで3人で壁側に座った。
というより、梓が真ん中を譲らなかった。
どうやら心細いらしい。


『完全に真っ暗ってわけでは無いけれど、数メートル先はあまり見えないね…』

「あまり?全く見えねえんだが」

『私、夜目は利くんだよ』


こうも早く暗闇に目が慣れるものなのか、きっと家の事情もあるのだろうな、と轟と常闇は感心する中、彼女は眉を下げキョロキョロしていて。
戦闘時の勇ましさが見る影もなくて常闇は思わずクスリと笑ってしまう。

爆豪や緑谷が時々妹のように接するのがわかる気がする。

轟も物珍しげに、そして少しだけそわそわと梓との距離を詰めた。


『あぁ…いずっくんとかっちゃんが恋しい…』

「フッ、お前から弱気な発言を聞く日がくるとはな。あの2人が居たところで状況は変わらんぞ」

『常闇くん、いずっくんのぶつぶつとかっちゃんのお小言を聞くだけで安心することもあるんだよ…』

「東堂、今お前が一緒にいるのは俺だろ。俺を頼ればいいだろ」

『何言ってんのめちゃ頼ってるよ。見てこれ、ずっと腕掴んでる。ひんやりしてきたから今度は左掴んでいい?』


何故途中で轟がイラついたかもわからないし、それに対しなぜか梓が堂々と弱気発言をかまし、轟がん、と左腕を差し出すものだから、常闇はこの2人は天然なのだ、と考えることを放棄した。

暫くして、ミシミシという音が少なくなってきたところで梓がやっと轟の腕を離す。


『空気のざわめきが少なくなってきた…さっきの揺れによる崩壊は一通り終わったみたいだね』

「振動が起こってから約10分、余震がないところを見ると、やはり地震ではなく地下街のどこかで崩落が起こったと考えた方がいいな」

「轟、東堂、改めて感謝する。轟が氷結で頭上を塞いでくれなければ、俺は瓦礫に埋れていたし、東堂が引っ張ってくれなければ、崩れた階層とともに下階に落ちていた」

「仲間を助けるのは当然だろ」

『私轟くんに指示されてやっと動けたぽんこつだからお礼を言われることなんてないよ』


常闇くんと轟くんが冷静で、いかに自分が救助に関してぽんこつかがわかる、とため息を漏らす梓は珍しい。
轟は苦笑しながらも、「本当に救助苦手なんだな」と肩をポン、と叩いた。


「しかし、電源がイカれたのは痛いな」

「ああ、この暗闇ではダークシャドウの制御は難しい。万が一暴走したら、」

「更なる崩落が起きる、か」

『轟くんがずっと炎出せば、ダークシャドウは出せるんじゃない?』

「いや、やめとこう。瓦礫で埋もれた場所で炎を使えば、酸素不足になり、最悪一酸化炭素中毒だ」

『ヒイ!』

「東堂も、出来るだけ雷は出しちゃダメだ。少しでも手元が狂えば、更なる崩壊と火災を招く危険性がある。俺も、お前も、絶対必要な時以外に炎と雷は出さねえ、約束できるか?」

『約束できる!するよ!絶対出さない!怖い!』


梓が轟の注意喚起にぶんぶんと首を縦に振る中、常闇はやっと暗闇に慣れてきた目で辺りを見渡していた。
改めて、ひどい崩落が起こったことがわかる。
そして、建物全体が軋んでおり、更なる崩壊の可能性が高いことも。


「この状況での訓練続行は不可能だ。ここで待っていれば、先生方の救助が来るのでは無いか?」


流石にこの崩落はアクシデントだろう。
二次災害が起きかねないこの危険な状況で、訓練の続行はない、という常闇の見立てに「そうだな、確かにそうかもしれない」と轟は頷くが、


『え??』


間で縮こまっていた梓が不思議そうな声をあげた。彼女の目はきょとんと、まんまるとしていた。


『要救助者を助けなきゃ』

「「え?」」

『訓練だとか関係ないよ。本番じゃこういう状況は腐るほどある、と思うし』

「「……」」

『私、救助下手だけど、やれることはあると思うから、最下層まで行くよ。みんなも心配だし…』


1番自信なさげな癖に。
訓練を訓練と捉えず立ち上がった梓に常闇と轟は目を合わせて、少しだけ小さくため息をついた。


「…相変わらず修羅の道を躊躇いもなく進むのだな、お前は。確かにこういう状況は、ヒーローになればあり得るだろう」

「もしかしたら、この崩落も訓練に組み込まれてんのかもしれねえな」

「二次災害からの脱出か」

「ああ、東堂のいう通り、クラスの奴らが心配だ。さっきの崩落で、誰かが怪我をしているかもしれねえ。みんなの無事を、確かめないと」

「そうだな。その意見に全面的に賛成する」


立ち上がった2人に梓はそうこなくっちゃ、と地下街に入って以来初めて笑みを浮かべると、2人と共に仲間を探して暗闇を歩き始めた。





歩き始めてすぐ、壁にぶつかった。
文字通り、瓦礫の壁だ。


『ううむ…進めない』

「こういう時、麗日か八百万がいればな」

「光さえあれば…」

『ねえ2人とも、嵐纏わせて斬っちゃダメ?ギリギリ斬れそう』

「「やめろ、崩落する」」

『うう…じゃあどうするの』

「無い物ねだりしててもしょうがねえ。一個ずつ、どけるぞ」


そう言って、グッ、と轟が力強く踏み込んだ、その時だった。


ーミシ、ゴゴゴッ!


足元が崩れ、瓦礫の山が雪崩、空間が崩壊し始めた。


「しまっ、」

「轟!」『轟くん!』


渦中にいる轟に、常闇と梓が手を伸ばすが、
常闇の焦りがダークシャドウの暴走に繋がり、マントの下からゴウッと一気に暴走し始める。


ーヴアアアアッ!!


モンスターと化したそれは、動くものや音に反応し、無差別攻撃を繰り返す。


「落ち着け!!ダークシャドウ!!」


林間合宿で見た時と同じ、やはりパワーは圧倒的なものだった。
暗闇で視界が悪い、足場も悪い中でダークシャドウの攻撃を避けるのは困難極まりない。
思わず轟がふらついてしまったところにダークシャドウの腕がぐわりと襲ってくる、が、


ーダンッ!!


ダークシャドウの体の一部を踏み台にしてスピードを上げた梓が轟を突き飛ばしたことで、2人はドサッ、と勢いよく瓦礫の上に転がった。


「東堂…!」


地面や床が崩れるのを防ぐためとはいえ、この視界不良の状況で暴走状態のダークシャドウの体の一部を踏み台にするなんて。
轟と常闇が、窮地での梓の身体能力に目を見張るが、彼女は止まらない。
すぐに立ち上がると同じ流れの中でいつのまにか抜刀しており、


ーガキィンッ!!ガキンッ!!


ダークシャドウの二撃目、三撃目を刀の峰で受け流した。


『ッ〜!腕が痺れる!!』

「東堂、下がれ!ダークシャドウが、」

「鎮まるんだ!!ダークシャドウ!!」


常闇の決死の叫びも虚しく、ダークシャドウがもう一回り大きくなる。
そして、しなやかなその腕が轟を襲おうとして、


『とっどろきくん…!』


ーダァンッ!!


『う゛っ!』

「「東堂!!」」



轟を庇った梓が壁に叩きつけられ、ずるりと座り込んだ瞬間、ぱちん、と電気がつき、ダークシャドウの暴走はおさまった。

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